私の可愛い可愛い子猫 ……………… |
ヒュウヒュウと北風が吹き付けて、建物に絡みついた蔦を激しく揺らす。 もう殆どの葉は落ちてしまい、気持ちばかりの枯葉がその煉瓦造りの壁にへばりついているだけだ。 周りはもうすっかり冬の様相で、茶色く枯れ果てた木々の様子を見るだけで、思わず襟元を立ててしまいたくなる。 けれどもそんなことはお構いなしで見ている方が寒くなるような薄着のまま、コノエは足取りも軽く階段を駆け上る。外付けの、金属で出来た階段が彼の足取りと同じリズムでタンタンタンと音を立てた。 時代遅れの古びた錠で、その重たい大きな扉を開ける。 猛獣でも飼ってるわけではあるまいし、大袈裟過ぎる感のある扉だ。 ギシギシという軋んだ音を響かせて、その重い扉が開く。 建物の中は、シンと静まり返っていて、一切、何も存在していないかのようだったが、決してもぬけの殻では無いことをコノエは知っていた。 暫く前までは、とにかく手当たり次第にものを投げたり壊したりするのが常だったが、さすがにこれほど寒くなってくると、おちおち窓ガラスも割っていられなくなったのだろう。最近は、こんな風に息を潜めて逃げ出すチャンスを伺う『遊び』に切り替わった。 もっとも、『遊び』だなどと言うと、逃げだそうとしている本人は、また眉をつり上げて怒って噛みつくだろうが。 建物の中は、常に快適な温度が保たれるように空調が付きっぱなしになっている。入ってきた大きな扉の鍵を、今度は内側から掛け、コノエは相変わらず軽快な足取りで、建物の奥に進んでいった。 やはり、建物の中は静まり返っていて、その部屋の前まで辿り着いてもやはり何の気配も感じられない。 「今日の遊びも、鬼ごっこかな」 何の悪意も含んでいない、楽しそうな声でコノエは独り言を漏らす。 それから、その部屋の鍵を開け、扉を開けた。 その瞬間に、部屋の中からタイミングを計っていたようにスルリと黒い影が飛び出して、コノエの脇をすり抜けようとしたが、中から「それ」が飛び出すのを予測していたコノエが「それ」の腕を捕まえるのは、極めて容易な事だった。 パシンと、小気味のいい音を立てて華奢な腕が捉えられる。 コノエは捉えた反動でその腕を部屋の中にひっぱり、その勢いのままその体をポオンと放り投げた。 トスンと軽い音を立てて、その小さな体がベッドに沈み込みスプリングの軋みのせいで少しばかり跳ね上がる。 部屋から飛び出そうと試みたのは、まだ年端も行かぬ少年で、その少年は慌てて投げ出されたベッドから跳ね起きてもう一度逃げ出そうと試みたが、コノエが上から覆い被さる方が、何倍も早かった。 結局、少年がこの部屋から出る事は叶わず、成功したのは最初の一回だけという事になるが、もし成功していたとしても、少年は全く何も、下着の一枚さえも、その華奢なカラダに纏っていなかったので、それ以上外に出る事は出来なかっただろう。 「十勝一敗、かな?」 と、コノエが上から覗き込みながら楽しそうに言うと、今度はその少年の暴れん坊の裸の足が下からコノエを蹴り上げてくる。 それを易々とかわすと、コノエは更に楽しそうに、ケラケラと声を立てて笑った。 「足癖、悪いなあ。躾が足りないかな」 細い二本の腕をひとまとめにして、頭の上の方に縫いつけながら独り言を漏らす。 「ふざけんな! 離せよ! バカ!」 凄い剣幕で怒鳴りつけてくる少年を更に上から押さえつけ、蹴りつけることが出来なくすると、コノエはわざと眉間に皺を寄せてみせる。 「日に日に柄が悪くなるなあ。拾ったときはしおらしくて可愛かったのに」 さして失望などしていないくせに、わざと残念そうな声を出すと、少年は悔しそうに唇を噛んだ。 「最初は、お前がこんな変態だって知らなかったからだ! 変態! 離せ! バカ!」 「何を言っているんだい? 僕が変態なら、君は大変態じゃないか」 鼻でせせら笑いながらコノエが耳元で囁くと、少年は、さっと顔に朱を走らせた。 「ぼ・・僕は、僕は、変態なんかじゃない」 「そうかな? 部屋の中を裸でうろついたりするのに? ねえ、ナツメ」 「そんなの、お前が服を取り上げたからだろ!? 服、返せよ!! それに、馴れ馴れしく名前なんか呼ぶな!」 余りの怒り、鼻の頭を赤くしながら抗議してくるナツメをさも楽しそうに眺めると、コノエは鼻歌でも歌うかのように、気軽に口づけた。 「おバカさんだね。羽衣を返したら天女は天に帰ってしまうんだよ? まあ、もっとも君には帰る場所などないだろうが」 何度も何度も軽い口づけを繰り返す、その合間に歌うようなコノエの声が告げると、ナツメの大きくて真っ黒な瞳が傷ついたように揺れた。潤んだ瞳が酷く煽情的だ。 「帰る場所なんて無くても、駅のホームでも、どこでも、ここよりはマシだ」 今にも泣き出しそうな表情でナツメが告げると、コノエはそれを慰めるかのようにナツメの背中を優しく撫ぜた。 「外は危険だよ。ここにいれば、美味しいご飯と暖かい布団と暖かいお風呂があるじゃないか。一体、君は何が不満なの?」 子供をあやすような優しい声音と、天使みたいな表情が、コノエの手口なのだと、とっくに知ってしまったナツメは、そんな甘言には決して乗らない。 「お前が、僕に触るのが嫌だ!」 ドンと、コノエの胸を突き飛ばして拒絶を示す。 けれども、さして応えた風も無く、コノエはナツメの背中に回していた手を今度は前の方にずらして、肉付きの薄い少年らしい胸をさらりと撫ぜた。胸の突起に指が微かに触れて、細い腰が跳ね上がる。 「嫌? 嘘だろ? すぐにこんな風になるのに?」 小ばかにするように笑い、さらにコノエがナツメの胸を撫でると、ナツメの意志とは裏腹にすっかり快楽を覚えてしまった体はフルリと震えた。 「体を弄繰り回されて、気持ちよがったり、お尻に入れられて女の子みたいに喘いでいる子が変態じゃないなら、僕も変態じゃないだろう?」 「・・・っ・・・触るな・・・って・・言ってるだろ・・・っ・・・」 眦に涙を浮かべ、必死に体を捩ろうとするが、結局、体格差にはかなわない。 更に言えば、自慰もした事のない幼い体が、何もかも知り尽くした「性悪なオトナ」に抗う術も無かっただろう。 縫いとめていた華奢な両手首を解放しても、結局、その腕が抵抗の為に振り上げられる事はなく、ただ、ただ、自尊心を繋ぎ止めようと必死でシーツを掴む事しか出来ない。 コノエは幼い性を、やんわりとその長くて白い指で包み込むと、焦らすようにゆっくりと扱く。 「やだ・・・触るな・・・・」 そうされると、ナツメは全くの言いなりになるしかなく、無駄だと分かっている悪態を、オウムのように繰り返した。 コノエは、ナツメの声を猫の鳴き声くらいにしか考えず、そのまま玩具を弄り回すようにナツメの身体を弄ぶ。ナツメの身体は、少年らしく敏感で、コノエにとっては遊び飽きない玩具か、ペットの様なものだった。 「・・・やっ・・・あ・・・ンッ・・・っ!! ・・・やだ・・・だめだ! お願いだから、弄らないで・・・アッ・・・ンッ・・・」 簡単に煽られる幼い体をコノエは愛しそうな目でじっと見詰める。先走りで先端が十分にぬめるくらいまでナツメを追い詰めると、コノエは不意に手を離して後ろの方に愛撫を移す。 ズルリと中指を差し込めば、ナツメの体は面白いほど跳ね上がった。何もかも知り尽くした体の奥の、敏感な部分を態と強めに刺激すれば、ダラダラと先端からは透明な液が止めどもなく溢れてくる。それを掬い取っては後ろに塗りこみ、指を増やして微妙なリズムで抜き差しする。激しすぎてイってしまわないように、けれども、じれったい快感が持続するような絶妙のリズム。 こうされると、ナツメの理性も、プライドも、何もかもが簡単に崩壊する。ナツメからパラパラと何かが剥がれ落ち、ただ快感だけを求める素直な可愛い子猫になるのを見るのがコノエの何よりの楽しみだ。 「ナツメは良い子だね。上手におねだりしてごらん?」 「・・ゥッ・・・ウウッ・・・エッ・・・ヤッ・・・」 殊更優しい声でコノエが耳元に囁けば、ナツメは白い頬を上気させ、漆黒の髪を額に張り付かせた淫靡な表情でしゃくり上げる。捨てきれない自尊心を必死に繋ぎとめようとする、この潔癖さがコノエの支配欲を心地よく刺激した。何度こっぴどく犯されても、汚れまいと、堕ちまいと必死に何かにしがみつく、その精神の穢れの無さが堪らない。 「どうしたんだい? もう忘れてしまった?」 グジュグジュと音を立てて何度も指を出し入れする。時々かすめるように敏感な部分を擦ってやれば、その度に、白くて細い腰は痙攣する様にビクビクと震えた。 コノエの好きな漆黒の瞳が涙に潤んで濡れている。焦点がだんだんと定まらなくなってくるのがいつもの合図だった。ナツメが無意識にペロリと自分の唇を舐めて濡らす。その紅い舌が、白い肌と奇妙なコントラストを描き、得も言われぬ艶を露呈した。 「・・・ヒッ・・・ンッ・・・・ね・・・が・・・」 虚ろな瞳でコノエの顔を見上げながら、必死に腕を伸ばしてしがみついてくる。ナツメの境界線はいつだって明確で分かりやすい。もう、十分に堕ちたことを知っていながら、コノエは意地悪く笑いながらナツメの耳元に口を寄せた。 「何だい? 聞こえないよ?」 酷く優しげな口調と表情は、まるで天使かと思われたが、本当は人を誘惑して堕落させる悪魔なのだとナツメは知っている。知っているけれど、ここまで追い詰められた体を自分ではどうすることもできない。 「・・・ねがい・・・ます・・・いれ・・・くだ・・・」 「聞こえないよ?」 コノエは片手で完全に反り返って濡れている前の方をグジュグジュと弄り、もう片方の手で後ろの敏感な部分を強く刺激しながらねっとりと尋ねる。ナツメは、もう、恥も外聞も無く涙を流しながら、 「お願いします、入れてください!」 と懇願した。コノエはそれを聞くと楽しそうに笑って、ナツメの細い足を軽々と担ぎ上げる。 「良いよ。可愛い飼い猫のお願いだからね。聞いてあげなくちゃね」 十分に解されたその場所に、何の躊躇も見せずにズルリと入り込む。 「ヒィッ!! ・・・アアッ! アッ! ・・アンっ!」 すぐに激しく抜き差しを始められて、ナツメは抑えることも出来ずに奔放に嬌声を上げた。鉄筋作りの室内に、少し高めの少年の甘ったるい声が響き渡る。 「気持良い?」 激しく注挿を繰り返しているくせに、どこか余裕のある声でコノエは尋ねる。ナツメは忘我の境地、といったような陶然とした表情で、飲み込むことの出来ない唾液を口の端から垂れ流している。 「イイッ! 気持ちイイッ・・・アッ! アン! ・・・イイよぅ・・・」 ふいごのように、快楽だけを伝えるナツメは、コノエのお気に入りだ。人間は、素直が一番だよね、などと不謹慎極まりない事を考えながらナツメの絡み付いてくる内部を十分に堪能する。 誰に何と言われようとも。ナツメ自身が嫌だと言おうとも。 この淫乱で、潔癖で、可哀想で、可愛らしい子猫を、コノエは手放すつもりなど、これっぽっちも無い。 「一緒に来る?」 寂しそうな目をして、フラフラと夜の街をさまよっていた、危なっかしい少年に声を掛けたのは、コノエの中の何かが共鳴してしまったからだ。そういう言い方をすると、ナツメは 「お前の言葉は小難しくて分からない」 と頬を膨らませる。まあ、簡単に言ってしまえば一目惚れをしたという事だ。 歳を聞けば、18だと答えたが、よくもまあ、そんな見え透いた嘘を堂々とつくものだとコノエは愉快になったものだ。14か15、せいぜいで16がいいところだ。頭の中を「淫行罪」という言葉が過ぎったが、それも一瞬の事で、コノエはすぐにその華奢な腕を取った。 にっこりと笑って見せれば、ナツメは白い頬を少しだけ紅く染めて素直に頷いた。優しい顔はお手の物だ。 中身がこんな悪質極まりない悪魔だなんて、こんな子供に見抜けるはずなど無かった。 疲れきって、スヤスヤと寝息を立てて眠っている顔にそっと触れる。白い頬はスベスベでいつだって酷く肌触りが良い。 「可愛いなあ」 寝顔を見ながら、コノエは思わず零してしまう。 「明日は何をして遊ぼうか?」 コノエはその漆黒の髪を優しくすきながら問いかける。あどけないナツメの表情に苦悶の色は見えない。見えるとしたら、明日目が覚めてからだろう。 ナツメには甚だ迷惑でも、コノエは意に介しもしない。 『爪を立てられても、噛みつかれても、とにかく可愛がる』 それが真の愛猫家であると信じて疑っていないからだ。 そんな困った飼い主に見初められたナツメに、一体、いつ平穏が訪れるのかは、誰にも分からない。 e n d . |