抜けるような青空っていうのは、こんな空のことを言うのかもしれない。
その時ふと、そう思った。
そう思わずにいられないくらいに綺麗な青。
…ううん、綺麗なんて言葉じゃきっと物足りない。
窓を開ければ乾いた風が頬を撫でる。さわさわ、心地いい音を響かせながら。
庭を見れば色とりどりの花が日の光を照り返して宝石みたいに輝いてる。
太く大きく佇む木の幹に、淡い緑色をした若葉が、分厚い屋根のように覆いかぶさって
見上げれば金色の光が木漏れ日となって、揺らめきながら地面に落ちてくるの。
こんなに晴れた日なんだから
……ねぇ、あなたならどう思う?
こんなに素敵な日なのに、こんなに胸がドキドキしてるのに、今にも飛び上がっちゃいそうなくらいなのに。
それなのにこんな小さな部屋の中で、本を広げて魔法の勉強。
この国の歴史について。歴代の王様が、どんなことをしてきたか。どんなふうに国を大きくしてきたか。
そんなこと、今やらなくたっていいじゃない。
ほんの一歩外に出れば、こんなにきらきらした空が広がってるのに。
ほら、だって、よく考えてみて。
今ここに広げてる本は、そこに書かれてることは明日になったって
今日とおんなじことだけど
今ここに広がってる空は、明日になったらなくなっちゃうのよ。
風の匂いも、太陽の色も、雲の模様も、きっと今日とは違うもの。
もう二度とこんなに、ドキドキするような景色は見られないかもしれない。
こんなに透明な青い色した空には、もう二度と出会えないかもしれない。
空を見上げて、今日の今この一瞬と同じくらい、胸がワクワクすることなんて、もう一生ないかもしれない。
そんなのもったいないじゃない。だって今、私はこんなにワクワクしてるのに。
……そうよ。やっぱり無理。
こんな日にこんな狭い部屋の中に閉じこもってるなんて、もったいなくてできっこないわ!
「―――クリフト!クリフトはおるかッ!!」
「ブライ様。どうなさったんですか、そんなに慌てて」
「姫様が見当たらぬのじゃ。お主、この辺りで姫様を見かけてはおらんか?」
「姫様がですか?……ああ、今日はいい天気ですからね。
姫様は、このような日には外で体を動かすのが一番と、常日頃から仰って……」
「ええい、何を悠長なことを言うとるか!
今日は午後から魔法の勉強だとあ・れ・ほ・ど言っておいたというに!
クリフト、お主もボーっとしとらんで姫様探しに協力せい!」
「ブライったらまたあんなに怒ってる」
二階にある部屋から庭に飛び降りると、城の中ではまだ、ブライとクリフトが私を探して走り回ってる音が響いていた。
……あの二人も、あんなことしてないで、私みたいに外に出て来たらいいのに。
空を見てるだけで、風を感じてるだけで、胸がドキドキする。こんなに幸せなことってないのに。
まだ空の真ん中にある、金色の太陽の光に目を細めながら、私は思いっきり深呼吸した。
風の匂い。緑の匂い。黄金色に輝く、甘い甘い、初夏の匂い。
「さぁ、まだまだ日は長いわ。いってきまーす!」
柔らかな緑の芝を勢いよく踏みしめて、お父様とブライとクリフト、三人が私を呼ぶ声も気にも留めないまま、私は全力で駆け出した。