後日談 ………………… |
研究室から半分だけ顔を出し、右を見て、左を見る。誰の姿も見当たらないことを確認すると、一宮裕太は、全力ダッシュで実験棟から出て行こうとした。だが、実験棟は土足厳禁だ。必ず、下駄箱を通らなくてはならない。すなわち、誰かを捕まえたかったら、この場所が一番最適であるということを、迂闊な裕太は失念していた。 ただ、ひたすら逃げなくては、という一念で、下駄箱から乱暴に自分のスニーカーを取り出し、履き替える。そのまま、建物から出ようと思ったところで、襟首を後ろから引っ張られた。 「うわ!」 当然、重力に従って倒れていく体を、けれども、すぐ後ろにいる人物が抱きとめる。ふわりと漂ってきたコロンの香りに、その腕の主を悟り、裕太は今にも泣きそうな、情けない顔をした。 「お疲れ。今、帰り?」 耳元で囁かれる声に、裕太はビクリと体を震わせる。 (絶対、ワザとだ! この性悪!! ) 裕太が、この声に弱いことを知っていて、こういうことをするのだから始末に終えない。逃げたい気持ちと、縋りつきたい気持ちが丁度半分で、裕太は結局、強引に逃げることが出来なくなってしまった。振り返れば、案の定、どこか楽しげな整った顔が目に入る。 「……蓮川。俺、今日は一人で帰りたいんだけど……」 無理だろうと思いつつも申し出てみたが、やはり、返ってきた言葉は、極上の笑みと、 「ダメ」 という一言だった。 「お仕置き、まだだっただろ?」 耳に吐息を掛けるように囁かれて、背筋の辺りがザワザワとする。腰の力が抜けそうになる自分を叱咤激励して、なんとか裕太は反論を試みた。 「だから! なんで、俺がお仕置きなんてされなくちゃならないんだよ!」 「『あの』イチコを引き下がらせたのは誰だよ?」 「ううう……」 それを言われると、何も言い返せなくなってしまう立場の弱い裕太だ。確かに、ある意味、裕太を窮地から救ってくれたのは蓮川に間違いない。 なぜそうなったのか裕太にはさっぱり分からなかったけれど、蓮川との仲がごたつき、イチコに無理やり連れて行かれた飲み会(といっても参加したのは裕太を含めて三人だけだった)で、裕太はイチコと賭けをして負けたことになっていた。そして、負けたバツゲームというのが、 『イチコの前で蓮川とセックスする』 というとんでもないものだったのだ。そんなことは出来ない、そんな事をするくらいなら死んでやる! 蓮川と別れる! と裕太が半ば本気で抵抗したら、蓮川が最後には諦めて、なにをどう取引したのか、イチコを諦めさせてくれたのだ。だが、その後が悪かった。 「俺が多大なる労力を払ったんだから、それ相応の見返りは払ってもらう。大体、お前の我侭のせいで、俺が、イチコに借りを作るはめになったんだ。お仕置きぐらいする権利はあるだろう?」 何もかもが理不尽だった。大体、自分に何の落ち度があったというのか。裕太は最初、激しく抗議したが、 「だったら、やっぱりイチコの前で犯してやろうか?」 と言われてしまえば黙るしかなかった。寝た子を起こすほど、裕太は馬鹿ではない。恐ろしさの不等式を立てるなら、明らかに「イチコ>>>蓮川」なのだから。泣く泣く蓮川の言い分に頷いたのが昨日の事。だが、昨日は蓮川がアルバイトでいなかったから救われた。このまま、のらりくらりと逃げ続けて、蓮川がそれを忘れてしまうことを裕太は願っていたのだ。 だが、そんな都合の良いことを蓮川が許すはずも無く。 こうして、結局、裕太は蓮川に拘束されてしまったのだった。半ば無理矢理に車に乗せられる。何度も乗ったことのある、慣れたはずの助手席が、この時ばかりは処刑場に向かう護送車のように感じられた。 「……参考までにお聞きしたいんですが」 鼻歌でも歌いだしそうなほど上機嫌な表情で車を運転する蓮川に、裕太は恐る恐る声を掛ける。 「何?」 「お仕置きって、何するんだよ?」 聞いたタイミングで車が赤信号に引っかかる。ブレーキを踏んだまま、蓮川は裕太の方に顔を向けて、極上の笑みを浮かべた。端正な顔が、とたんに華やぐ。目元の泣きボクロがいつも以上に色気を放っていて、裕太は自分の状況を忘れて、思わず、その顔に見とれそうになった。 が。 「いやらしいこと」 と、語尾にハートマークでもついているのではないかと思うほど楽しそうに言われて、途端に我に返った。 「俺帰る!」 とドアを開けようとした途端、信号が青になり、無情にも車は急発進して裕太は背もたれにぶつかった。 「逃げようたって、そうはいかない。大丈夫だって。俺が、お前に酷いことしたことあるか?」 「いつもしてるだろ!」 胡散臭い蓮川の言葉に即答すると、蓮川はますます上機嫌に声を上げて笑った。 「やだなあ、一宮君。あれは、俺なりの愛情表現だよ」 そんな愛情表現イラナイ、とは言えず、裕太は助手席で蹲り、ううう、と唸り声を上げる。蓮川が一番、性質が悪いと思うのはこういうところだ。簡単に、好きだとか、愛情だとか口にする。それが、ただの社交辞令だと分かっていても、きっと誰にでも言っている言葉なのだろうと思っていても、裕太は嬉しがる自分の心を抑え切れない。馬鹿だ、単純、アホ、と自分に罵倒を浴びせかけても、微かに赤らむ頬を誤魔化せない。ヤケクソのようにスニーカーを脱ぎ捨て、座席の上で膝を抱えて体を小さくし、膝に顔を埋めたら、 「ほんっと、お前って可愛いヤツだよなあ。どうやって犯してやろうかと思うよ」 と、耳元で囁かれ、裕太はますます、顔に血を上らせてしまった。 何も、言葉を返すことができずに、車は夜の街を走り続ける。奇妙な、濃密な空気。実は、裕太は、こういう空気が苦手だった。本人の自覚はともかくとして、裕太の外見からしたら、意外に思う人間は多いかもしれないけれど、あからさまに性的な雰囲気には未だに慣れず、いたたまれない気持ちになる。案外と晩生なところがあって、もちろん、何度か女の子と付き合ったこともあるけれど、セックスそのものに関しては、マニュアル的な、ごくごくおとなし目なそれしかした事が無かった。だから、蓮川と関係を持ってからこの方、裕太は、そういう意味で気の休まる暇が無い。裕太が無知なのか、蓮川が勉強熱心なのかは評価の分かれるところだろうが、それにしても、ベッドでの蓮川は、本当にとんでもないということを、裕太は既に知っている。無理矢理に知らされた。 車は繁華街を抜け、少し寂れた裏道に入る。そうすると、嫌でもピンクだとか紫だとかの毒々しいネオンが目に入って、裕太はますます体を小さく縮込めて、どうにかこの通りを早く抜けてくれと願った。が、その願いはあっさりと破棄されることになる。 何のためらいも見せずに、蓮川はウインカーを右に出し、並んでいるラブホテルの一つに車を乗り入れた。裕太は、ぎょっとして思わず体を起こす。 「ちょ! どこに行くつもりだよ!」 「見れば分かるだろ? ラ・ブ・ホ・テ・ル。無人受付だから、男同士でも大丈夫。安心しろよ」 器用に車を駐車場に停めながら蓮川はにっこりと笑う。そういう問題じゃないだろうと思いつつも、何と反論して良いのか分からず裕太が金魚のように口をパクパクしていると、蓮川は、あっさりと裕太の腕を引き、手馴れた仕草で部屋を選んで裕太を押し込んでしまった。 部屋に入った途端に目に入る、大きなベッドに思わず、ウッと呻き声を漏らす。 「とりあえず、シャワーな」 と何の躊躇も無く蓮川に言われて、裕太はますますグルグルと動揺した。なすがままで、服を脱がされ、バスルームに押し込まれる。目に入る奇妙な形の椅子だとか、怪しげな玩具だとかはなるべく視界に入れないように、意識しないようにしているのに、どうしてもギクシャクとした不自然な態度を取ってしまった。絶対に、それをからかわれて馬鹿にされると裕太は身構えたけれど、蓮川は案外、あっさりとした態度で、必要以上に裕太を煽りもしなければ、からかいもしなかった。少しだけ肩透かしを食らったような気持ちになったけれど、それでも、かなり安堵して、裕太は体を洗って部屋に戻る。 お仕置きだと脅した割に、蓮川は案外普通で、いつも、どちらかの部屋でしているセックスと余り変わらない始まり方で、触れてきた。 抱き寄せられて、キスをされて、裕太は条件反射のように目を閉じる。蓮川のキスはかなり明快だ。セックスに続くキスと、そうでないキスがはっきりと分かれている。今のキスは、当然、前者だった。 悔しいので蓮川本人になど口が裂けても言えないが、裕太は蓮川とするキスが好きだ。セックスに関してはタチが悪くて、裕太を焦らしたり、恥ずかしがらせることを殊更好むけれど、基本的には蓮川は紳士なのだと思う。触れ方はいつでも丁寧で、決して乱暴さだとか、粗雑さを感じさせない。 ただ、感情的になっている時にだけ、少々、自分本位に荒っぽくなるらしいが、それも滅多にないことだった。裕太が、そんな風に感情的になった蓮川を見たのは、一度しかない。件の、イチコとの賭けをさせられた時だけ。楠田というバーテンと浮気ともつかぬ接触をして、その後に蓮川に連行された。そこで、裕太が馬鹿正直に感情的に蓮川を責めたら、蓮川は切れてしまったのだ。いつもより荒っぽく攻め立てられ、しかも、酷くしつこくて、裕太は思い出したくも無いほど悦がりまくり、喘ぎまくってしまいには意識を落とした。 その時に比べると、今の蓮川は極めて冷静で、いつもと変わらない態度のように思える。なんだ普通のセックスじゃないかとどこか拍子抜けしつつも安堵して、裕太は体の力を抜いた。 「ンッ……」 キスされたままベッドに押し倒されて、あちこちを弄られる。裕太の感じる場所など、蓮川には自分以上に知り尽くされているから、火がつくのはあっという間だった。 少し刺激されただけで、固くしこって立ち上がる乳首を抓みあげるように触られて、ビクビクと腰が跳ねる。 「アッ……! ンッ! そこ、やっ……」 口先だけの抵抗なんて、簡単に蓮川には見抜かれてしまう。案の定、耳元でクスリと笑う声がした。 「嘘ばっかり」 息を吹きかけるように耳元で囁かれて、サッと顔に血が上る。きっと、耳まで赤いに違いない。思わず見上げた蓮川の顔は存外に優しげで、からかう色は浮かべていても、そこに侮蔑など一切見えない。だから、裕太は羞恥を感じても、惨めさや自己嫌悪を感じることは無い。何ともいえない複雑な気持ちになるのは、そういう部分に気がついてしまう時だ。 穏やかで聖人君子のような男だと思っていた。けれども、それはとんでもない誤解で、その本性は性悪で、鬼畜な所も多々あって、エロガッパだし、毒になりそうな悪い男だと知った。でも、ふと、こんな優しさだとか、愛情みたいなものを垣間見せたりする。裏と表を順番に見せられているような気分で、裕太はヤケクソのように蓮川の首にしがみ付いた。しがみ付いて、気がついた。 「なっ!!!!!」 目に入ってくるのは着衣を乱していない蓮川の後姿と、裸で大きく足を開いているあられもない自分の姿だった。 「あ、やっと気がついた? ここ、天井、鏡張り。しかも、ちょっと低いから良く見えるだろ?」 全身を羞恥に染めて絶句している裕太を楽しげに見下ろしながら蓮川は言う。しかも、裕太の足を開いたまま、少し強めに押さえつけて自分の体を横にずらした。とんでもない格好をさせられた自分の姿が隠しようも無く鏡に映し出されて、裕太は直視できずに、思わず目を閉じる。 「な、なんでっ……こんなの、やっ……」 目を固く閉じて、全身を赤く染めて裕太は訴えたけれど、当然、蓮川がそれを聞き入れるはずも無い。 「言っただろ。お仕置きだって」 そう言って、耳たぶに歯を立てられ、裕太はビクビクと体を震わせた。乳首を弄る手はそのまま続いていて、ダメだダメだと思う端からジリジリとした快感が背筋から腰に広がっていく。さして触れられていない性器が意思に反して勃ち上がってしまうのが自分でも分かって、泣きたくなる。 「……なんか、いつもにまして敏感になってる?」 「ちがっ! ……ひぁ! アアッ! アッ、ンンッ!!」 不意に手が伸びてきて、擦り上げられたそこがヌルついているのは、いつもよりも堪えがきかなくなっている証拠だ。一体、いつのまに、自分の体はこんなに聞き分けの無い淫乱になってしまったのかと嫌になる。 「ちゃんと見ろよ、すっげーエロい、裕太」 「何、言って……ンッ、アッ!」 後ろの入り口の周りを指でぐるりとなぞられて、思わず開いてしまった目に入ってくる光景に、眩暈がした。これでは、まるで安っぽいAVだと思うのに、思う端から体のあちこちに熱が溜まり始める。いやらしい、みっともない、と少しだけ自己嫌悪に陥って、そうしたら、目尻に涙が浮かんだ。多分、それに気がついたのだろう。ひたすら裕太を昂ぶらせようとしていた蓮川の手が止まる。 「……そんなに嫌? やめる?」 問うてくる声は、やっぱり優しげに聞こえて、裕太は卑怯だと思った。飴と鞭の使い方を心得ているのだ、この男は。 「……やめろっていってやめてくれんの?」 不貞腐れたように顔を横に向けて、なるべく鏡を見ないように言えば、視界の隅に苦笑いした蓮川が映った。 「まあ、泣かせてまで、やろうとは思わないけどな。本気で嫌なら言えよ」 言いながら、あやすように額にキスされたら抗うことなどできるはずもない。卑怯者、性悪と、心の中で罵りながら、 「……お、お仕置きなんだから、仕方ないだろ。別に、泣くほど、嫌なんて、い、言ってない」 と、しどろもどろに答えると、涙の浮かんだ眦に唇が落ちてくる。 「お前、可愛すぎ。犯罪的に可愛い。先に謝っておくけど、犯し殺したらゴメン」 ゴメンじゃないだろう! というツッコミは、貪りついてくる唇に吸い込まれる。やっぱり、ちょっと待った、という抗議も、当然、声にできるはずも無い。 激しいキスをされたまま、グチュグチュと後孔を性急に弄り回されて裕太はくぐもった悲鳴を喉で鳴らした。 「……っくしょ。ホント、お前、タチ悪いよ。抑えきかないっつーの」 と、切羽詰った独り言が聞こえて、裕太は朦朧としたまま、少しだけ嬉しくなる。自分だけじゃないのだと。見上げた天井に、自分が映っている。足を大きく開いて、その間に蓮川を挟んで。滑稽なみっともない姿だなあと思いつつ、どうしたって、抵抗する気にはならなかった。どんなに言い繕ったところで、自分がこの先を待ち望んでいることを、裕太はきちんと知っている。 蓮川が少し体を浮かせて、あ、と思った。入ってくる、と、どこかぼんやりと人事のように考えていられたのは一瞬だった。 「アアアッ!」 焦ったように、一気に奥まで突っ込まれて腰が反射のように揺れる。目に入ってくる天井に映った自分の表情が、本当にいやらしく見えて、耐え切れず裕太は目を閉じた。あんな顔を、いつもしているのだろうか。もしそうなら、ちょっとだけ嫌になる。 (何か、『私は貴方に夢中です』みたいな顔してる) 珍しく、余り焦らされずに奥の一番、気持ちの良いところを突いてくる蓮川に、必死にしがみ付いて、合わせるように裕太は腰を振った。浅ましいとか、いやらしいだとか思うような余裕は無い。 (まあ、事実だし、仕方が無いか) 諦めの態で、裕太は足を蓮川の腰に絡めた。 「……っ、裕太、余裕あるな」 唇の端を舐められて、裕太は首を横に振る。余裕なんて、一体、どこにあるのかと言いたかった。 「……っなの、あるワケ、アッ、アンッ! ……ンッ、無いだろ!」 こんなに必死で、一杯一杯で、どうしていいのか分からなくなるほど、好きなのに。 (ああ、俺って、ホント、馬鹿) 自分自身に呆れながら、それでも、グルリといやらしく腰を回した蓮川に堪えきれずに、先に達してしまう。自分で制御できない腰や、体の内側が勝手に跳ねたり、蠢くのを感じつつ、裕太は悲鳴のような声を上げた。 達したばかりで、体は苦痛に近いほど過敏になっているから、インターバルを置いて欲しいのに、もちろん、蓮川が止まってくれるはずもない。 「ヒッ! ……ちょ……待っ……」 (ダメ、死ぬ、絶対、死ぬ) 天井に映った、陶然とした自分の顔を見ながら裕太は蓮川が達するまで突かれ続けてしまったのだった。 「つーか、アンタ達、ほんとサルね、サル」 と、呆れかえった様に椅子に座り、足を組んでいるイチコに言われても、とても言い返す気にならない。腰の痛みを誤魔化しながら、目の前にあるレポートに懸命に意識を集中しようとするが、どうしても、疲れとだるさが勝って、すぐにペンを置く。 「……何とでも言ってくれよ……イチコには迷惑かけてないだろ……」 「あら。アタシは純粋にユータの心配してるだけよ?」 「……嘘付け、元をただせば、お前がワケわかんない賭けとか言い出すから……」 「何よ。別に賭けなんてなくたって、どうせ、アンタ達はサルみたいに盛ってヤってるんだから、一緒でしょ?」 酷い言い草だが、反論すれば反論するほど、手痛い倍返しが来ることを裕太は知っているので、敢えて、口を噤む。賢い選択だろう。それにしても、腰がだるい。自分も、途中から夢中になってしまった自覚があるから、蓮川だけを責めるわけにはいかないが、それにしても、次の日に課題提出のある日は避けるべきではないのかと裕太は鬱々と考えた。 「あ、そういえば」 と、裕太は不意に浮かんだ疑問を思い出す。 「なんで、イチコ、あっさり賭けの件、引き下がったワケ? 蓮川と何の取引したの?」 裕太が不思議そうに尋ねると、なぜだか、イチコは珍しく苦笑いを零して、人差し指でピンと裕太のおでこを弾いた。 「おバカさん。最初から、人のセックス覗く趣味なんて無いわよ。あんなもん見るモンじゃなくてやるモンでしょ。からかって遊んだだけよ」 「え? でも、蓮川が……」 訝しげに眉間に皺を寄せて、裕太が訝しげな顔をすると、イチコは心底呆れたように溜息を一つついた。 「かつがれたに決まってるでしょ。ホント、馬鹿なんだから。せいぜい、蓮川にヤり殺されないように気をつけなさい」 イチコのどこか哀れみを含んだような言葉を聞いて、裕太は、はた、と動きを止める。 「蓮川のウソツキ!! バカヤロー!!」 と、次の瞬間、裕太が叫んだのは言うまでも無い。 おしまい。 |