変わったところ探し。 「ときわ、はさ。部活、何してんだ?」 慣れない学校生活に放り出された俺は、とりあえず一番波長が合いそうなクラス委員に問いかけた。何故か近くにはクラス委員の残り二人もいるけれど。 けっこう、勇気を振り絞った、のに。 「何も?」 それが?と続きそうな口調に、思わず撃沈した。 「…なんで?」 「部活なんてしてたら、時間ないだろ」 なんの、時間がないというんだろう。いや確かに部活なんてしてたら放課後の数時間は潰れるわけだけど。 「特に興味を惹かれるようなものはなかったしな」 頬杖ついて、紙パックのなかみを惰性のように吸い込んでいる姿は、ちょっと間抜けなんだけれど。 「霜司、肘を突いて食べたり飲んだりしたら駄目だよ」 ああほら、やっぱり注意された。でも、注意したのは委員長じゃなくて如月だっていうのに、ちょっと驚いた。 「わかったよ」 やれやれ、とでもいうように姿勢を、まあだらしなくはない程度に保つ。思っていたより素直だ。 「何なら食べさせてあげるよ?」 にっこり笑顔で何言ってんですか委員長。ああほら、常盤が嫌そうな顔で見てる。 「自分で食えるから、ほっとけよ。それよりお前こそ早く食わないと、時間なくなるぞ」 (……えーと、あれってそんなあっさり流せるような台詞だっけ?というか、もう慣れてるみたいな印象受けるんですけど、どうなんだ実際) 頭の中では映像化された自分が頭を抱えているシーンが流れている。しかし、現実ではポーカーフェイスの浩人がもそもそとパンを齧っているのだ。 そして、その横にはふんわりと柔らかな空気を纏って微笑んでいる美少女副委員長(これは学校中に浸透している呼び名らしい。嘘だと叫びたかった)がいる。 「じゃあ、はい」 「へ?」 「「ん?」」 何が、じゃあ、なのだろう。そう思って隣を見てみれば、可愛らしい副委員長はスプーン片手にいつも以上の笑顔だ。 「……如月?」 「はい?」 「……それは?」 「霜司に食べさせてあげようと思ったので」 いや、それ、笑顔で言われても。しかもさも当たり前のように言われても。 「もらう」 「はっ!?」 藤田は駄目で、如月はいいのか!?って、そうじゃなく! 「と、とき…っ」 「はい」 「ん」 ぱくり。 もぐもぐもぐ。 (止める前に行動に移されたー!!) どうしよう。 委員長、の顔を見るのが、怖い、んですけど。 ちら、と眼球だけを動かして様子を見ようとしたけれど。無理。視界に入らない。 諦めて、首の角度を少しずらす。 そこには。 「神奈、それ、新製品?」 いた。笑顔の委員長。 「うん。果汁の比率を高くした、っていう野菜ゼリーだよ」 にこにこ。 にこにこ。 もきゅもきゅもきゅ。 「って、更に食おうとするなよ常盤!」 「なんで?」 なんでって、おい。 「気に入ったの?じゃあ、はい」 って、だから! 食いたきゃスプーンだけとればいいだろになんで如月の手ごと動かして食おうとするんだよ常盤! そんでもってなにを平然とおかわりをさしだしてるんだ如月! しかも、にこにこと笑顔で平穏そうにその様子を見守っているその姿勢が無性に怖いから、何かフツーっぽい反応してくれ藤田! とか、思ってたのに。 「はい」 にっこりと、笑顔。 その先は、やっぱり笑顔。 ……えーと。 「食べさせてくれるんだ?」 「もちかえるの、面倒でしょ?」 「うん、サンキュ。んじゃ」 あー、と開けた口の中へ、スプーンが吸い込まれていく。それは確かにさっき、常盤の口へと吸い込まれていったスプーンで。 ぱっくりと、藤田の口の中へ閉じ込められてしまった。 ……あれですか。その昔バカップルとか言われてた人たちと同じなのかそれとも親が子供の世話やいてるのと同じなのか。個人的希望は後者だけど。 転入初日にクラスメイトに言われた言葉の意味がわかった気がする。 こいつらといるんじゃ、いちいちこんな事気にしていたらはげる。気が滅入る。何で俺がそんな目にあわないといけないんだ馬鹿らしい。気にしていられるか。 いい奴らだと思ったけど。 いや、いい奴ら、なんだけど。 ちょっと、つーかおおいにというか、かなり大多数の人間と比べると変わっている。どこがなんて、変わっていないところを探す方が、きっと早い。 だって、男子校でこの空気に晒されてみろよ?生気も精気も吸い取られるって。 なまじ顔がいいのが揃ってる上に一人は女子にしか見えないから違和感なさすぎて、どこからどう指摘すればいいのか。 しかも、なんでか人気があるんだ藤田と常盤は。クラスの連中もこいつらがちょっと変わっているっていうのは認識しているみたいなのに、受け入れてるような気がするのも俺としてはちょっとアレだ。信じ難い。でも事実なのが少し泣けてくる。 変わったところ探し、は、するつもりもないのに始まっていて。けれど、転入して一週間もしないうちに、中止した。 そんな事に時間を費やすのは馬鹿らしい。 |