一途な欲望
1
華美すぎず上品に洗練された高層ホテルの一室。
大きく取られた窓からは美しい夜景が見える。
窓際には座り心地のよいソファー、部屋の中央には重厚なデザインのダブルベッド。
ゆったりとソファーに身を沈めた高原は、時々週末の夜を過ごすこの部屋を気に入っていた。
サイドテーブルのワイングラスに夜景が写りこんで揺れている。
ホテルの最上階には夜景が売りのバーもあるが、たまには部屋で飲むのも悪くない。
しばらくの間、揺れる光を眺めていた。
高原はスーツのジャケットは脱いでいたが、ネクタイはまだ緩めただけだ。
結び目に指を掛け首周りをさらに開くと、視線をグラスから自分の足元に落とす――
――ソファーに座った高原の膝を割るように全裸の男が跪いている。
男は硬く反り返った高原の雄を咥えこみ舌を絡ませている。
チュ…ッ……チュク……
湿った水音が時折響くだけで、部屋はとても静かだ。
眼下には車のライトが河のように流れているが、ここまでは街の喧騒も届かない。
まるで違う世界を覗いているようだな。
高原はワインを一口飲むと、腕時計を外してサイドテーブルに置いた。
約束の時間まであと少し……
津田知哉は1時間以上もこうして高原の前に跪いている。
あとどれぐらい行為を続ければいいのかも分からない。
高原のスーツを汚さないように必死に舐め上げる。
高原はまるで知哉など存在していないかのように、一人ワインを楽しみ声すら掛けてはくれない。
脚は痺れ、顎も首も鈍く痛む。
それなのに……知哉はもう痛いくらいに感じてしまっていた。
「やっと人並みに舌が使えるようになったな……知哉」
高原が優しく髪をすいた。
「……ん、ぁ」
名前を呼ばれ、髪に触れられただけで達してしまいそうになる。
「…も、……早く……」
潤んだ目でうっとりと高原を見上げた。
物欲しそうに少し開いた唇が、ねっとりと濡れて壮絶な色気を放つ。
「いい顔だ……」
握った手の中で高原のものが硬く熱く脈打っている。それは知哉を堪らない気持ちにさせた。
吸い寄せられるように唇を落とし、たっぷりの唾液と共に舌を這わせる。ゆっくり奥まで飲み込むと、夢中で舌を絡めつけ強く扱き上げる。
知哉の動きに合わせるように、口腔で高原が昂っていくのが分かる。
「行儀よく飲めよ……」
「んっ……ん、んっ」
喉の奥まで犯されて、知哉は苦し気に眉根を寄せる。
「……イクぞ……」
高原が低く囁くのと同時に、喉の奥に勢いよく精が放出される。濃い雄の味を溢さない様に飲み下した。
「ん、ぅ……っ……はぁ……あ」
体の隅々まで高原の匂いが浸み込んでいく――知哉は甘く震えた――
白濁の液で汚れた唇を恍惚として舐める知哉。
高原は知哉の髪を掴んで上を向かせると、
「今日は面白いモノを用意してるんだ。きっとお前も気に入るはずだ」
そう言って酷薄な笑みで知哉を見下ろした。
「……ベッドに行け」
知哉は力の入らない足でゆっくり立ち上がる。
その背後でドアをノックする音――
――ルームサービス?
全裸の知哉は慌ててベッドに潜り込んだ。
「来たか……」
ドアに近づく高原に着衣の乱れは既にない。凛然として先程までの淫らな行為を感じさせない。
開けたドアから若い男の声がする。
「遅くなってゴメン、高原さん」
知哉から姿は見えないが、ホテルの従業員ではないようだ。
「オーナーが離してくれなくてさ。しかもなっかなかタクシー捕まんないし…」
まだ続けようとする言い訳を高原は一蹴する。
「……さっさと入れ」
「相変わらず冷たいなぁ……」
ぶつぶつ言いながら男が部屋に入ってきた。
声の感じよりずっと若い、二十歳(ハタチ)ぐらいの男。
はっとするぐらい綺麗な顔立ちをしている。クセのある少し長めの黒髪が、まだ未熟な美貌に色香を与えている。
長身の高原よりも少しだけ背が高く、タイトなダークスーツをラフに着こなした立ち姿はまるでモデルのようだ。
高価そうなスーツを着てはいるが、男からは夜の匂いがする――モデル……というよりホストか?
知哉がじっと見ていると、振り返った男と目が合った。全裸だったのを思い出し、慌ててベッドの中で身を縮めた。
「っ……」
赤面する知哉の姿にふっと笑うと、男は視線を高原に戻した。
全裸の知哉がベッドにいるのに気付いても動じる気配はない。
「可愛いヒトだね」
年下の男に、しかもこんなみっともない姿を可愛いなどと言われ、知哉はもう消えてしまいたかった。
「ああ、可愛いだろう?」
「あのさ、何度も聞いてアレなんだけど……ホントにいいの?」
男はそう言いながらジャケットを脱ぎ、ソファーに投げ捨てた。
高原はそのジャケットを端に寄せ、ソファーに深く座り高く脚を組むと、面白そうに男に声を掛けた。
「なんだ?その気になれないか?」
知哉には男を部屋に招き入れた高原の意図が、全く分からなかった。
二人の会話に口を挟むことが出来ないまま、何とか自分の置かれている状況を把握しようと話に耳を傾ける。
「気が乗らないんだったら邪魔だ、帰れ」
「帰る?まさか!」
横柄な高原の言い様にムッとして、男は着ているシャツを乱暴に脱ぎ捨てた。
「後悔しないでよ?止めてあげないからね?すっごい美人だし、かなりオレの好みだし」
「――じゃあ早く犯してやれよ」
高原はまっすぐに知哉を見ながら男に言い放った。
耳を疑い茫然としていると、男が静かにベッドの端に膝をつき、知哉の髪にそっと口付けた。
「っ……!な、止めろ!」
肩を突き放した腕を捕まえられ、逆に男の胸の中に引き寄せられた。
高原とは違う、甘い匂いが鼻孔をくすぐる。
「いや……ッだ、高原、さんっ!」
迫る男の体を必死に押し返し、縋るような目で高原を見る。
なんの冗談のつもりか知らないが、早く助けて欲しい。
もうこれ以上の恥辱には耐えられない。
男の手が優しく膝を撫で、そのまま太ももに進もうとしている。
知哉のものはすっかり萎えてしまっていたが、太ももは高原への奉仕の時に滴った先走りで既に濡れてしまっていた。
それに気付かれるのが嫌で身を捩るが、男の手は止まらない。
「可哀相に……こんなに漏らして……ずっと焦らされてた?」
すぐ耳元で掠れた声で男が囁く。
「――すぐに良くしてあげる……」
ひんやりした指先で首筋を撫で上げられた。
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