遠く離れてても ザッ、と耳元にノイズが走った。そして飛び込んでくる、子ども達の声。 「配置完了」 「こちらも完了しました」 「オレもっオレもっ!いつでもいーってばよ!」 三者三様の了の声。ボリュームこそは小さいが、勢いが殺しきれていない最後の声に内心苦笑しながら、カカシはインカムの位置を調節して回線を開いた。 「目標は判ってるな?逃すなよ。あー・・・・・・これも気配を殺す修行だからな」 修行、という言葉にこれまた三者三様の反応。それを聞きながら、眉を下げカカシはぽりりと頬を掻いた。 木の葉を遠く離れた山の奥。今回の依頼主はどこぞの研究所で、この山奥にしか生息しない稀少動物の捕獲が任務だ。 太陽はまだ中天を傾き始めたばかり。スムーズに行けば、日付が変わるまでには里に帰着できるだろう。 子ども達と捕獲対象の気配が探れるけれども、彼らにとって邪魔にはならない位置の枝に陣取り、カカシは幹に背を預けた。余程の危険がない限り、助言はするが手助けはしない。だから今回も、カカシが口を出すのはここまでだ。 「いいか?―――――いけ!」 鋭いその声と共に、茂みを飛び出す子ども達の気配を追いながら、カカシは少し息を吐き空を見上げた。 遠く離れていても、この空は木の葉へと続いている。 (ああ今頃――――) (――――何してるのかな) 午後一番の客を店先まで見送り、暖簾を上げた手もそのままに私は空を見上げた。 秋晴れのいい天気だ。この季節、そろそろ空気が澄んで空が高い。気持ちのいい午後の風。 彼は4,5日前にやってきて、また任務に就くと言っていた。今頃はどの空の下にいるのやら。 無事だろうか。「今回はそんな危険な任務じゃなーいよ」なんて笑っていたから、大丈夫なのだろうとは思うのだけれど。 「今回は、・・・ね」 小さく溜息をついて、私は店の中に戻った。棚の陳列を整えながら、思いを巡らせる。 忍者の仕事に危険は付き物。それは知っている。“今回は”大丈夫でも、次の任務は?そのまた次の任務は? 心配の種は尽きない。不安が心を侵食する。悶々と思い悩みそうになって、私はぶるりと一つ頭を振った。 「ああもう」 俯いていく思考にケリをつける様に、意識して声を出した。ぐいと背を伸ばす。視線を上げ、胸を張る。 待っている私が落ち込んでいてどうする。俯いていてどうする。 私は私に出来る事をするだけ。日々命懸けで任務に就く彼に恥ずかしくないように、毎日を一生懸命頑張って、毎日を大切に生きるだけ。そうしてそっと、彼の無事を祈るだけ。 そうじゃないと。 (合わせる顔がないですから、ね) 遠く離れていても、君を想う。 遠く離れていても、あなたを想う。 想いがいつか、届きますように。 |