こんなところに 「ー…ー?」 幼馴染の名前を呼んだ。 しかし、返事は、ない。 見ると、いたはずの場所には誰もいなかった。 いたのは、うざったいファンクラブの連中。 溜息を落とした。だけどそれでは何も始まらない。 …流石の僕でも、『溜息ついてる翼クン素敵ぃー』とか言われるのはごめんだからね。 学校の中に入り、教室に入った。 そこには、案の定、探していた少女が、机に突っ伏していた。 「何してんの? そんなとこで…」 そう言いながら近づくと、かすかに寝息が聞こえた。 探していた相手、幼馴染の浅葱 は、すやすやと規則正しい寝息をたてながら眠っていた。 微妙に傾いた首のおかげで、の寝顔は丸見えだ。 「こうやって黙ってれば、まあ可愛いんだけどさ…」 さっきから、ずっとの寝顔を観賞しているだけだった。 だけど、僕としたことが、心の中でつぶやいたはずの言葉が、声に出てしまった。 風もないのに、の髪がかすかに揺れた。 ―しまった…起きたか? 一瞬ドキリとしたが、結局、は起きなかった。 思わず、安堵の息が漏れる。 いきなり、が寝言をつぶやいた。 「…つ」 「…つ?」 つ? つ…? 『つ』と言われて思い浮かぶものがなかった。 「いったい、どんな夢を…」 ――見てるんだ、こいつは。 「…つ」 再び、が声を漏らす。 「翼…」 今度は、はっきり形となって、寝言は僕の耳に届いた。 翼…って、僕のことなわけ? 「まったく…ホントに、どんな夢見てるんだか…」 結局、は起きなかった。 起こす気もなかったから、ノートの端を破いてメモを残して帰った。 まあ、悪くなかったかもね。 の寝顔観賞。 |