恋愛よりも友情を欲した。



大好きなパートナーがいた。

「ゆーしっ!来んの遅いよ、早く早く!!」
「ちょぉ、岳ちゃん。待ってぇな。」

中学校も、高校も、部活に励んで励んで。
全国優勝を目指すために、氷帝学園に入った。
小学校ん時、そんなに頭が良かったわけじゃない。
でも、とにかくテニスが好きで、だからどうしてもここに入りたかったんだ。
一生分の勉強の時間をあの期間に費やしたと言っても良い様に、俺の6年生は勉強に燃えた。
念願の合格通知を手にした時は、思わず涙したのを忘れない。

部活はとにかく厳しくて、それでもレギュラーとるために、必死で玉拾いして。
やっとなれたレギュラーの座、ダブルス1。
俺のパートナーは氷帝の天才とも言われる男。
大阪の学校から、わざわざ氷帝に入るためだけに東京までやってきた変わり者。
変わり者=曲者ってだけあって、1年時から抜群にテニスセンスが良かった。
元々が上手だったし、さらにそんな一面も加わって即レギュラー候補にまで。

でも、そんな事を鼻にもかけず、自慢もせず、そんなトコも好きだったし、
面倒見の良い性格も、カッコイイ容姿も、全部が俺の憧れだった。
俺はこいつの、いや、こいつがパートナーで良かったって、心底感じてた。

名前は、忍足侑士。



大好きな友達がいた。

「おい、ジロー!いつまで寝てんだよ、もう移動すっぞ!」
「ん〜・・・、後、5分・・・・。」

俺の小学校じゃ、だぁれも受験して中学入るやつなんかいなくて。
結局、俺一人氷帝中学受験、合格。
そんな訳で友達なんか誰もいなかったし、知ってるやつもいなかった。
でも正直、俺友達関係なんかじゃ妙な自信あったし、絶対すぐ友達なんか出来るって思ってた。
実際もその通りで、いっつもハイテンションな俺はすぐクラスに溶け込めたし。
さすが氷帝ってのは、クラス数からもわかるように、この辺の地区じゃ珍しい1学年12クラス。
そんな確立の低い中、3年間ずっと同じクラスだったやつがいた。

12クラス。そんな12分の1の確立で、2年次のクラス替え、俺は見事にこいつと一緒になった。
こいつは自分から溶け込むとか、そんな事を知らない。
あくまで基準は自分で、文字通り自由奔放に生きてるやつだった。
なのに、一回目覚めたら俺以上にハイテンション。
スポーツ大会ん時は、一緒にゆーし率いる12組と良いバレー対決したし、
そんな変な性格も含めて、こいつと一緒にいるのは気楽で良かった。

んでもって、テニスも強かった。
目覚めた時の体力は半端じゃなかったし、なんでもすぐ吸収する性質なのか、
一回言われた事はその通りにしてみせる、そんな不思議なやつだった。

名前は、芥川慈郎。



大好きな部長がいた。

「いーやーだ!ゆーしいないのに、ダブルスなんかしないもんねっ。」
「あーん?五月蝿い、早くコート入れ。」

俺が1年生の時の、男子テニス部入部希望者は約70人。
これでも例年よりは少ないとか言われたもんだから、俺は開いた口が塞がらなかった。
小学校でやってた、遊びのテニスとは訳が違う。
初めて見学に行ったテニス部のコート。そこには試合があった。
先輩と後輩、同級生同士、学校同士の争い。テニスで、試合をしていた。
ほとんどが未経験者や、俺みたいにちょっとラケット持った事があるやつ、そんなもん。
そんな中で、一人異才を放つやつがいた。

3年生なんて、敵う相手じゃない事は誰もがわかっていた。
サーブだって速くて、高度な技術を見せ付けられて。
誰もが、あんな風に成れたら、あんな風になってやる、そう思っていたのに。
こいつは違ったのだ。こいつは3年生を超えてやる、初めからそう思っていたのだ。
技術だって、その指導力だって、俺と同じ学年だとは思えなかった。
200人の上に立つのは、こういうやつなんだって、そんなオーラを感じた。

いっつも自慢気で、やる事は何から何まで派手で、
俺はバカにされてばっかりだし、性格なんてひとっつも良くないけど、
こいつはホントに凄いんだ。この氷帝学園男子テニス部の部長なんだから。

名前は、跡部景吾。



大好きなライバルがいた。

「宍戸になんか絶対負けねー。」
「はっ、こっちのセリフだっつーの。」

跡部みたいなやつなんて、70人のなかに1・2人程度のもん。
もしくは、いるかいないかってトコ。
やっぱり大半は、練習に練習を重ねて少しずつ上手くなってくもん。
70人の中から秀でたくて、自主練とか、筋トレとか、
頑張ったやつだけが残っていくし、頑張らなかったやつは辞めていく。
実力一発勝負、それが氷帝。

俺は才能とか、センスとか、そんなもんは持ち合わせて無くて。
根性とか努力とか、そういうもんの積み重ねでここまで出来る様になった。
そんな俺と同じ様なやつが、俺と同じ様にレギュラー入りした。
ずっとずっと、一年の頃から、こいつと張り合ってきた。
玉拾いだって、ラケットの素振りだって、自主トレのために走ってたら会った事だってあった。
俺と同じ様に努力して、根性見せて、一緒にここまで上手になった。

バカ正直で、一回言われても上手く出来なくて、それでも自分で練習して。
どんなにつらくても、絶対辞めないで、やっと勝ち取ったレギュラーの座。
一番俺みたいだけど、一番俺とは似てない、そんなやつ。

名前は、宍戸亮。



大好きな後輩がいた。

「お前、まだ成長期なんじゃねーの?」
「あー・・・、かもしれないです。」

俺が必死で駆け抜けた一年間。頑張って上達した一年間。
中学二度目の4月、俺にとって初めての後輩は約110人。
確かに例年より少ないといった、去年の部長の気持ちが、この時よくわかった気がした。
が、多いだけあって、
初めの4・5月で大半の一年は部活についていけないと、コートを去っていった。
結局、6月頃までに残っていたのは、90人弱。
そして、夏の合宿後、約10人程度が退部していった。
特別上手いやつとか、そんなやつはホントにいなかった気がする。この時までは。

背、高ぇな。
当時、まだ155cmだった俺が、こいつに話しかけた初めての言葉は、確かこれだった。
まだ発達しきっていない中学1年生が並ぶ中、こいつだけはずば抜けてでかかった。
まぁ、俺の身長のせいってのも、ある意味あるんだろうけど。
でかい一年。それがいつしか、上手い一年。になったのは、何時ごろだった?
秋以降だった様な気がする・・・、突然、急にこいつは発達し始めたのだ。
身長共々、技術も。結局、翌4月にはレギュラー入りまで果たしてしまった位に。

年上だから、とかじゃなくて、こいつは優しくて、良いやつ。
向上心はしっかり持ってるのに、他の3年に疎まれたりとかしないやつ。
純粋で、テニスが大好きな、一個下の後輩。

名前は、鳳長太郎。



大好きな恋人がいる。

「大体、学校と俺どっちが大事な訳っ!?」
「・・・学校。」

あの時の俺は、友情とかテニスとか、そーゆー事に全部を費やしてた。
休みがあったら遊びたかったし、暇があればテニスしたかったし。
友達といる事がすごく楽しくて、仲間といる事がすごく有意義で。
恋とか、愛とかそんな事考えもつかなかった。 
ちょこっと、そりゃぁまぁ、告られたりした事もあったけど、正直興味も無かったし。

「一日ぐらいいいじゃんっ!今日は出かけたいっ!」
「あのさー・・・。」

初めは名前も知らなかったし、大して顔覚えてるって訳でもなかったのに。
いつも間にか目で追ってて、いつの間にか視界にいて、隣にいたくて、そう思った。
高校もずっと自宅通いだったし、絶対大学生活では一人暮らしだって決めてた。
んでもって、絶対一緒に住んでやるって決めてた。
突き返されても、追い出されても、これはもう絶対事項。

「それとも何?日吉は、俺一人さみしく街歩いてても気にしないって訳!?」

だって今は、愛情が欲しい訳で。

「・・・・そうじゃなくて、あんたの方が出席日数足りないから。」

無口で、人見知り激しいし、肝心なとき言葉は足りないし、どーも人からは好かれないタイプ。
なのに、時々びっくりするくらい優しいし、欲しい言葉をくれる。
本当は俺よりも子供で、俺よりも努力家。そんなやつ。

「今日は、おとなしく大学行きなさい。」

名前は、日吉若。

「・・・・はい。」




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