触れていると安心する 1.Side He スゥ、スゥ・・・と規則正しい寝息を立てて、が眠っている。 それを見下ろして、漸く俺はスイッチが切れたような心持ちになった。 つい先ほどまで任務をこなした身体は重く、左目は熱く倦み、心は硬く強張っていた。 任務、特にランクの高いものの時には付き物の感覚。 昔はそれを解すのに、熱いシャワーと酒と女が必要だった。 でも今は。 そろりとゆっくり手を伸ばし、の頬に触れてみる。 春めいて暖かくなってきたとはいえ、夜はまだ冷える。 頬はその夜気に冷やされて、思ったよりもひんやりとしていた。 それでもそれは命絶えた冷たさではなく、その奥に暖かさを隠し持つ、赤みを帯びた人肌で。 ほう、とゆっくり息を吐く。 頬に触れたその手で、の長い髪に触れて。 息を吐いた唇で、の白い額に触れて。 その拍子に、彼女の前髪が俺の頬に微かに触れて。 くすぐったくて顔をずらせば、俺の顔に彼女の安らかな吐息が触れて。 が俺の身体に触れて、 俺の身体がに触れて、 気持ちがようよう、解け解れてゆく。 が、俺の心に触れていく。 ほう、とゆっくり息を吐く。 今夜もようよう、眠れそうだ。 の横へそろりと潜り込み、そうしてゆるりと目を閉じた。 そろりと腕を伸ばすと、寝惚けたが暖かさを求めるようにすりりと俺の胸に擦り寄ってくる。 その仕草が愛おしく暖かく。 そうしてようよう、俺は目を閉じた。 ま、 寝る前の俺の儀式、ってとこ・・・かな。 おやすみ、。 2.Side She 頬に触れるささやかな気配に、眠っていた私の意識がほんの少し浮上した。 ああ、カカシが帰ってきたんだ。 そうして、私は漸く安堵した。 上忍として日々飛び回る彼は、任務から帰ってくる時間も不定期だ。 昼間にひょっこり帰宅する事もあれば、こんな風に夜も更けて帰ってくることもザラで。 一緒に住み始めた最初の頃は、起きて待っていたりもしたんだけれど、そうするとかえってカカシは心配するのだった。 「俺の時間に合わせなくっていーンだよ?」 いつ帰れるかわかンないんだしサ、なんて言いながら困ったように笑うから、私は起きて待つのをやめた。 彼が無事に帰ってくるのをこの目でちゃんと見ないと不安だっていうのは私の我侭だし、それでカカシに心配かけるのは不本意だったから。 まあ確かに、会社勤めのこの身だから、連日の寝不足はキツかったし。 そんなわけで、私はカカシの帰りが遅い日には、眠りながら彼を待っている。 多分、眠りながらでもほんの少し、我ながら気を張っているんだろうと思う。 じゃないと、頬に触れられただけじゃ、額に軽くキスされただけじゃ、意識は浮上してこない。こんな風に。 カカシの掌が、私の髪を撫でていく。 さながら、ご主人様に撫でられている猫みたいな気分。 ごろごろと喉を鳴らしてみたくなる。 気持ちよくて心地よくて・・・・・・きっとこういうのを至福、っていうんだろう。 ほう、とカカシが息を1つ吐いた。 そうしてやっと、ベッドに滑り込んでくる。 これは、彼が任務から夜中に帰ってきた時、寝る前に毎回行うルーティンみたいなもの。 理由なんか聞いたことない。聞いたって意味ないと思うし。 そうする事で、彼が安心するならそれでいい。 それに、私もすごく気持ちイイから。 伸びてきた腕に誘われるように、重い身体をゆるゆると動かしてカカシの懐へと入り込む。 そうして彼の胸に包まれた。 その暖かな体温に、逞しい腕に、吐息に、カカシに擦り寄って。 はふん、と1つ欠伸した。 そうしてようよう、眠りの深海へと本当にダイブする。 まあ、 おかえりなさい代わりの私の挨拶、ってところかな。 おやすみ、カカシ。 |