腕の中で眠る恋人 多分、すごくすっごく疲れていたのだと思う。 そうでなければ、カカシは私より先に眠ることをしない。した事がない。 意外や意外、晴天の霹靂、鳩が豆鉄砲を食らったような・・・・・・なんて、驚きの表現が頭を駆け巡る。 「そんなに疲れてるなら、ヤらなきゃいいのに・・・」 小さく呟いて、ここぞとばかりに私は彼の寝顔をじっくり見つめた。 こんな機会、滅多にないのだ、本当に。 起きている時は、なぜかのほほんとした印象のその顔も ( その垂れた目と丸めた背中のせいだと私は踏んでいるのだけれど ) 、こうして閉じていると生来の精悍さが際立つようで。 でもどことなく幼く見えるのは、無防備なせいだろうか。 綺麗な弧を描く顎から頬にかけての鋭角なラインなんて、日頃口布で隠しておくのが勿体無いほど。 形の良い額に短い銀の髪がぱさりと落ちて、なかなかどうして色気もある。 寝息がちらりとも聞こえないのは、流石忍者と言うべきだろうか。微かな胸郭の上下運動で、生きている事は確認できるのだけど。 思わず口許が緩んでしまう。 こういうのを、母性本能って言うのだろう―――子どもを持った事も無いくせに、そんな風に思う。 思いながら、私は彼の左目に目を留めた。 閉じられた瞼はピクリとも動かず、普段はその瞳によって分断されている傷が一つになって見える。 左瞼の上から頬にかけてを縦断するそれは、もう既に瘢痕化していて生々しくはない。 けれど、年月が経ってもこれだけクッキリハッキリ残っているのだ。その当時は、とても深い傷だったに違いない。 だからこうして彼の顔に今も残り―――――心にも爪痕を残している。 「よいしょ、と・・・」 私はそろりと腕を伸ばして、彼の頭を抱え込んだ。 極力起こしたくはないけれど、起きてしまっても構うもんかと思う。 だって、私は彼を抱きしめたいんだもの。 抱きしめて、慈しみたいんだもの。 それが私に出来る数少ない事のヒトツで、きっと私にしか出来ない事のヒトツだから。 「ん・・・んー・・・・・・」 眠そうで気だるそうなカカシの声がして、もぞりと身動ぎ。 私はそんな彼の額に口付けを一つ。 そうして背中をぽんぽんと叩いた。 頬擦りをして、髪を撫でて。 肌の温もりを惜しみなく分けて。 私のすべてで、彼を守りたい。 とりあえず、今は彼の眠りを。この、腕の中で。 |