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クリスマス企画SS-カモネギ。編 ………


 ドアを開けた途端に、パンパンパンとクラッカーの音が聞こえ、紙テープが顔に、髪に引っかかった。続いて、
「カモちゃん! メリークリーッスマーッス!」
 と、異常なテンションの声が聞こえる。酔っ払いかと思ったけど、どうも、テーブルの上の料理だの、酒だのは手付かずで(多分、俺が来るのを待ってくれてたんだろう)、飲んでもいないらしかった。
 ちなみに、目の前の佐々木は真っ赤な服を着ている。襟と裾と袖口が白い。で、赤い帽子。言わずもがな、サンタクロースの格好だ。どうでも良いけど、どうして佐々木は、こういうアホっぽい格好が似合うんだろうか。ナゾだ。
 口を閉じてキリッとしていれば、かなりイイ男の部類に入るはずなのに。顔つきも、どっちかといえば『精悍』という形容詞が似合うタイプなのに。口を開いた途端、三枚目になるのは何でだろう。やっぱり、オカマだからだろうか。
 そんなことをつらつらと考えていると、佐々木がおずおずとした表情で、
「アラ? カモちゃーん? もしかして引いてる? 引いてるのかしら?」
 とか聞いてきた。
「何だよー、カモちゃん、ノリわりーぞー!」
 とベッドの上から、こちらもやっぱりテンション高く呼びかけてきたのは佐々木を通じて知り合った友人のマナトだった。
「…そんなこと言っても、俺、今までバイトだったんだもん」
 そう言いながら、佐々木にケーキの箱を渡す。俺が、クリスマス時期の臨時アルバイトをしていたケーキ屋から貰ってきたケーキだった。
「ケーキ屋だってー? カモちゃん似合い過ぎ! エプロンとかして接客すんの? すげー見てー! !」
 ゲラゲラ笑いながらマナトは言う。足元を見れば、ビールの缶がすでに四本転がっている。どうも、マナトだけ先に飲んでいたらしい。まあ、別に良いけど。
「エプロンなんてしないっつーの。サンタの格好はさせられたけど」
 男のバイトは全員サンタの格好をさせられて、店頭でケーキを売らされた。ずっと寒い中外に立っていたから、実は結構こたえたんだけど。
 コタツに入り、佐々木に出された熱燗を一口飲んで、やっと、ホッと一息ついた。
「ウマー。これ、何?」
「八海山よ。一番安い清酒なんだけど。でも、燗にするならむしろ清酒の方が美味しいと思うのよね」
「だよな。香りが違う」
 冷で飲むなら吟醸とかの高い酒の方が美味いけど、燗にするのはむしろ安酒の方が美味かったりする。佐々木も案外、日本酒党なので、その辺は良く分かっている。
 出された鍋に手をつけながら、思わず笑ってしまった。
「クリスマスなのに鍋ってのもなあ」
 といいつつ、何が食べたいかと聞かれて、鍋! と真っ先に答えたのは俺なんだけど。
「まあ、良いじゃん! メリークリスマース! イエー!」
 と、マナトは尋常でないテンションで鍋に箸を入れ始めた。
「……てか、何で、マナトいるの? 佐々木が呼んだ?」
 と、俺が訝しげに尋ねると、佐々木は困ったように苦笑し、マナトは、
「何だよ! 俺がいると邪魔だって言うのか! なんて友達甲斐の無い冷たいヤツなんだ! 俺の知ってるカモちゃんはそんなヤツじゃなかったぞー! !」
 とか、コタツに突っ伏した。…酒癖メチャクチャ悪い…でも、マナトがこんな風になるのは珍しいから、チラッと佐々木に目をやると、
「恋人と喧嘩しちゃったらしいのよ。クリスマスなのに」
 と、こっそり教えてくれた。納得。
「俺は別にマナトいるの構わないし、人数多いから良いんだケド。仲直りだけはしておいたら?」
 と、あんまりキツい口調にならないように窘めたら、マナトはグズグズと鼻を鳴らして涙ぐんだ。
「ダメ。もう、別れると思う」
 不意にしおしおとし始めたマナトに、俺も佐々木も慌ててしまう。
「何でだよ? ただの喧嘩だろ?」
「そうよ。ちゃんと電話して話しなさいよ」
「ダメ。だって、アイツ、もともとノンケだったし。今頃、女とデートしてる」
 そう言いながら両手で顔を覆うマナトはすごく辛そうで、俺も佐々木も言葉を失ってしまった。マナトは普段、凄く明るくて、良い意味でノリも軽くて人を凄く楽しい気持ちにさせてくれるヤツだ。そんな男が、ここまで落ち込むなんて、相当なことなんだろう。でも、マナトの恋人って一度だけ会ったことあるけど、そんなにホイホイ相手を変えるような軽そうな人に見えなかったんだけどなあ。
 マナトは佐々木と同じで、元からゲイだから相手は当然男で、でも、俺と同じで以前は女の子と付き合ってたようなストレートだったらしい。
「なあ、カモちゃん」
 急にマナトは顔を上げて、真剣な表情で俺をじっと見つめた。だから、真面目な話をされるのかと身構えたのに、出てきた言葉は。
「佐々木ってエッチ上手い?」
 そんなふざけたものだった。
「はああ! ? 何言ってんだよ! !」
 俺は耳まで真っ赤になって立ち上がる。せっかく人が心配したのに! !
 一瞬、怒りかけたんだけどマナトは全くふざけてなんてなくて、やっぱり真剣な表情で、
「なあ、どうなんだよ! 上手いの! ? やっぱ、ノンケの男って、男とヤるのに抵抗あって、どんなに上手くても、ある日、やっぱりダメだとか気がついたりするのか! ?」
 と詰め寄られて、俺は絶句した。どう答えろってんだ。目の前に佐々木がいるのに。だが、マナトの目は本当に真剣で、縋るような顔をしてるもんだから、汗をダラダラ流しながら答えるしかなかった。絶対、顔も赤くなってる。
「あう…や…佐々木は…う、上手いと思うし…お、俺は、ダメだとか、その、思ったこと…無いけど…その…マナトは、エッチがダメ、とか言われたのか?」
「…違う。でも、いつまで経っても何かセックスの度身構えるし…声出すのも抑えてて、辛そうだし…マグロ状態で、自分から積極的に何かしたりしないし…」
 そこまで言われて、俺はギクギクとした。思い当たる節があったからだ。
「ちょ、ちょっと待てよ。それって、仕方が無いんじゃないの?」
 と、思わず反論する。
「今まで抱かれる方なんてヤった事ないんだから、殆ど初心者みたいなもんじゃねーか。どうして良いか分からないんだから、マグロになったって文句言うなよ! お前、もしかして、それで文句言ったの?」
 自己弁護みたいだと思いながら、そう反論すると、マナトは急に眉間に皺を寄せて黙り込んでしまった。
「…もしかして言ったのか?」
「…言った。もっと積極的になっても良いんじゃないのかって。そんなに頑ななのって、もしかしてやっぱり女の方が良いんじゃないのって言ったら、そうかもね、って出てった」
「……マナト、お前、バカ。アホ。そんなの怒るに決まってる」
 俺は呆れて、大きな溜息を吐いた。普段は割りと鷹揚で、なんだかんだ言って大人びたトコがあるヤツなのに。
「もし、俺が、佐々木にそんなこと言われたとしたら、やっぱり、俺ってエッチが下手くそで、佐々木を満足させられてないんだって落ち込むと思うけど。お前は、相手のこと女の方が良いんじゃないの、って思ったかもしれないけど、相手だって、やっぱり元からゲイのヤツの方が良いんじゃないのって思ったと思う」
 俺が、諭すようにそう言うと、マナトは俯いて顔を青くした。
「そんなつもり全然無かった」
「うん。だから、ちゃんと言ったほうが良いと思うよ? あの人、一回しか会ったことないけど、真面目で誠実そうな人だったし。マナトのこと、待ってると思う。折角のクリスマスなのに、一人にしとくの?」
 俺がそう言うとマナトはガバリと勢い良く立ち上がり、俺の手を握って、
「カモちゃん! サンキュー! サンキューサンキューベリベリマッチ!」
 とワケの分からない英語を叫んで、ジャケットを引っつかんで、唖然としている俺と佐々木を後に残し、風のように去っていった。
「…何、アレ?」
「や、マナトって、もともと、ああいう思い立ったが吉日、みたいなヤツなのよ。悪気は無いから許してあげて?」
 と、佐々木が苦笑いを零して。
 で、何となく妙な空気のまま、鍋を食って、酒飲んで、ケーキも平らげたけど。
 なぜか、俺も佐々木も黙りがちで、何だかなあ、と思いながらいつものようにシャワーを浴びて、一緒に布団に入った。



 佐々木とするキスは好きだ。気持ちいい。佐々木は背も高いし、体もがっしりしてて骨ばってるし、手もでかいけど、セックスの時は物凄く神経質で繊細だと思う。
 何だかんだ綺麗ごと言ったって、男なんてセックスする時は本能の方が優先されるから、相手のことを思いやってるつもりでも、自分の気持ちの良さのほうをつい、追っかけたりしがちだけど、佐々木はそうじゃない。俺の気持ち良さを絶対に一番に考えてくれて、俺は、自分が女の子と付き合ってたとき、ここまでちゃんと相手のことを思いやってただろうかと、反省させられたくらいだ。
 何となく、佐々木が自分を抑えすぎてるんじゃないかと思って、もっと好きなようにして良いのにって、以前言ったら、佐々木は、
「カモちゃんが気持ちよさそうにしてるの見てるだけで、アタシも気持ち良いし、幸せ〜って感じになるから良いのよ」
 とか、笑って誤魔化された。だから、俺はかなりマナトの言うところの『マグロ』に近いんではないかと思う。でも、別に一方的に奉仕されたいなんて思ってないし(むしろ、そんなのは嫌だ)、佐々木にだって気持ちよくなって欲しい。ただ、その為に、どうすれば良いのか、が分からないのだ。
 いや、同じ男だから、どこをどうすれば気持ちが良いのかっていう、単純な体の問題なら分かる。でも、そんなに単純なものでもないのだ。佐々木は、妙なところで俺を神聖視しているというか、俺にアレコレとさせるのをどうも躊躇しているみたいだからだ。でも、そんなのはおかしいと思う。セックスなんて、二人で気持ち良くならなくちゃ、ただのマスターベーションと変わらない。マナトの言葉を聞いて、尚更そう思った。
「佐々木、今日は俺がする」
 佐々木の下からゴソゴソと抜け出して、馬乗りになるみたいに、佐々木の体を跨ぐと、佐々木は凄く、動揺したような顔を見せた。
「カ、カモちゃん! ?」
 ずるずると佐々木の足のほうに尻で降りていく。まだ、反応を見せていない佐々木のイチモツに顔を近づけて、そのままパクンと口に銜えた。予想したほど嫌悪感は無い。むしろ、佐々木の方が、珍しくパニックするみたいに慌てたくらい。
「カ、カ、カ、カモちゃん! そんなことしなくていいわよ!」
 どっちかって言うと、セックスの時は俺の方が照れまくって、でもって佐々木の方が(男とのセックスは)慣れてるから、一方的にされるがまま、になっている。だから、尚更、佐々木は驚いたんだろう。
 でも、俺はそのまま、佐々木がいつもしてくれる事を真似してみた。あっという間に、佐々木のはでかくなって、そしたら、段々、楽しくなってきたんだけど。
「カモちゃん! やめろって!」
 と、佐々木は本気で止めに入り、俺は半ば強引に体をグイッと持ち上げられて、中断させられてしまった。
「そんな事、しなくて良いって」
 佐々木はバツが悪そうな表情で、視線を逸らして別の方向を見ている。照れてるとか、恥ずかしいとか、そういう感じじゃなくて、俺は不安になった。佐々木を不快にしてしまったんだろうかと。
「…気持ち良くなかった?」
「…そりゃ、悪いわけないけど…」
 佐々木の言葉は煮え切らない。
「じゃ、何で…」
 佐々木の顔を下から覗き込むようにじっと見つめたけど、やっぱり佐々木は視線を合わせようとはしない。
「や、だって、カモちゃん、元はゲイじゃ無いし…そんなことさせられない…」
 と語尾が消えるくらい小さい声で言われて、俺は猛烈に腹が立った。
「何だよ! それ! お前、まだ、そんなこと気にしてたのか! ?」
 何だか、俺の佐々木に対する好きだという気持ちを信じてもらえてなかったのかと思ったら、腹が立って、悔しくて、そして悲しかった。
「そりゃ、俺は最初はゲイじゃ無かったよ? だけど、佐々木のことスゲー好きだし、俺だって、佐々木が気持ちよくなることしてやりたいって思うのに!」
 元がゲイじゃないからって、そこで線を引かれたら、それ以上、どうやってそっちに行けば良いっていうんだ。マナトだって同じだ。気持ちは何となく想像つく。多分、俺が想像するより、今まで傷ついてきた事だって多かったんだろう。でも『ノンケの男だから』って先に、突き放して線を引いてるのはむしろ、そっちなんじゃないか。我慢してたのに、眦から悔し涙が零れる。
「…頭来た! 絶対イかす! 一回、口でイってからじゃなきゃ、入れさせない!」
 そんな普段だったら、絶対にしないようなキレ方をするあたり、多分、俺もかなり酔っ払ってたんだと思う。でも、その時は本当に必死だった。
 佐々木は、唖然とした顔をしてたけど。
 結局、もう一回、挑戦し始めた俺を、今度は止めなかった。一生懸命舌を使ったり、喉の奥まで入れてみたり。佐々木のは結構長いから、奥まで入るとえづきそうになるんだけど、むしろ、そうすると気持ち良いみたいで佐々木は、「ウッ…」とか「ンッ…」とか普段、あんまり聞けないような堪えた声を漏らした。で、ぶっちゃけ、その声に俺は興奮してしまって。最後には、ちゃんと、佐々木は俺の口の中でイった。さすがに初めてで、飲み込むのは失敗したけど。
 佐々木は、嬉しそうな、でも申し訳なさそうな複雑な表情をしていたけど、でも、もう謝ったりしなかった。


「カモちゃん、好きだ」
 って、腰をゆすりながら佐々木が耳元で囁いてくる。切羽詰って、掠れ気味の声が色っぽい。佐々木のこういう声が、俺は結構好きだ。
「ンッ…ウンッ…俺…もっ…俺もっ…佐々木、好き…」
 一生懸命、佐々木の動きに合わせながら、俺も脚を絡ませる。
 本当はセックスってこういうもんなんだって、佐々木と付き合うようになってから、やっと分かったような気がする。もちろん、男だから、気持ち良いってのが一番なんだけど、それと同じだけ繋がってるのが嬉しかったり、飾らない裸のままの自分をお互いに曝け出したり、信頼しているから感じることなんだなって思う。
「佐々木ィ…」
 こんな甘ったれた声出すのも、佐々木にだけだ。
「ん、どうした?」
 動きを一旦止めて、佐々木が首にしがみついてた俺の顔を覗き込んでくる。真剣な表情がちょっと緩んで、凄く優しい笑顔。悔しいけど、スゲー好きなんだなあって思う。オカマだけどさ。
「来年も、一緒にクリスマスしような」
 って、俺が言ったら、佐々木は俺の言いたいことをちゃんと理解して、本当に幸せそうに笑った。




 余談だけど、次の日の朝、携帯を見たら、マナトから、
 『ちゃんと仲直りした。カモちゃんサンキュー! 』
 ってメールが入ってた。
 『人騒がせなヤツ』
 って返信したら、
 『お互い様』
 って返ってきて、思わず笑ってしまった俺だった。





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