食事も同じものを選ぶ。 「はい」 一言と同時に目の前に置かれたトレイに疑問を持つ事もなく箸を手に取る。そしてそれを眺めていた律は何か表現しがたいものを食べたかのように顔を歪めた。 「…先輩」 「何だ?」 「何?」 この場合は二人共に声をかけていたので両方から返事がきたのは良かったが、その先、肝心の問いかけを音にするのはどうにも躊躇われて、結局律は口を噤んだ。かわりとばかりに真が口を開く。 「それ、いつもですか?」 「?」 「それ?って、どれ?」 抽象的過ぎてよくわからないのか、二人して首を傾げて年少二人を見つめてくる。対して年少の二人は互いの顔を見合わせ、次いで目の前に並んで座っている先輩を見た。 「…恵冬先輩と夏威先輩、メニューが全く同じなんですけど…」 別に定食でたまたまかぶったのならそれはそれでよくある事だからいいのだが、この二人に限ってはそうではない。だから、律と真はつい疑問を口にしてしまったのだった。 「ああ、俺が選んでるからね。それに二人分を別々に考えて持ってくるのって少し面倒くさいから。好みが大体似てて、嫌いな物がわかっているのなら二人揃って並ぶ必要もないし。恵冬に席を確保してもらえば俺も楽だしね」 と、実に効率的な意見を述べた。ように思えるが。 「……一度も定食頼んだこと、ありませんよね?」 俺達が知っている限り。 「うん。だって嫌いだし」 笑顔でさらりと言ってのける。言われた一年生二人は先輩二人のトレイを見る。そしてそこには全て単品でしか注文できない品々がきっちりとスペース内におさまっていた。 「……何でいつも穀類か藻類か野菜のみなんでしょう…」 「「肉も魚も食べると具合が悪くなるから、かな」」 きっちりはもって答えられてしまって、律と真はそれ以上質問するのはやめた。別にたまに聞く「好きな人と同じ物を好きでいたいから」なんていう思考の末ではないというのはわかりきっているのだし、もういいか。そう結論付けたからである。 「ねえ恵冬」 「何だ?」 ゴマプリンに伸びようとしていた手を止めて、恵冬は隣のクラスメイトを見た。その顔はおかしそうに笑っていて、目の前の一年生二人を見ている。 「俺達のメニューはまあ、不思議がられてもしかたないとは一応思うんだけどさ」 「いいから要点を言え」 「うん。この二人も同じようなものだと思わないか?」 「……毎日二人揃って同じ物食べてるな」 「だよね。あー良かった、俺の勘違いじゃなくて」 「まあ、この二人も俺達と同じような理由だろうからな。いつも律がべったりと俺達にはりついて、真は面倒見がいいから二人分のトレイ持ってくるし」 「ははは。まあ律の希望聞くほど余裕はないみたいだけどね」 「律も嫌いなものでもない限り文句も言わないだろうしな」 そう小声で話して結論を導き出すと、二人とももう興味は逸れたのかそれぞれ食事を再開した。 そんな四人の様子を遠目から見ている人々にとっては、「今日もお揃いだ」という事しかわからない。だから、実はそれぞれが友人同士で同じメニューである事に気付いた面々は四人に注目していて、彼らはかなり食堂内で目立っているのだけれど、当人達は知る由もない。 「で、明日はどうする?」 「お前が選べばいい。どうせ別々に選んでも同じメニューになるだろ」 「了解。じゃ、席確保よろしく」 「ああ」 最後に、それぞれの一番好きなメニューを交換して二人は食事を終えた。毎回二人して同じメニューを食べていた結果である。 (補足:メニューを交換したのは、「いくら好きなメニューでも同じ物を二つもトレイにのせるのは躊躇われるから」です。例えばアイスクリームを二つ、とか。例えば漬物二つ、とか。そうなれば相手の好きな物をわかってるんだから互いのトレイに一つずつのせてしまえばいい、と) |