砂漠には風が吹き渡る。
地上は既に夜明けだった。
『トリニティサイト』へと再び向かう空輸ドックの冬樹は、今日の暦を見て、不思議な符合に驚く。
「……今日は、7月16日なんだね」
「じゃ、今日が……」
冬樹と夏美はメモリーボールの内容をモニタ越しに見た。
彼の言葉はまだ難しい。しかし、異星人のニュートラルな立場から語られる地球は、二人にとって手厳しく、そして新鮮だった。
オルルの、自分の生身の肉体を引き換える程の地球への思い。それが母星への叶わなかった願いの代償行為であれ、地球人である姉弟には切なく、そして主観が支配する生身の言葉故に、激しく心を揺さぶる。



アンチバリアに守られた宇宙船が新たに一機、今度は囚人護送の任務を帯び、降下する。
事務的な挨拶と敬礼を交した後、宇宙船は再び空へと消えた。
全てが終わった。

ケロンの宇宙船でこの場を去るまで、ノルルはオルルの言葉を聞き、兄へ何事かを熱心に話し掛け続けていた。
ケロロが受け取った通信によれば、ガルルが彼女のために弁護士を手配したという。
彼女の罪はそれ程重くはならないだろう。
ノルルの存在は、唯一、オルルの『乾きの大地』時代に関わっている。
故に、彼女だけがオルルの素に近い部分を、より多く知っているという事なのだろう。
しかし、それと関わりの深さは別だとドロロは感じる。
肉親は肉親であるが故に、血の繋がりを過信し、それに甘えてしまう。
ノルルが掴まえたかったのは、オルルが何を目的に生き、何を信念として死んだかという事より、共に暮していた頃の兄の面影と尻尾だったのだろうと思う。
だからこそ時には齟齬が生まれ、軋轢の傷は深くなる。
自分と弟のように。
あらゆる事を乗り越えたオルルはそんなノルルを受け止め、彼女の思いを吸い込んだ。
たとえ彼女が彼を理解できないままであったとしても、すれ違いを承知しているオルルは、ノルルに愛情を持って接する事ができる。
そしてノルルの方も、そんな兄の気持ちを愛情そのものとして、全てを越えて疑いなく受け入れる。
必要なのはそういう事なのだ。

ドロロは『乾きの大地』での混乱から、ずっと手元に持ち続けている弟の手紙の事を思う。



宇宙船が飛び去るのを砂の上で見送っていたギロロは、トリニティサイトの記念碑に凭れて座っているクルルに気付いた。
「……もう、話は済んだのか?」
オルルの事だ。
ギロロは共闘した事で、既に彼を殆ど戦友のように感じていた。
「ああ」
クルルの分厚い眼鏡はどこを見ているのか、見当もつかない。
大地を染める朝焼けの光を反射し、レンズはきらきらと光っている。

「……ライフルを直さなきゃな」
「覚えていたのか」
「……あんたを地球へ残してきて、正解だったぜェ」
「俺は死にかけたぞ」
「撃てと言ったのはあんただ。……謝んねェよ、俺は」
「……俺は、貴様のやる事に抜かりはないと思っているからな」
言葉を最後まで聞く事なく、唐突にクルルの腕が身体に巻きついてくる。

「そんな可愛い事言ってると、しまいに寝首、掻かれるぜェ?」
その腕に力が込められ、更にぐいぐいと身体を締めつけた。
しかしギロロはされるがままになっている。
たった三日の不在でありながら、心のどこかでずっとこうしたいと思っていた気がする。

―――――あなたの中にいる彼は、あの頃よりずっと楽しそうだ。
―――――ああ、彼は今、満たされているのだな。

オルルの言葉が甦る。
しかし、それは一方的な物の見方だとギロロは思う。

 むしろ、満たされているのは俺の方かも知れない

その証拠に、ギロロは何度も組み変えられ、縋ってくる腕を心地よく感じている。
あの、永遠にも感じられた、銃を構えたクルルと対峙した時間の愕然とした気持ちが反芻される。
早く帰って来い、あの時の俺はそう言った。
そしてこいつは帰ってきた。
それならば、本当は俺の方がこんな風に抱いてやるべきなのかも知れない。
縋る黄色の身体に、腕を伸ばすべきか伸ばさぬべきかを迷いながら、ギロロは伝わる熱にしばし身を委ねる。

しかし、クルルの手が背中から尻へと伸びた時、ギロロは思わずその身体を引き剥がそうとしていた。
「な、なな、何をする! こんな所でよせ!」
「やなこった。俺様、よせと言われて素直によす『いい奴』じゃないんでね」
言葉は相変わらずはしっこい。
しかし、ギロロはその涙ぐましいまでのクルルの『偽悪』の理屈が、今日は嫌に腑に落ちてしまい、拒否できないのであった。



碑から少し離れた地点では、冬樹と夏美が空輸ドックから降り立つのをケロロ達が迎えていた。
「軍曹!」
「ボケガエル!」
「冬樹殿、夏美殿、心配かけたであります。ちょっと遠出してたんでありますが、残念ながら土産はナシって事で……」
「それより何? さっきから聞こうと思ってたんだけど、何かあんたたち、色が変よ?」
「……え?」
そういえば今の今まで、余りに動転する事件の連続で忘れていた。
オークション会場でクルルとドロロに変装するために、モアにメイクを頼み、そのままになっていた事に気付く。
「あ−ッ! すっかり忘れてたァ!」
「僕のオシャレな体色が台なしですぅ!」
思えば今回の自分達は青息吐息で苦労した割に、あまり実りのある結果を出せなかったのではないか。
そう思うと急激に疲労感が込み上げる。
「……なんか我輩、もう疲れた。お家、帰りたいヨ−であります」
「ってゆーか『疲労困憊』?」
「水ばっか飲んでお菓子も食べられなかったですしねぇ……」
そんな彼等を呆れた顔で見下ろしながらも、冬樹は笑顔で言った。
「そうだね、帰ろう。みんなで」





トリニティサイトは再び眠りについた。
砂漠にはただ乾いた風が吹き渡るのみである。
赤土の山を見渡す塔のようなグラウンド・ゼロの碑と、背の低いサボテン。
それがそこにある全てであった。

しかし、フェンスは強固にその場所を守り続けている。
そこには、地球人類全てを吸い込もうとする、深く底知れぬ無の穴があった。
トリニティサイトを自身の墓に選んだオルルは、同時に墓守の役割をも選択した。
強固に彼はその場に居座り、祈り続ける。
彼の信じたこの惑星の友が、誰ひとりとしてこの『無』へと吸い込まれる事のないように。

彼等の未来が、賢く豊かなものであるように。
なぜなら、地球は『乾きの大地』の弟なのだから―――――


空輸ドックとケロン最速の宇宙艇に別れて、オルルの友人達は帰路につく。
無の世界に戻ったアラモゴードを後に。



 
 ゼロロ兄さん、ずいぶん御無沙汰になってしまったけれど、元気ですか
 惑星間オークションへの件を軍から依頼され、兄さん達の入札を知りました
 僕は協力を惜しまないつもりで、この手紙を託します
 
 地球という惑星は、いろいろと面白いところなんだってね
 僕の勤める博物館にも、地球に関する資料が沢山ある
 今度のオークションに入札しようと思ったのも、僕が地球についてもっと知りたいと思ったからで
 そしてそれはきっと、兄さんがそこに居るからなのだろう




数時間前、クルルと対峙したオルルは、懐かしい旧友に自分の中にある全てを委ねていた。

―――――俺はもう少しで奴になるところだった。
―――――クルル、お前はやはり恩人だ。

「そりゃ骰子の当り目みたいなもんだろ? あんたがあいつみたく名門の養子に吸い上げられて、ケロン人として育てられたって、あんたがあいつになるとは限らねぇよ」
互いに口数は少なかった。
しかし、彼等にはもう殴り合う必要も
ない。
塞き止められていた時間が流れ出した時、長く彼等の中にあった悲愴や悔恨はいつしか醗酵し、別のものになっていた。

「で、奴を許すのかよ?」

―――――まさか。俺は奴こそこの手でぶん殴って、腐った頭の中を掻き回してやりたいね。

オルルは笑う。
クルルも堪え切れずに笑い出した。
「ジジイは神にゃなれねぇな。……でも、同感だ」

それが彼等のニ度目の別離だった。
オルルの中では、意気消沈していた幼い表情に、今現在の可笑しそうに笑うクルルの姿が上書きされる。
彼等の間に、もう隠し事はない。



ゆったりと空を行く空輸ドックの中。
すっかり疲れ果て、床に座り込んだまま寝入ってしまった冬樹の姿があった。
夏美は一刻も早く砂だらけになった身体を洗いたいと主張し、ケロロ達の高速艇に乗り換えた。
冬樹に毛布をかけた後、ドロロはシートに凭れて音楽を聴いているクルルに気付く。
彼の耳腔に仕掛けられた装置は既に取り去られていたものの、ヘッドホンはまだ壊されたままであった筈だ。
「クルル殿」
案の定、クルルは即振り返る。
「ああ?」
「ギロロ殿と一緒に、高速艇には乗らなかったのでござるな」
速度はそれ程遅くないにしろ、最速とされる高速艇には及ばない。
帰路につく時、ドロロは当然クルルがそちらを選択するものだと思っていた。
「散々乗ったからな。も、飽きた」
「そうであった。クルル殿は囚われの身でござったな」
「クックックッ…… あんたが残ってくれて助かったぜェ」
モアに届いた暗号通信は、状況を知る者を介する事を必要としていた。
ドロロはクルルに起こった事、そして「出品者」がいかなる者かを皆に説明する役目を果たした。
今思うと、今回の一件には本当に様々な事象がうまく動いたのだろう。
発端となったダイレクトメールの誤配ですらが、不思議な運命の導きにも思えてくる。
ドロロはひとつ、どうしても質問してみたかった事を、口に出してみた。

「それにしても、『Love & Peace & Justice』とは、大胆でござる」
返事はない。
「クルル殿の『Love & Peace & Justice』とは」
「……? 何だァ?」
ヘッドホンから伸びていたコードを引き抜くと、クルルは興味深気にドロロの方を見た。
「オルル殿のそれより、更に遥かで果てしない」

それは、クルルがよく玩ぶ言葉遊びとは別種の、抽象的な物言いだった。
「先輩はお坊っちゃんだからな、他人をキレイに解釈しちまうんだ」
「そうであろうか。クルル殿は拙者から見て」
クルルの眉間に皺が寄る。
眼鏡を押さえるようにして上目遣いに見るのは、この男の中で少し考えなければならない事態が起きた証拠だ。
それはこの三日間、傍にいてわかった事だった。
しかし、ドロロが何を言い出すのかを待ち、それに大真面目に返答するには、彼は疲れ過ぎていたらしい。

「あんた俺をわかっちゃいねェ。『Love & Peace & Justice』なんかハッタリだ。第一そんな絵に描いたモチで腹がふくれる奴がいるのかよ?」
揺らぎのない、普段のクルルの口調だった。
だが、その不可能を可能にする不思議が、何故かこの男からは匂い立つ。
私腹が目的のありふれた企てでは、クルルを動かす事はできない。
ドロロは旅立って間もない頃に見た、二兎を得るこの男の手管を思い出していた。

「……忘れちまいな、全部夢だったんだよ」
そう言って再び音楽プレイヤーからのコードを差し込み、シートを倒す。
壊れたヘッドホンで、彼は果たして何を聴こうというのだろう。
しかし、取り付く島がなければ、立ち尽くすしかない。
クルルが本音を吐く相手は自分ではないのだ。
そして、おそらくこの男は自分が選んだ数少ない相手にも、嘘に紛れた真実を平気な顔で手渡すのだろう。

ドロロはそういう難解なクルルを、以前より近しく思えるようになったとはいえ、やはり少し遠巻きにしてしまう。




 兄さんとは長い間、きちんと話をしていない気がする
 僕はいろいろと、聞いてほしいことや、聞かせてほしい事を溜め込んでしまっている
 
 少なくとも僕は以前よりずっと大人になった
 もう無闇に羨む事も、鈍感すぎる事もないんじゃないかと思う
 今度ゼロロ兄さんがケロンへ帰る事があれば
 僕と酒でも飲みながら、いろんな話をしてほしい―――――




いつしか時間は流れ、第一陣が日向家へと帰り着いた時には既に夕刻であった。
寝入ってしまった夏美を起こそうとして躊躇していたギロロの背後から、ケロロが大声で声をかける。
「おーきーるーでーあーりーまーす!」
まさに、耳に不可聴音波の機器が取り付けられていようが、問題にならない程に。
本部からの囚人護送の艇が去った後、事後処理に追われていたケロロは、またもや例によって山のような書類を抱えてしまった。
隊長故の苦労には同情を禁じ得ない。が、それも重要な任務である。
またもやサボタージュを監視しなければならないのかと思うと、ギロロは心底うんざりするのであった。
「どしたの? ギロロ、くたびれた顔して」
「……いや、少し疲れた。それより夏美は大丈夫か?」
「平気よ、船の中で眠ったから。……あそこでは守ってくれてありがとう。みんな無事でホントによかった」
「……あ、ああ」
異星人の夏美を守ろうとしていた自分をオルルは言った。

―――――あなたは双子のように彼に似ている

それならば、異星からの侵略者を家族然と心配する彼女もまた、双子なのだろう。
更に、冬樹や秋を始めとする日向家、タママを可愛がっている西澤桃華や、ドロロのパートナー東谷小雪、クルルが『マブダチ』と称する睦美に至るまで。
いや、そんな地球人を信じ、願いを託そうとするオルルもまた。

 オルル、お前は間違っている。
 俺達とお前と地球人が三つ子なのだ。

ギロロはもちろん知らない。
『トリニティ』が、三位一体という宗教教義から名付けられた名である事を。



夜には第二陣が帰り着いた。
彼等はその日、疲れ切った身体を休める以前に、泥のように眠った。
この三日に渡る不思議な事件を挟み、その年の長かった梅雨はきれいに明けていた。
本格的な夏がこれから始まる。

じりじりと照りつける太陽の光を見上げ、ドロロはトリニティサイト、そして『乾きの大地』を思う。あの逃げ場のない砂漠は、さぞ高温になる事だろう。
ケロロは溜まった家事をこなしながら、起こった事のひとつひとつを秘かに日誌に記録した。
本部から依頼された書類はまだ手つかずのままだ。
タママは遠征中食べられなかったプリンやパフェを山のように用意し、三日間を取り戻すかのようにひとつずつ平らげてゆく。夢の中の出来事のように、あった事を思い出しながら。
ギロロは帰り着いた後、壊れていた筈のライフルが、知らぬ間に完璧に修理されていた事に気付きつつ、その事についてなかなか問えずにいる。当人と顔を合わせるとつい艶っぽい方向へ流れてしまう事が原因かも知れない。
クルルは苦労して手に入れたヴァーチャルペットが、環境指数の低下によって『GAME OVER』となっていた事に気付き、餌や水などの世話の手が回らなかった三日間の不在を悔やむ。

彼等のその後は、何ら変わる事なく彼等のままだった。




数日後、起き出してきた夏美が、リビングでテレビに見入っている冬樹に気付いた。
「どうしたの? 冬樹」
「……うん。ほら、見て、姉ちゃん」
そこに映し出された土地を見た瞬間、デジャ・ヴュのように押し寄せてきた数日の記憶。
画面の中にあったのは、ほんの数日前自分達が訪れたばかりのトリニティサイトだった。

『UFO遭遇の土地、ロズウェルから飛び去った光の玉は、世界初の核実験場に消えた!』
そんな刺激的な見出しが踊る中、不安げにインタビューに答える農場主や、ドライバーが次々と映し出された。
『そう、真夜中、ここを西に向かって走っていたら、ジグザグに飛ぶ黄色の光が』
『信じられない、確かにここでは数十年前、小さな宇宙人が目撃されたり、UFO伝説があったりする土地だけど……』

思わず目を奪われたものの、番組が進行するにつれて緊張した心は弛緩してゆく。
「何、これ……」
「UFOって、アレの事かなあ……」
確かに「出品者」の乗った高速艇、そしてケロロ達の物が二機、あの場へと飛んだ。
アンチバリアは効かなかったのだろうか。

『わしがここを通りかかった時、ちょうど西の空がぱっと光って、あっちの方角へたくさんのUFOが飛んでいくのが見えたんじゃ』
『戦後からこの土地は、色々なものが目撃されている。宇宙人はきっと我が国の核兵器に興味があったんだ。技術を盗もうとしていたのかも知れない』

「……なんか、すごく脚色してるよね」
「宇宙人の正体がアレだって知ったら、この番組作ってる人、がっかりするかもね」
俳優の気恥ずかしくなるような真に迫った演技と、縁側で洗濯物を干すケロロを見比べながら、冬樹と夏美は顔を見合わせて笑う。
CMへ入ろうとする番組は、パートの最後に更に刺激的なタイトルを提示していた。

『……CMの後はこの時宇宙人に攫われ、チップを埋込まれたという女性激白!……』



「数十年前の小さな宇宙人か。……オルルのアンチバリアが効かなかったんだな」
クルルはラボの座り慣れた席に凭れながら、例のTV番組を見ていた。
「……地球人のイメージする宇宙人ってのもな。この『リトルグレイ』ってのは乾性人が環境適応スーツを着用した姿そのものだぜェ」
ゲストパネラーは宇宙人と国家、そしてその裏にある陰謀について大いに語る。
「ジジイ、あんた、この惑星の宇宙人イメージの、始祖に近い存在になっちまったのかもな」
オルルが例の探査艇をあの場へ飛ばし、運んだ事。
そしてアンチバリアを過信して、あちこちを歩き回った事。
それが後にどんな伝聞を経て、尾ひれと共に今現在のロズウェル伝説へと育ったかはクルルにもわからない。
しかし、軍が機密として管理するトリニティサイトの謎めいた存在、そして戦後、次第に明らかにされ始めた核兵器の凶悪で忌わしいイメージが、善良な異星人を恐怖の対象に変えてしまったという事なのかも知れない。

「……ま、善良な宇宙人があんたほど地球に厳しいかどうか、疑問だがなァ」

クルルの手の中には『乾きの大地』産の辛口の酒のボトルがある。
名は『The Desert Frog』。
大元が何といったか、ケロン侵攻後に名前が変わったと聞いた事がある。
しかし、もうその名を知る者も少ない。

注がれたグラスは二つ。
まるで向かい合った相手が、すぐそこにいるように置かれている。
クルルは腕を伸ばし、そのうちの一つを額に掲げて見せた。

「愚かな宇宙の歴史と、愚かな俺達の『Love & Peace & Justice』に」










フリーウェイの休憩所より二時間と少し。やがて車は有刺鉄線に囲まれた地点に行き当たる。
その場所が何を示すか、何のために他者を拒むか。
惑星最大の国の軍隊が数十年もの長きに渡り、管理する場所。
蠍と毒蛇の楽園の中央に、我が友の眠る神聖な、そして緩やかな自殺に向かうこの星の最初の墓がある。
この地は殆ど雨に潤される事がない。
しかし彼を癒す荒野の風は、クレーターと赤茶けた岩肌を撫で、鎮魂の音色を伴って吹き続ける。







                      <終>