■RADIO DAYS
 (アニメ第82話 「623 僕のラジオに出ない?であります」より)

 

 



『623の俺ラジオ』の一日アシスタント公募企画は、激戦の末クルル子ちゃんが見事に勝利を勝ち取った。
本来覆面DJである623の番組故、企画自体も何となく「やらせ」や「話題作りのための賑やかし」的な空気を纏っており、エントリーした少女達も多少の疑惑は感じていた。しかし彼女達も「駄洒落暗算」という類稀な特技で優勝したクルル子ちゃんには敬意を表し、潔く一日アシスタントの座を譲ったのであった。

とはいえDJ623はイコール衆知の326先輩であり、クルル子ちゃんの中味のクルルとは元同居人でマブダチという、何も今更アシスタントなんかしなくても…… という間柄で、その辺りにはやはり「大人の事情」とやらが絡んでいるのであろう。
そして波瀾含みのオンエア日がやってくる。



「やー、コンバンハ、623だよ。今日はこの前行われた『一日アシスタント公募企画』のオーディションを勝ち抜いた、奥東京市のクルル子ちゃんに来てもらいましたー!」
623に紹介されたクルル子ちゃんは「ハーイ、ヨロシクお願いしまっす〜」と思いきりシナを作って返事をする。
可愛く絡んだものの顔の見えないラジオ故、単にカマっぽいお兄さん声にしか聞こえないのだが、それ以前にケロロ小隊が放送したラジオ番組『快傑・ドーパミン!』のおっさん声の宇宙アイドルよりは…… おそらく許される範囲に違いない。

「さて、そのクルル子ちゃんだけど、簡単に自己紹介、してくれるかな?」
623は流石に慣れたものである。これまでにも数多のゲストを相手にしてきただけの事はある。
「エート、自己紹介ですかぁ? クルル子、恥ずかしいから秘密にしたいんですけどォ〜」
「じゃサ、好きな食べ物とか、好きな色とかから、どう?」
「いや〜ン、はっずかしィ〜! クルル子が好きな色はCRAZY&MAD&DANGEROUSな黄色デース! 好きな食べ物は当然カレーだろ? 買えよカレ−付前売券」
何気に語尾だけ素に戻っている。
「あははクルル子ちゃん、ダメだよ宣伝は。じゃこの辺で一曲いこうか。クルル子ちゃんはどんな曲が好き?」
623はDJ歴も長い。クルルの暴走も楽しみながら上手く絡み、番組を進行させる。
「そうねェ、アタシはやっぱ、ファンクかな〜」
「ファンクいいよネ、歴史もあるし、何より楽しいし。じゃ基本中の基本、行こうか!」
「ハーイ、Kool&The GangでJungle Boogieだぜェ♪」

そんなこんなでファンクの中でも古典である一曲が流れる。

「でさぁ、クルル子ちゃん、ファンクは80年代以降、色んなジャンルに枝分かれしちゃう訳なんだけど、守備範囲は?」
この辺りは一応仕込み通りの流れ。アシスタントとはいえ、ほぼ素人ゲスト扱いだ。
だがクルル子ちゃんはそのままルーチンで済むような少女ではない。
そして623もそれを承知で、秘かに今後起こりそうな波瀾を楽しみにしている。
「ン−、ディスコ系も好きだしィ、アタシ、スクラッチもやるからHIP-HOPの元ネタにしたりィ」
「スクラッチ? クルル子ちゃんはファンク友達も多いみたいだけど、みんなもDJやるの?」
「さぁ、それはわかんなーい。みんなそれぞれヨ。聴くジャンルも微妙に違うしねー」
そしてCMタイム。
ここを挟んで後半にハガキを読み、再度一曲流して今日のオンエアは終了予定だった。

「ええと、じゃ今日のおハガキ。奥東京市のナッチーさん……と言えば常連さんだけど、今日はえーと」
「ハァイ、奥東京市の『ナッチー大好き(はぁと)』サンのおハガキでぇす……って読もうと思ったけど、チッ、読まねェよ」
「クルル子ちゃ〜ん、そんな意地悪言わないで読んであげてよ〜」
「やなこった〜」
「アハハハ、キミの身の回りの楽しかった事、みんなに知らせたい事、お悩み相談、ポエム、何でも書いて送ってね! リクエスト待ってるよ」
ディレクターが盛んに合図を送って来る。そろそろ崩壊の序曲、といった所かも知れない。
しかし623の方は面白くてたまらないらしく、軌道修正しつつ楽しんでいるのが見え見えである。
「じゃ、次の曲行こうか。次はそういう古典をベースにした、ファンクの発展系になるのかな?
 P-Funk All Starsで Flash Light !」

「ライヴ盤だね。踊りたくなったりして」
「そーネ、腰にクるのがファンクなのよネ〜」
「じゃ、クルル子ちゃんからおハガキの宛先を!」
「ハーイ、応援待ってま〜ス、郵便番号@@@-@@@@、奥東京市……」
「おハガキを読まれた方には、ンと、『623の俺ラジオ』特製サイン色紙なんか当たるかもね。待ってるよ!」
残り時間はあと少し。
取りあえず大きな波瀾もなく番組は終了しそうだった。

「さて今日はありがと、クルル子ちゃん。こういう企画も楽しいよネ、またいつかやろうね」
「ハーイ、お招きありがとうございましたァ!」
「でもサ、ホントに詳しいよね。友達とかの影響? 周りにこれぞファンク人、みたいな人がいるとか」
「ん−、そうネ〜。アタシの知ってるヒトのお兄さんがネ、若い頃恋人をウチに連れ込む度にネ、ホラ、色んな音を誤魔化すために、とりあえず『重低音の激しいやつ』つって、ブラックコンテンポラリーかけてたって。そういう人なら知ってるかナ」
どこかで聞いたような話だ。
「へー、すごい青春してる話じゃん。ブラックコンテンポラリーって言ったら『ブラコン』だよね」
「そーそー、『ブラコン』なのー♪ そのヒト、とてつもなく『ブラコン』なヒトなのー♪」
これが一部のリスナーには大受けしたであろうエピソードその1。
そしてその2は……

「じゃ、最後に質問するネ。ファンクってほら、裾野広いからサ。クルル子ちゃんはどんなジャンルが一番?」
「うーんアタシはぁ……」
指を顎に当てるクルル子ちゃん。
残り時間はあと一分。
放送は波瀾含みで始まったものの、この分なら何事もなく終われそうだ、そうスタッフが胸をなで下ろしかけた時だった。

「クルル子はァ、腰にクる長〜い『ダンコン』が大好きなの〜! もーキャンディみたく、口に含んで舐めちゃうくらい大好き〜!」
―――――次の瞬間、623は辺りの空気が固まる音を聞いたらしい。



その日の放送は623には大受けしたものの、その後二度と『一日アシスタント募集企画』は行われなかったという。
ちなみに『ダンコン』は『ダンスコンテンポラリー』の略である。
だが音声のみのメディアでは少々発音に勇気のいる言葉であった。

まあ、一部には「何だ? 弾痕? 奴め、また訳のわからん事を……」等と独特な感想を持ったリスナー(仮名/ラジオネーム『ナッチー大好き(はぁと)』さん)もいたようではあるが……

 

                        
                       <終>







*「おっさん声の宇宙アイドル」は上記ではあんな事書いてますが「むしろそこがいい」…ですよね。