■MY BLUE HEAVEN

 

 



例えば地球侵略作戦が成功した後、ケロン星へ帰還する事になった場合、自分達は何を持ち帰るだろうかと考えてみた。
その前提自体が途方もなさ過ぎてあまり想像もつかないが、ひとまず地球のプラモ技術を伝えたい、アニメやマンガ等、あらゆる娯楽を本国へ持ち帰り、母国でいつでも楽しめるようにしたい。
そんな身近な部分から想像を膨らませていけば、いつか後世に残るようなマクロな次元に到達できるだろうか。
ケロロは流し台の前に立ちながら、そんな事をつらつらと考える。

自分の場合はそんな所が出発点だが、他の小隊メンバーはどうだろう。
タママニ等の場合は、やはり無邪気に地球のお菓子から始まるのだろうか。
地球にある数限りない、色とりどりのキャンディや宝石のようなフルーツの乗ったケーキ。
それらは確かにケロンにもあるが、本国の物にはどこか上品な節制のようなものを感じる。
質実剛健を重んじる軍事国家故の事だろうか。
あれらのお菓子がケロンの街に溢れるようになった時、支配していた筈の星の文化侵略が完了した事になる。
地球とは何と母星にとって危険な星だろう。
それほどこの星の文化は享楽的で華々しく、美しく着色された人工果汁のごとく毒と退廃を含み、それ故にどこまでも魅力的だ。

ギロロ伍長は取り立てて地球の品には興味がなさそうに見える。
しかしもし地球を完全に支配下に置くとしたら。
愛する日向夏美を強引に奪うだろうか。
いや、本人はおそらくそういう手段を嫌悪するだろう。
むしろ支配被支配という関係が生まれたが故に、ギロロは完全に彼女から身を引かざるを得なくなる。
ギロロがそういう面倒な潔癖さを持っている事を、ケロロはよく知っていた。

既に地球側へと立ち位置を変えたドロロ兵長が選択する事。
それは地球の文化や自然を守るための戦いだろうか。
果たしてそんな事が可能なのかと思いつつ、ドロロがアサシンのトップであった事実を思い起こす。
ドロロは小隊の中でこそそれほど目立った存在ではないが、不思議なカリスマ性を備えている。
地球人と共闘するレジスタンスのブレーンとして、ケロン軍を苦しめる事になるかも知れない。
地球の美しい自然を愛し、平和を望みながら、彼が生きる場所はやはり戦場なのだと思うと、ケロロは胸が詰まる気がした。

クルル曹長の場合は。
ケロロは思い当たる節が山ほどある事に気付き、意外に最も地球に通じているのはクルルかも知れないと思う。
しかし、華々しく名誉に繋がるあれこれには興味のなさそうな男である。
そして自分ほど趣味ばかりに願望が偏向する事もなさそうだ。
……ではクルルは一体何をするのだろう。
そもそも地球侵略作戦が終了した後にまで、彼が小隊に籍を置き続ける事を想像する方が難しい気がした。

何となくケロロは、いつか道を分かつ事になるであろう小隊のその後について、感傷と共に想像する。



「あー、何か気分が陰気になっちったヨ〜。どうも洗い物は自分の世界に入り過ぎてしまうのが難点であります。我輩にはセンシティヴな感性があり余ってんだよネ」
手を拭きながら流しから離れ、ケロロは一息つくためにソファに座った。
「要はもっと前向きに考えるとどうなるか、って事でサ。考え直し!」



我輩、年とって退役後は田舎でみんなでのんびり、お店なんかできたらいいなと思うでありますよ。
タママのお菓子とか、ギロロのサバイバルキットとか、ドロロの地球産有機栽培の自然食品とか、色んなものが置いてある『地球屋』なんて名の。
偏った品揃えだけどそこがマニアックでいい、みたいな常連がたくさんいて、みんなでそれぞれの分野を担当して。
我輩はもちろんガンプラを売るんであります。復刻版なんかも独自開発なんかしたりして。あ、ガンガルもいいけど超銀河伝説バイソンにも心惹かれるでアリマス。
あ、いつかの小隊オリジナルのジュース自販機もいいネ。あれを店の前に置いて、夏には地球式縁日を模してみたり、宇宙お好み焼きを焼いてみたり。
何となくクルルだけは隣に違う店を独自に建てたりして。表向きカレー屋だけど主人にアイコンタクトでカウンターの向こうの蛇の道に繋がってる、みたいな。
そこにはとても口には出せないアンダーグラウンドな世界が広がってたりして。
ホラ、名前は『カレーハウス孤高壱番館』とかそんな感じ。テーマソングは「♪そーちょー、そーちょー、そちょそちょそーちょー♪ クールールーそーちょー♪」 ってソレ『グルル』だって!
ゲロォ、我輩予言者!?

で、ときどき地球の思い出話なんかして。
モア殿も呼んでコタツに入ったりして、宇宙鍋なんかを突つきながら。

その頃には多分地球も随分変わってるでありますな。
ケロンの前線基地が置かれて、地球人部隊なんかも編制されて、異星人間の文化がぶつかって。
我輩、想像もできないでありますよ。
ケロナイズドされた地球。
ケロン大使館が置かれる地球。
きっと今の赤ん坊のような地球が嘘のように、いつのまにか宇宙的な地球になっているでありますな。
でも、我輩は今いるこの純粋で混じりっ気なしの地球が、大好きでありますよ。
冬樹殿がいて、夏美殿やママ殿がいて、皆がいるこの場所が。


夢のように過ぎ去った日々を、小隊の皆で語り明かす、であります……



陰鬱な事を避けて、楽しい事ばかりを想像した筈が、ケロロの目に涙が溢れる。
何故零れるのか、何のための涙なのかを考える事すらが辛い。
自分に涙を流させるものの正体、それは普段見ぬふりをしているリアルかも知れない。

今日は少し後ろ向きな日であります。
ほら、我輩センシティヴだから。
明日はきっと元気になるであります。

ケロロはソファに横たわり、背中を丸める。
昨日の雨が嘘のようにきれいに晴れた午後。

この静かな広々とした家に、早く誰かが帰宅すればいいと思いながら。




                        
                       <終>









*曹長カレー屋さんネタはクルルカレーのお礼と感謝を込めて『ばんのうくるくみん』50on様に一方的に捧げます。