「君を心から愛してる! だからプリント見せて!」




「君を心から愛してる! だからプリント見せて!」
「俺も愛してるよ?だから自分でやんな」
 唐突な告白劇は、一秒で幕を閉じた。

「……また?」
「まただなあ」
 たまには自分でやってこいよ、と思う。
 それでもあの二人のやりとりはいつも変わらなくて、今日もきっと同じ解答のプリントが二枚出来上がるのだ。
「ずるいよなぁ」
「ん?」
「だって、あいつのプリント見せてもらったら満点じゃん」
 テストが悪くてもプリントだけは点数いいから先生にもばれてるだろうに、きっと成績表には反映されるんだぜ、あのプリント。
 不機嫌顔で吐き捨てられた言葉には苦笑しか返せない。
 怒っているのは、ただ単に羨ましいから。
「まあなあ。自分でやらなくても満点のプリントが手に入るなら告白くらいするよな」
「いや、あいつのあれは性格だ」
「それもそうか」
 意見が一致したところで、愛を叫んで縋り付いて泣き落として笑顔になって、やがて必死に写し終えて疲れ果てた少年が、来た。
「おー、お前も懲りないな」
「いや、昨日もやろうとしたんだけどさ…」
「難しくて諦めた?」
 びし、と硬直したと思ったら、ゆるゆると頭を下げて、がっくりと肩まで落とした。
「その通りです…」
「最初からちゃんと取り組んでたら、今頃はそれなりの成績だったかもしれないのに」
「……それ、さっきも言われた……」
「いやあ、愛されてるねえ。プリントは自分で解かないと力にならないからなあ」
「………頭ではわかってるけどっ!頭がついていかないんだーっ!!」
 頭でわかっててその頭がついていかないとは、おかしな言い方だ。
「理解しても、問題解く頭はないと」
「事実をわざわざ確認しないでくれ……」
 しょぼーんとしているのは哀れに思うが、もともとは自分が悪いんだから、同情してやる必要はない。
「まあ、次こそは自分でやれよ?」
「努力します……」
 二人にちくちくと小言を言われた少年は、半泣きで大人しくしていた。



 翌日。
「君を心から愛してる! だからプリント見せて!」
 昨日と同じ光景が、再び繰り広げられた。




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