■装甲剥離実験

 

 



ずっとSSを書きながら「何でキミら言いたい事を素直にハッキリ言わない?」と非常にイライラする事が多かったのを踏まえ、今回はひとつの実験をしてみようかと思う。
キャラの性格要素のひとつである「ツンデレ」を排除し、素直変換した場合、話はどんな展開を見せるか。
前々から興味津々、過去に書いた様々な題材や人々で試してみたい。
(過去SSを材料に使っていますので未読ネタバレやカップリングに御注意ください)

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赤文字:原文

青文字:素直変換後



●『The End of Summer』より

ギロロと夏美という二大ツンデレキャラメインSSの、ツンデレ部分排除の実験です。
が、話をややこしくしたツンデレ氏は、この二人に限らなかった事に気付きました。

「邪魔して悪かったな」
「そう思うんなら来るな、ってこった」
クルルのクックックッという不愉快な笑いを背に、ギロロは研究室を後にした。
「期限つきの無理難題とくりゃ、俺様の腕が鳴るってもんだぜぇ……」

いきなり冒頭でツンデレしています。まずここから変換してみようかと。
 ↓
「お邪魔しました」
「いいえ、期限つきの無理難題は大歓迎です。むしろ腕が鳴ります。今すぐ取りかかりたいくらいです。また是非お立ち寄りください」

これなら意志の疎通も楽々で即話が進んでくれそうです。
……すごく気持ち悪いですが。


次はこのあたりです。
ここで全てを話す訳にはいかない。ギロロは決断する。
「そうだ。俺はいつまでも地球侵略を進めない貴様の体たらくにほとほと愛想が尽きた!」
言えるものか。
何より自分の青臭い私情が、小隊の目的を阻害するなどと。
このまま地球に留まれば、いつか取り返しのつかない造反を犯してしまうなどと。
そんな軍人として恥ずべき局面に、連帯責任の戦友を巻き添えにするのはごめんだなどと。

 ↓
ここで全てを打ち明けてみる事にした。
「夏美の事で迷惑をかけてしまいそうなので、わたしはここを一人で去ろうと思います。でも本当は寂しいので本心から行きたい訳ではありません。わざと苦言を呈してはいるけれど、それは全部あなたに私を追い出させるための方便でしかありません。できたらそこにも気付いていただけたらなあ……と」

全く、殴ってやろうかと思うようなギロロです。
しかしここで全部言ってしまってるので、この先の展開はケロロが
「そうでしたか! あなたの本心に気付かずに申し訳ない。しかしそれは考え過ぎというものです。我々は戦友であり幼い頃からの友達じゃないですか。そんな水臭いことは言わず、みんなで助け合いましょう。そう、一人は皆のために、皆は一人のために、です。夏美殿が好きなら我々がお膳立てしましょう。こうなったら全員でラブラブGOGO大作戦です」
……という事になり、いきなりENDマークが見えてきました。
あの夏の日、毎夜「なかなか終わらない」と必死で書いていた私は一体。


で、本筋っぽい所。
まるで涙を堪えているように唇を咬み、大きなバスケットをギロロに押しつけ、低く震える声で「あげる」と告げる。
「ちょっと、予定が狂っちゃって」
気丈に作った笑顔は固く、明らかに朝に見たそれとは違っていた。
 ↓
涙を堪えず夏美は泣いていた。
「326先輩とはダメだったようです。とても悲しいです。故にたくさん泣きたい。326先輩のために早起きして作ったお弁当は、あなたに差し上げます。何故ならわたしはあなたに慰めてほしいのです」
この後の展開十章分ほど、要りません。ここでENDです。
っていうかこうやって実験するまで、割と頭の中では「ツンデレ要素排除=話が楽に展開する」と思い込んでいましたが、ここまで素直だと恋愛シーンにすら持ち込めない事に気がつきました。
なんか英語の教科書も思い出します。


思ったより早くENDが来てしまい、変換し足りないので実際のEND部分をいくつか弄ってみようと思います。(いや、だってそもそもそれが楽しい企画だし)
「く、くだらん。……し、しかし夏美がどうしてもと言うなら」
「何? 忙しいならいいのよ?」
「い、いや、行く」

 ↓
「お待ちしておりました! もう即答でOKス。どこまでも行きますあなたとなら!」
一行で終わってしまった。なんて簡易な意志の疎通なんだ
「な、何だ突然。俺は地球侵略を成し遂げるまで、遊んでいる暇など……いや、夏美がどうしてもどこかへ行きたいというなら、つきあってやってもいいが……」
 

コレも上ので行けますね。
「お待ちしておりました! もう即答でOKス。どこまでも行きますあなたとなら!」
シンプル・イズ・ベスト。
「そ、そうだな、悪くない。……ペ、地球侵略のための視察も兼ねて……」
 
ついでにコレも。
「お待ちしておりました! もう即答でOKス。どこまでも行きますあなたとなら!」
シンプル・イズ・ベスト。

こうして見ると確かにツンデレは傍目にイライラするかも知れない。話の展開を混乱させ、無駄に容量を食うかも知れない。……でも、変換後ギロロなんか半透明の袋に入れて燃えるゴミの日に出してしまいたい(涙……というのが本音です。いや、ギロロに限らず夏美もクルルもですが。
程よい葛藤が男を上げ、女を危険にする。
これは今回学びました。



●『RHYTHM RED BEAT YELLOW』より

今度はクルギロで実験してみます。

元SSは自分で書いて最も苛々したツンデレモノでした。

尚も考えようとしたギロロを、クルルの言葉が完璧に打ちのめす。
「さっさとどいてくれねェか? シーツ取っ替えるからヨ」
 ↓
尚も考えようとしたギロロに、クルルが言葉をかける。
「よく眠れましたか? 起きた時なぜあなたが横にいるのかわからなくてびっくりしました。でもそれはそれで善しとしましょう。今朝はこんなに爽やかで、幸福なのですから。さあ新しいシーツに取り替えましょう」
気色悪さもさることながら、即ENDマークが出てしまいました……

でももっと変換して遊びたい(既に実験でも何でもなくなっている)のでもうちょっと。

ギロロは何も言わず、ゆっくりとベッドを降り、クルルの前を素通りしてドアの前まで行く。
背中に全神経を集中してしまうのは、引き止める声を期待しての事なのか。
しかし、ドアが開いても、クルルは何も言わなかった。

 ↓
ギロロは何も言わず、ゆっくりとベッドを降り、クルルの前で立ち止まった。
「何故そんな連れない態度なのですか。わたしに飽きてしまったのですか。できれば理由を聞かせていただきたいのですが、聞けば聞いたでショックを受けてしまうかも知れません。もしわたしが泣いてしまったら、あなたの所為ですよ」
こう聞かれたらやはり答えざるを得ないでしょう。
「昨日の今日でわたしがあなたを嫌いになる筈がないでしょう。すぐそういう風に考えるのがあなたの悪い癖です。いいですか? あなたはこれからわたしとこうなった事で悩む、きっと頭抱えて悩む。愛しいあなたをそんな風に悩ませると思うと、わたしの胸は切なく痛むのです。だからわたしはあなたのために記憶を消してあげるつもりです」
そうそう、そういう展開でした。
「ええっ、記憶をですか? でもそれじゃあなたはどうなるのですか。あなただけいつまでも憶えているのは辛いし、気の毒すぎます。それにわたしもちょっと心苦しいです。いっそ二人で忘れる事にしませんか?」
このへんは本編の通りですね。では続きをシミュレーションしてみましょう。
「それはちょっと困ります」
「ええっどうしてですか?」
「だってわたしの大事な記憶ですから」
「そんなこというならわたしの記憶だって大事じゃないですか」
「あなた、悩みませんか?」
「悩むかも知れませんけど……」
「ほら見なさい」
「でも、なんか」
「なんかじゃなくて」
「ええでも」

ああっ、結局ツンデレじゃなくてもグダグダするのか!
これは新しい発見かも知れません。
私はこれまでこの二人に関しては、「ツンデレ」という要素のみが話を停滞させ、かつ複雑にするのだと思い込んでいました。しかし意外とそればかりでもなかった様です。(いやむしろ話が不味い、展開させ方がヘタってのはまあ…… 仕方ないとしても)

が、しかしやはりENDマークが脳裏に出るまでの時間は恐ろしい程短縮されるという事で、今後はSSをUPする度に横に「脱ツンデレVer.」というやつを置いておくといいかも知れませんね。
そうすれば結論までおそらく3秒くらいで到達できて、しかも5kbも要らず……って、それ一体どういう意味が?
素直変換をかまされたキャラは全員、勘弁してくれという程不気味です。元キャラの面影すらありません。二次創作としてそれは大きな問題かと思われます。という訳で却下です。当たり前です。
病み上がりというのは、自分でもよく分からない寒々しい事を色々考えてしまいがちです。全くもう。


余談になりますが、今回の実験で思い出した事があります。
ほら、泉谷しげるとか北野たけしとかが挨拶代わりに「バカヤロー、泉谷だ!」とか「コノヤロー北野だ!」とか言うじゃないですか。あれについて「通常の言葉に訳したら『こんにちは、泉谷しげるです』とか『ごきげんよう、北野です』って事になるんだろうな」てな事をよく言ってたのです。
何だかとても腑に落ちました。
夏美の『ボーケーガーエールー』みたいなもんでしょうか。
ツンデレ道、まだまだ奥が深いです。


                        
                       <終>