■The back
〜わるなすびサイト966キリ番〜







母星で大人気だという噂の小隊グッズが届いた。

フィギュア、ストラップ、ぬいぐるみはもちろん、各種文房具や菓子、子供向の自転車に至るまで、ケロロ小隊は様々なグッズになって売られているらしい。



「いっぱしの人気者ってトコだな」
配達されたばかりの箱を開けたクルルの第一声がそれであった。
開封に立ち会ったケロロは夢中で「小隊グッズ」を吟味し、取り分を抱えて早々に引き上げた。
ごっそりと目ぼしい物の消えた大箱。
クルルはそれをニヤニヤと冷やかす様に覗き、本国では在庫処分に困るという自分のグッズを一つずつ取り出してみる。
誰が自分の顔で儲けさせてやるものかという思いがある故、商品の売れ行きが悪い事はむしろクルルにとっては歓迎すべき事だった。
不特定多数に好かれるのは幸福なようで、実はとても息苦しい。
多くは勝手な期待を寄せ、そこから少しでも外れる言動をすれば、簡単に裏切られたと大騒ぎする。
「だから俺様はお前らになんか好きにならせてやんね」

しかし、クルルの主張のごとく、常に嫌われ続けるためには意外に努力が必要である。
英雄の転落。そして悪漢がふとしたきっかけで立場を浮上させるまでのスピード。
それは多くのデータが語るところによれば、前者、後者共に拮抗した数値を導き出す。
どちらをよしとするか。全ては生き方と美学の問題だろう。
ただ、「意外にいい人」という位置へ立場を浮上させてしまった悪漢は、転落した英雄など問題にならないほど不幸だとクルルは思う。

と、箱の奥にクルルはこちらを睨みつけるギロロを発見し、ぎょっとした。
それはギロロの全身がプリントされた、宇宙低反発ウレタンを使ったクッションだった。
「また…… 色んなモノを作るもんだ」



敵陣営に『戦場の赤い悪魔』と恐れられたギロロは、本国では勇猛果敢な英雄として人気があった。
とはいえ、この等身大よりひとまわり小さい縮小プリントのクッションは、一体どんな層を対象として売られているのだろう。
クルルは依然としてこちらを睨んでいるギロロを、狭苦しい箱から取り出した。
抱き枕にするのは子供なのか、独身の女なのか、それともギロロの強靱さに肖りたいという若い兵士達か。

「……残念だったなァ、オッサンを抱いて寝るのは俺様だぜェ」
早速ベッドに運び、心ゆくまで玩んでやろうとパッケージの袋を破ろうとした時、クルルはその背面に、自分の姿がプリントされている事に気付く。

「なんだよ、……なんてこと、しやがる……」


クッションの表と裏。
そこには英雄としてのギロロと、悪漢としてのクルルがいる。
おそらく企画元の考えは、売れ行きのよくない物を売るための抱き合わせという、あまりに分りやすい所にある。
しかし、そんな単純な意図を外れ、クルルには思わぬダメージとなった。
善と悪、陽と陰という表裏一体の近さという意味では、幸福で喜ぶべき事なのかも知れない。
しかし、それにも増して、まるで曖昧にしておきたかったギロロとの関係を、目の前に突きつけられた気がした。

「こいつを作った連中全員、俺は恨んでやるぜェ……」

クルルは溜息と共にベッドに転がり、一度凹むと元の形を取り戻すまでに時間を要するクッションを蹴り飛ばす。




自分の目の前には、無限の空間が広がっている。
しかし誰しも、自分のすぐ後ろにあるものを、振り返らずに見る事はできない。
この世で最も遠い場所。
それが自分の背中そのものであることを、クルルは今、噛みしめている。

一度凹むと立ち直りに時間がかかるのは、低反発クッションに限った話ではない。



                        
                       <終>






2007/05/13

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この『低反発クッション』は劇場版2公開時にファミリーマートやバンダイのサイトで売られていた物です。こんな話を書いてますが、私は本人じゃないので表裏一体はありがたいです。蹴り飛ばすなんてとんでもない!