それは愛していると言えるのか? 休日、且つ天気は快晴のお出かけ日和。 街の通りは人で溢れていた。 とあるカフェテリア。 窓際の日当たりも良好なテーブルで、素敵な3人組がお茶を楽しんでいた。 「ね、あれあれっ!かっこいくない??」 「3人ともレベル高っ!ちょ、声かける?」 周りの見とれる女にも気付きはしない。 だって彼らは、受け子's。 「つーか、俺らって何だかんだなげーよな。」 一番初めにやって来たアッサムを一口飲み終えた所で、 宍戸がこんな話をしだした。 「そりゃそうだろ。中学から大学までこんな事してりゃぁな。」 続いてアールグレイを頼んだのは跡部。 こんなトコの茶は安いから嫌だ、と拒否していたものの、 そのお味になかなか満足している様子。 「いや、友人関係もそうだけど、恋人関係とかもそうだろ?」 「あー・・・、考えたらけっこー長いかも。」 ”どーもっ。”と、店員さんに愛想を振りまきながら、 アップルティーを受け取ったのは向日。 早速一口飲んでは、”おいしー!”と、顔を綻ばせる。 と、そこへ跡部の痛恨な一言が向日を襲う。 「日吉がお前と続いてる事がまず奇跡だよな。」 優雅にカップへと口付けながら、跡部は淡々とそう言葉を発した。 途端、紅茶を噴出しそうになったのは向日。 「なっ!跡部にそんな事言われたくなーいっ!」 テーブルをバンッ!と叩いて立ち上がれば、その目立つ事目立つ事。 元々目立っていた事もあり、好奇心旺盛な女性来店者は、 一斉にこちらの方を見つめる。 「・・・座れ。」 宍戸にそう促されれば、向日は顔を真っ赤にしながら椅子へと座りなおす。 跡部はそんな周りに気にした様子もなく、 続いてやって来たスコーンを手に取り、その味を見定めていた。 「でも、跡部の言う事も結構一理あるよな。」 宍戸もカップを置くと、スコーンへと手を伸ばし、 跡部同様大して気にした様子もなく、向日に向かってそう言った。 「し、宍戸までそういう事言うしっ・・・。」 向日はそんな宍戸の言葉にこめかみをピクピクと動かしながら、 両膝の上に置かれた両手をプルプルと振るわせる。 そんな向日を無視して、二人の話は盛り上がり。 「何か日吉って変なトコ無口そうだし? 毎日好きとか言われたいタイプの岳人とはあわねーだろ。」 「あー、確かに。日吉もよく岳人と同棲の許可出したよな。」 言われたい放題の自分と日吉の恋仲。 必死の思いで二人を睨みつけると、 向日は跡部の言葉に反抗するように、こんな事を言い出した。 「ってか、跡部達だって人の事言えないじゃんっ!」 「あ?」 折角満足しかけていたスコーンの味も不味くなるようなその一言に、 思わず反応してしまったのは跡部。 ティーカップを置き、腕を組み、万全の体制で向日を見つめると、 言ってみろという様に、顎で続きを促した。 「ゆーしだって女連れまわしてるし、ちょただって大学の女にまだケー番教えてんだろ? そんなん俺らより全然不安定じゃんっ。」 ここまでを一息で言い切ると、向日は満足したようにふんっ!と鼻息を鳴らし、 未だ頬を膨らませてそっぽを向いた。 その言葉に聞き捨てならなかったのは跡部様。 先程の向日同様、こめかみをピクピクと動かして向日を睨みつける。 「てめぇ、随分言う様になったんじゃねぇか、あぁ?」 「ホントの事言っただけだしっ。そんなんで好きとか言える訳!?」 素敵な洋風カフェテリア内。 美形3人組が午後のティータイムでどんな話をしているのかと、 聞き耳をたてる女もそう少なくはない。 トップレベルな学問のお話?または、最近の国際ニュースが話題とか? はたまた、今夜のパーティーなんかのお話だったり・・・・。 なんて妄想を立てる腐女子達の期待を裏切らないのがこの3人。 なんと話題は、恋愛話。 且つ、話の内容からどうやらそれぞれに恋人がいるらしく。 一体どんな人なのっ!?なんて、質問を無視する様に、未だ火花は散るばかり。 T 「大体、宍戸はどうなのさっ!!」 二人の間に飛んでいた火花が突然自分の方へと向いてきたもんだから、 宍戸は当然返答に戸惑うばかり。 ”俺らより全然不安定じゃんっ。” それでも、一応やっぱり相手を好きな事実は変わらない。 なんて事で、 「お、俺は毎日長太郎が好きだって、言ってくれるから・・・その・・・。」 顔を赤らめて返した言葉はこれ。 結局、 「・・・・バーカ。」 「なっ!」 跡部に一蹴をくらい、さらには 「その割に、いつまでたっても鳴り止まないケータイ、みたいな?」 向日にとどめのパンチを食らう。 二人の苛立ちが、やたらと幸せそうな返答をする宍戸へと一気に覆いかぶさり。 半分八つ当たりという言葉を使ってもよさそうな言葉の嵐に、 さすがの宍戸も黙ってはいられない。 「っ!言ってくれんじゃんか、じゃあ岳人はどうなんだよっ。」 気恥ずかしさなのか、それとも怒気のせいなのか、 赤くなった宍戸の表情は未だ直りそうになく。 持っていたスコーンを砕くように握ると、宍戸は向日を指差した。 「日吉は外なんて出なくたって楽しめるよ、って言ってくれるもん。」 へへんっ、と得意げに放った言葉の後には、 当然残る二名の八つ当たりの嵐。 「つーか、それ外出したくないだけの口実だよな。」 と、跡部が返答すれば、 「あぁ。気づいてないのなんて、お前くらいだぞ。」 宍戸もそれに同意する。 あっさりと返されたそんなセリフ達に、こちらも苛立ちを覚え。 そしてとうとう向日が指差したのは跡部様。 「〜〜〜っ。違うってば!じゃあ、跡部はどうなのさっ!」 「あーん?」 先程よりも眉間に皺をよせ、 何を言い出すかとばかりに、跡部は再び向日を睨みつける。 「なんか、跡部の場合忍足に言い分なさそうだよな。」 一方無防備であった宍戸が、真横から痛恨のアッパーパンチ。 タイミングを計ったあたり、少しばかり先ほどの恨みが感じられる。 そんな痛手を被り、思わずよろめいた跡部の意識に、防御の薄くなった向日サイドからも、 「だよねぇー。跡部、ジコチューだし。」 なんて、渾身のローキック。 「忍足も振り回されて、不憫だと思うぜ俺。」 「でも、ゆーしはそれを望んでんじゃないの?」 キャッキャと弾む話に納得いかないのが、既に精神状態はボロボロとなった跡部様。 ここまで言われて黙ったままでは、元氷帝学園男子テニス部部長の名が廃るってもん。 「てめぇら、・・・言わせとけば、好き勝手言ってくれんじゃねーか。」 よろよろと、半ば震えた声で跡部は一言そう返すと、 早々と先ほどの痛みに立ち直った宍戸が、 「じゃあ本当の所どうなんだよ?」 なんていう軽い疑問を口にする。 ん?どうな訳? なんて突然の質問。 ふと、考えてみた跡部様。 「・・・・・・・。」 長い長いthinking time。 キラキラと目を輝かせる二つの視線。 結局の所、こいつらの意見は全くもって間違っていないのだ。 何でも自分が言う事を忍足は聞いてくれるし、 自分が嫌だといえば、大抵の事はそこでストップ。 自ら言うのもなんだけど、とても愛してもらっている気がする。 そんな考えは、 「跡部、顔赤くない?」 貌に出てしまっていた訳で。 「・・・っ・・!」 必死で顔を隠しても後の祭り。 珍しいもんを見たという目つきで驚く宍戸と、 “跡部も可愛いートコあんじゃんっ!”なんて、はしゃぐ向日。 「もう、こんなトコ出るぞっ!」 そんな顔色を一秒たりとも見せたくないと言う様に、 バンッと、男らしく諭吉さんをテーブルに置き去りにして、 コート片手に即座に店を出て行く跡部。 「あ、何。跡部のおごりぃ?やたっ!」 続いて、“跡部、待ってってば!”と、小走りで跡部の後を追う向日。 そして、 「ったく、ダセーな・・・。あー、お釣りはいらないんで。」 しっかり後始末までしていく宍戸。 残された店員と来客達はただただ、その姿を見送るばかりであった。 愛していると言えるのか? その形は人それぞれ・・・・らしい。 |