「ねぇクリフト、今時間ある?」
突然声をかけたにも関わらず、クリフトは軽く微笑みながら、いいですよと言ってくれた。


例えばこんな些細なしあわせ



「じゃあさ、クイズね。問題出すから、クリフト答えて」
「クイズですか。わかりました、いつでもどうぞ」
心なしか楽しんでいるようにも見える、いつもよりもちょっと子どもっぽい表情が何だか少し可笑しい。
「じゃあ第一問。僕の名前は何でしょう」
「…………は?」
今のが?と目だけで聞いてくるクリフトに、目だけでそうだよと返す。
すると彼は半分呆れ、半分困った様子で、でも改めて言うのも少し抵抗があるし…といった顔でコホンとひとつ咳払いをした。
「…ユーリルさん、でしょう?」
「うん」
「クイズって…これじゃクイズになってないですよ」
「そうかなぁ」
誰がどう考えてもクリフトの言うとおりだ。 それでもこんなバカみたいな問題に答えてくれるクリフトは、やっぱりお人よしだなぁと改めて思う。
人がいいだけじゃなく、そこには彼の分け隔てない優しさもあるわけで、僕はそこがすごく気に入っていたりする。
「じゃ、次ね。僕の生まれ故郷は?」
「ブランカ地方にある村ですね」
「正解〜。じゃあ僕の宝物は何だと思う?」
「シンシアさんの形見の羽根帽子と、スライムピアス。
…いつも大事そうにしていますよね。必ず一日に一度は眺めていますし」
ほら、よく見てるんだ。細かいところまで、よく。
ただそれは僕のことを特別よく見ているわけじゃなくて、誰にでも気を配れるクリフトの無意識のうちの特技なんだけど。…まぁ、それはいいや。
「うん、そう。当たり。よく見てるなぁ。じゃね、好きな色は何だかわかる?」
「ええと…青、ですよね?前に、空の色と同じ、澄んだ青がとても好きだって」
「そうそう、うわぁ、よく覚えてたねクリフト、そんなことまで」
「あの時のユーリルさんは、何だかとても嬉しそうでしたから。印象的だったんです」
「そっか」
「でも…妙なクイズですね、何だか。まるで私が知っていることばかり聞かれているような気がします」
「え、そうかな…?そんなつもりはなかったんだけど、そんな感じだった?」

なんて。
クリフトを好きになってから僕は嘘をついてばかりいる。
もちろんクリフトの言うとおり。確信犯だ。
だって、嬉しいんだ。 クリフトが僕のことを、僕が好きなものや好きなこと、それだけじゃない、僕に関するいろんなことを覚えていてくれる。
…それだけで満たされるなんて、何だか格好悪くて誰にも言えやしないけど。
男が男を好きになって、まさか好きなんだけどなんて言える筈もなくて。
それでもこうして他愛もないことで得られる満足感が、今の僕には何より大事だ。

「それじゃあ、最後の問題ね」
はい、とくすくす笑うクリフトの耳元に口を近づけて、声を潜めた。
「……え!?…そんなこと、私に言ってくださったことありましたっけ?」
「…さぁ、どうかなぁ」
「………すみません、わかりません、降参です。…で、答えは?」
「それは……やめた、教えない」
「えっ、な…ちょっと待ってください、そんな中途半端な…」
言いかけたなら教えてくださいよ、とせがむクリフトに、僕は笑った。
「わかった、教えるよ。…でも、今はダメ」
来るべき時が来たら、ってことで、とまた笑いながら言って、逃げるように走っていった。

最後の問題の答えは、まだ言うわけにはいかないけど。
来るべき時が来たら、クリフトに教えてあげよう。

『…最後の問題ね。……僕が好きな人は誰でしょう?』

背中に向かって投げかけられる自分の名前を聞きながら、最後の問題を胸のうちで繰り返してみた。