忍耐と愛嬌と根性、恋愛においての必要な物。



正直思うねんけど、景ちゃんってな、我侭やん。
そこが可愛ぇ言うたら終了なんやけど。
世間の我侭な人、に比べたかてうちの姫さんの我侭っぷりは半端やない。
やっぱな、我侭な姫さんなんかと付きおうてく上で大事なんは、忍耐なんやなぁ。


「おい、早くしろ。」

布団を剥ぎ取られ、足で背中を蹴られれば、それは目覚ましの合図。
少し身体を動かせども、到底起き上がれそうにはなく。
愚図る子供の様に、枕へと顔を埋める。

大抵の人はそうやと思うんやけど、ヤった次の日っちゅーのは、だるいやん。
ヤられた方もせやけど、ヤった方やって疲れてんねんで?
っちゅーか、むしろ腰動かすんこっちなんやから、
こっちの方が身体に来てるんやけど。

ま、当然うちの姫さんはそんな事お構いなしやな。
自分の朝食がない事にただご立腹。
気持ちよーく寝とったこっちの状態なんや、知ったこっちゃない。

「目覚めのちゅーは、無いん?」

うっかりそんな事を口走ろうものなら、
叩き起こされる所じゃあ、話は収まらんっちゅー訳で。
寝ぼけた頭は迫りくるフックをよけられるハズもなく、あえなく撃沈。

無言で部屋を出てった足音が聞こえたんやったら、そろそろ起床。
気だるい身体を叱咤して、のそのそとベットから身体を起こす。
暖かい素足を冷たいフローリングの床へと密着させれば、思わず顔を顰め。
バスルームでは、景ちゃんが大学への準備中。
ドライヤーの音がキッチンまで響き渡る。

冷蔵庫を覗き込み、適当な食材を取り出す。
一口ミネラルウォーターを飲んだなら、いよいよ調理の開始。
フライパン、まな板、包丁を取り出し、手馴れた手つきで食材を切る。

ようやく軽い朝食を作ったんなら、姫さんは機嫌上昇。
準備OKと言った容姿で、無言でちまちま食事の開始。
そこでようやくお目覚めの忍足君は、シャワーへ向かう。

身支度整えるっちゅーのも、結構時間かかるもん。
ため息吐いてバスルーム出た時なん、もう姫さんは玄関。
せっかちやなぁ。

「遅ぇ。」

ようやく玄関向かったっちゅー時には、姫さんは再びご立腹。
苦笑しつつ、その怒気を晴らす事に神経を集中させんねん。
まぁ、そない簡単に晴れてくれへんけどな。

逆撫でせん様にえー感じの言葉を選びつつ、なんとか大学までの道のりを急ぐ。
ちょっとやって遅れたら、本日2度目のフックは間違いなしや。
それを察してか、ちっともこっちなんて見てくれへん。
視線は窓の外一点張り。思わず苦笑する、忍足君の気持ちもわかるやろ?

姫さんの怒気は全く収まらへんまま、大学へと到着。
すぐさまドアを開け、助手席は空となり。
この方お礼の一つも言われた事なんてあらへんのやけど、
そないな事で文句やなんて言ってられへん。

せやかて、大事なんは忍耐やし。






正直思うねんけど、美形と付きおうんって、結構大変なんやで?
誰もが羨む素敵な恋人、つまり自分もそれにつりおうてへんかったらあかん。
特に性格もきっつい美形の場合なんか、余計厄介やね。
顔は上々、性格は策士家、そしてここで、
女慣れした愛嬌ある男が必要になってくるっちゅー事。


毎日、これでもかっちゅーくらいに
単位をとる景ちゃんの授業終了時間は、17:50。
しつこい様やけど、ちょっとやって遅れたら、
本日2度目のフックは間違いなしや。

17:40までには大学前へ。
窓を開け、身を乗り出すようにして煙草へと火をつける。
車内に煙草の匂いなんてつけたったら、確実にもう送り迎えはなしやしな。

ゆっくりとした動作で呼吸を続ければ、ふと目に留まったのは、
大学とは反対車道に居られます、二人組のキレイなお姉さま。
どうやら、話の主人公は紛れも無く自分。
ちらちらとこちらを見ては、何やら耳元へと唇を寄せて。

特に目線を動かすでもなく、そのままの体制で動作を続ければ、
そっとこちらへと歩み寄ってくるその片割れ。

どっちかっちゅーたら、派手なタイプの女。

「ねぇ、これからヒマ?」

所謂逆ナン。
えー年して、何やってんやか。

「暇や、っちゅーたら?」

それに乗ってる自分も、人の事言えたタチやないってか。

関西弁に少々の驚きを見せつつも、
冷静にクスリと微笑んだ女は、何やら相方へ目配せ。

了承した訳やないんやけど。

再び向き返り自分と数秒見詰め合えば、そっと煙草を抜き取って。
自らの口に銜えれば、自慢の不適な笑みでこちらへ言葉を発する。

「楽しい事、シに行こ?」

決まってるトコ悪いんやけど、人待っとるのわからへんかな。
そないな笑みで微笑まれたっても、
こっちは相当の美人さんと付きおうとる訳やし。
このまま景ちゃんと出くわして、景ちゃんの美形を見せつけたってもえーかな。

なんて考えつつ、表面上では同じ様に不適な笑みを浮かべ。

いや、あかんで。
この女やったら、景ちゃんまで引きずりこみそうや。
なんせあっちは2人やし?

「具体的に言うてくれへんと、わからへんなぁ?」

いや、あかんのは自分や。
どこまで乗ったる気やねん。
そろそろ引き離さへんと、景ちゃん来てまうし。

「具体的はあなた次第、でしょ?」

見詰め合う、目と目。
愛嬌持ってるったって、そろそろ限界。
結局ん所、一番は景ちゃんしか考えられへんのや。

「折角なんやけど、・・・」

そう呟いて、ふと大学の方へ目線を向ければ、何やら校庭に立ち尽くす人物が。

時が止まり何も聞こえなくなる瞬間とは、こんな時。
妙な冷や汗が、そっと顔を撫で上げる。
こちらも再び見詰め合う目と目。

け、景ちゃん・・・。

無言でかつ早足に歩み寄ってくる人物こそ、待ち呆けていた、お待ちかね美形の恋人。
予想外の嬉々とした展開に、綻ぶ女の顔など目にもせず、
予想外の不味い展開に、再び冷や汗が溢れ出る男の顔なども目にもせず、
助手席に乗り込んだ人物は、前だけを見据えてこう言った。

「出せ。」




正直思うねんけど、性格がきっついヤツって、あんまり合うヤツおらへん思うんや。
せやかて、意地っ張りやし?強情やし?妙に相手の痛いトコついてくんねや。
まぁ、やからこないなヤツと上手くやってけるんは、
そーゆー所も受け止めれる包容力あるヤツとか、後はせやなぁ・・・、
こんな相手に話し掛け続けれる、根性あるやつなんかあってるんちゃう?


「け、いちゃん?」

そう話しかければ、当然返ってきた言葉は無言。

また、タイミング悪いとこ見られてもうたなぁ。

まだ煙草現場を見られなかっただけ、唯一の救いと言った所だろうか。

「さっきんは、ちょぉ道聞かれとっただけやねん。」

明らかに嘘とわかるような御託しか、
こんな時出てこないのは、なぜのなのだろう。
いつもは自分でも呆れる程に、ハッタリかました上手い台詞が、
自然と出てくるはずなのに。

「俺から話かけたんちゃうで?」

必死にそう言えども、返ってくる言葉はやはり無言。
どうやら今日は、無視をする事に決め込んだと見た。
それはどうにも、立場が悪い。

”早めに迎え来とったやろ?”
”景ちゃん待っとっただけなんやって。”

そんな言葉を並べれども、一向に話す気配すら見せない。
結局自分ばかりが話し続けて、自宅へ到着。
エレベーターの中でさえ、響き渡るのは自分の声色のみ。

やっとの事で玄関を潜りぬければ、
姫さんは真っ直ぐにお気に入りのソファへと腰をおろす。

存在自体が無視なんかい・・・。

そろそろ本当に機嫌を直して貰わねば、今夜の情事さえもお預けだ。
忍足君としましては、そんな事はなんとしても避けたい所であり。

「機嫌、直してくれへん?」

キレイな顔立ちの横へと手をついて、覆いかぶさるように位置を固定させれば、
いたのか、という様に怪訝な目つきで上目遣い。

こんな表情しとったって、この顔に弱いんや。

暫しの見つめ合い。
先に沈黙を破ったのは、意外にも姫さんの方。

「お前、あーゆーのが好みな訳?」

帰宅後、初めて出た姫さんの言葉は、予想とは全く反されるもので。
思わず返答する事さえも忘れ、その場へと固まってしまう。
なんの反応も示さない自分の態度を肯定ととったのか、

「あっそ。」

とだけ、ため息混じりに呟くと呆れた様な表情を向けられた。
い、や・・いや、ちゃうねん。そうやないっちゅーの。

「ちゃ、ちゃうって。あんなん全然好みちゃうし。
景ちゃんの方が、何倍も美人やで?」

やけに冷や汗が流れる自分の表情に、自分自身呆れを感じる。

いつもの余裕かました忍足君とは、豪い違いや。

姫さんは数秒、再び先程と同じように視線を合わせ、
ため息を吐く。

「あっそ。」

途端、襟元を掴まれたYシャツは、あっという間にその犯人の元へ。

崩される体制。
近づく表情。
触れ合う唇。

姫さんからの口付けは、思った以上に強引で、激しい。

「・・・っ・・・。」

思わず離れたその距離に、見えた光景は一つだけ。

「お前は、俺だけ見てればいいんだよ。」

いつもの余裕かました姫さんの笑み。



きっつい言葉に耐えつつ、
愛想笑いで相手を妬かせ、
結局は粘ったもん勝ち。

忍耐と愛嬌と根性、恋愛においての必要な物。




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