デートの約束



賑やかな休日の駅前公園。そこのシンボル、調停の時計台前で俺は一人で上京してくる彼女を待っている。
正直、気が気ではない。
付き合う前から同棲していたので、待ち合わせ、と言うものをした事がなかった。一緒に出かける時は玄関から一緒だった。
だから、待ち合わせで三十分も遅刻している事を心配しながら突っ立っているのは初めてで、居ても立っても居られないのだが、下手に動いてすれ違ってしまっても困るので、仕方なく頻りに腕時計を睨みながら待っている、という訳だ。

彼女の「デートしましょう」という言葉が切っ掛けで随分と大掛かりになってしまった様に思える。
仕事で俺はユハイメルトの首都、ラーツェンベウグに一週間程滞在することとなった。その事を話すと、彼女は羨ましそうな顔をした。
「行きたいのか」
と、問うと、
「はい、行って見たいです!」
明るく即答してきた。
曰く、世界的にも花と水の都として通っている街を是非とも見てみたい。私も一緒に行っていいですか。
「私、首都って行った事ありませんし・・・そうだ!ちょうどいいじゃないですか、デートしましょう、神父様」
あれ程いい笑顔を見たら、肯くしかないだろう。
確かに首都は華やかで美しいところだが、仕事で行くので構ってられない。そこで、仕事のない最終日に一番判りやすい所で待ち合わせする事になったのだった。

「ごめんなさい、お待たせしました」
後ろから声をかけられて振り返る。遅い、と文句を言おうとしたのだが。
「あの、えっと、乗り継ぎに失敗しちゃって・・・それで遅れちゃったんですけど・・・怒ってます?」
普段よりも気合の入った化粧や、今日の為に新調したであろう洋服、改札から走ってきたのか息の上がってる様子に見惚れてしまい、高々三十分の遅刻などどうでもよくなってしまった。
「いや。無事に着いて良かった。その服は、買ったのか」
ジャケットにブラウス、珍しく膝丈のスカートにパンプス。春らしい、淡い色で揃えられた姿だ。
「ええ。どうですか、似合ってます?」
くるりと一回転する。スカートの裾が広がり、膝が見えた。
「そうだな、良く似合っている」
俺が肯定するとユリアはとても嬉しそうに微笑んだ。
この笑顔を見るためにデートするのも悪くはない。




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