It's sweeter than honey





 ――夢を見た。
 久しく見ていなかった、ランド様の夢を。
 ランド様は以前見た夢と同じく書斎の椅子に座っていて、しかし以前見た夢とは違い――
「リック――
 ――馴染みのある声が意識の裡に響く。
 その声で、夢の淵にあった私は現実に引き戻された。
 入れ代わりに意識を支配したのは薄明るい朝の光。
 淡い陽光が、かろうじて留まっていた夢の残滓を塗り潰し、ただ「夢を見た」という記憶だけが意識の隅に残った。
「おはよう、リック」
 先ほどと同じ声が再び耳朶をくすぐる。
 眼鏡が無い為、その姿は視界の中で形を持つことなく薄ぼんやりと揺らぐのみ。
 手探りで眼鏡を探し当て、かける。
 瞬時に、靄のかかった視界が明瞭になり――声の主の輪郭がはっきりとした像を結ぶ。
 そこにいたのは見慣れたお嬢様。そして、同じく見慣れたフォルテンマイヤー家のメイド服。
 メイド服を着たお嬢様が、微笑んでいた。ベッドから上半身を起こした私を、やや見下ろす位置で。

 柔らかい秋の朝の日差しが、窓から室内に降り注ぐ。
 ちゅんちゅんと、窓の外から聞こえるのは、のどかな鳥の囀り。
 いつもと何ら変わらぬ、私の部屋。
 そしてメイド服のお嬢様。
――え?」
 お嬢様。
 メイド服。
 いつもと変わらぬ風景の中に混入する異分子を、ようやく機能し始めた私の脳が認識し。
「えええええぇぇぇぇぇーっ!!」
 私は絶叫した。

 ――なるほど。どうやら、私はまだ夢の中にいるらしい。
 そう結論付け、再びベッドに潜り込もうとして――
「なに寝直そうとしてるのよ」
 襟首を掴まれた。
「いえ、あまりにも恐ろしい光景を目にしたので、これはきっと悪夢に違いないと」
「ほぉう。何がどう悪夢なのかしら?」
 ぎゅう。
 言うなり、私の頬をつねり上げるお嬢様。
 口元には笑みを浮かべているが、目は笑っていない。額にはうっすらと青筋。
 行動も表情も、まさしく普段通りのお嬢様だった。
 これが夢の中であるのならば、お嬢様はもっと大人しいか、逆にもっと邪悪になりそうなものだ。
 ……前者は無いだろうなあ。一度は見てみたい気もするが、起きた後に夢だと気付いて激しく落胆するくらいなら、最初から見ない方が精神衛生上良い気がする。
 ともあれ、お嬢様が普段通りであるのならば、これは現実だと考えるのが妥当だろう。
 ……こんな事で判断できる自分自身が悲しい。
 が、痛みを快楽に感じるほどには堕ちていないのだと安心しておく方が得策かもしれない、と思い直す事にしておいた。
 Nice ポジティブシンキング・私。
 とはいえ、痛いものは痛い。
「こ・れ・で・ゆ・め・で・な・い・こ・と・が・わ・か・っ・た?」
 予期せぬ不意打ちの一撃だった所為も手伝って、言葉も発せず、ただこくこくと頷くしかない私。
「解ったならよろしい」
 それでもお嬢様は満足したようで、ようやく私の頬から手を放した。

 この状況で寝ている訳にも行かず、私はとりあえずベッドから出る。
 あまりの痛みにちょっぴり滲んだ涙を拭い、まずは現在の状況を正しく認識する作業から始めることにした。
 再度、お嬢様の姿を確認する。
 何度見ても、やはり着ているのはメイド服以外の何物でもない。
 試しに目を閉じてみる。
 深呼吸し、心を落ち着けてカウントダウン。3、2、1(three,two,one)
 目を開く。
 ――目の前には、変わらずメイド服姿のお嬢様。
 ということは、寝起きの不安定な精神が見せている幻という訳でもないようだ。
 眼鏡の調整が原因という線は、そんなピンポイントな悪戯をエルネスタさんが仕掛けるとは思えない為、却下。

 ならば今度は、昨夜の行動を思い返してみよう。
 確か――お嬢様の部屋に行き、お嬢様が眠りについたのを確認してから部屋を辞した。
 その後はこの部屋に戻ってそのまま眠り、先ほどまで一度も目を覚まさなかったはず。
 その一連の行動の中に、どう考えてもメイド服のお嬢様などという要素の入る余地は無い。
 実は私が夢遊病を患っていて、無意識の内にお嬢様を運び出し、更にメイド服に着替えさせた……?
 いやいやいやいや、まさか。意識無意識双方で、私にそんな趣味は無い。……無いと信じたい。
 もしそれが事実なら、私は銃を口に咥えて銃爪(ひきがね)を引くしかない。
「どうして私がここにいるのか解らないって顔してるわね、リック」
 愉快でたまらないといった表情でお嬢様が言う。
 どうにかして論理的な回答を見出そうと四苦八苦している、私の内心の動揺などお構いなしだ。
 ――いや、違う。
 お嬢様は、私の動揺を意に介していないのではなく、明らかに解った上で面白がっている――
 行き場のないもやもやとした感情を覚え、思わず溜息が洩れる。
「……その通りでございます。よろしければ、経緯をお教えていただければ、と」
 ここは素直に白旗を揚げよう。まずは納得の行く理由を手に入れるのが先だ。
「経緯なんて、そんな複雑なものじゃないわ」
 うふふふ、と微笑むお嬢様。
「私が自分の足で、ここに来ただけだから」
「そうでございましたか」
 これで私が夢遊病でないのだけははっきりした。お嬢様がご自分の意思でここに来られたというのなら……
「ってそれ、私が起きていない時刻に来られる理由になっておりませんが。それに、来られたら来られたで、すぐに起こしてくだされば良いものを……」
「だって私、リックの寝顔を見たことがほとんど無いんだもの。私はあなたに何度も見られているのに、不公平だわ」
 そういう問題ですか。
「だから、リックが絶対起きてないような時間を見計らってここに来て、自然に目を覚ますまで待ってたの。お陰様で、寝顔はたっぷり堪能できたわ。可愛かったわよ、すっごく。ふふふふふ」
「え……」
 そう語るお嬢様はとても幸福そうだった。見ている私までつられて嬉しくなるような、そんな表情。……対象が、私の寝顔でさえなければ。
 お嬢様に寝顔を見られるのは別に初めてという訳ではない。
 しかし、改めて「可愛い」などと評されるのはやはり恥ずかしい。加えて、不可抗力とはいえ、無防備な姿を晒してしまった羞恥もあり、思わず赤面してしまう。
 ――ではなくて!
「お嬢様……一般的にはそのような行為を、”寝込みを襲う”と言いませんか……?」
「あら、私はリックを見てただけで、別に襲う気なんて無かったわよ。もっとも、」
 ニヤリと笑うお嬢様。
「あと30分起きなかったら、してたかもしれないけど」
「お嬢様……」
「このフライパンで」
 何処に隠し持っていたのか、お嬢様がフライパンとお玉を掲げる。
「それは、”襲う”の意味が違いませんか?」
「でも朝起こす時はこうするのがセオリーだって、本に書いてあったし。何の本だったかは忘れたけど。えーと……確かこう、頭にがーんと一発」
 使用方法も激しく間違ってます。
 それでは起きるどころか永遠の眠りに付かされかねない。
 自身でも気付かない間に危機にさらされていた私の生命。今この時、生命のある事を感謝する。目が覚めて良かった。本当に良かった。
 だが安堵の前に、まだ確認するべき事柄があったのを忘れてはならない。
 気は進まないが、こればかりはきちんと理由を知っておかねば。私自身の心の平穏の為に。
「もう一つだけよろしいでしょうか、お嬢様」
「何かしら?」
「お嬢様が今お召しになっているのは、その、め……」
 口に出すのも恐ろしい。
「メイド服?」
「そう、メイド服が。――はい?」
 私の見たものが事実であると、当のお嬢様本人の言葉によって、たった今、証明された。
 見間違いでも錯覚でも何でもなかった。思いっきり見たまんまでした。
 あああああ。
 思わず頭を抱える。
 そんな私を見て、お嬢様はまたも邪気たっぷりの微笑で問いかけてくる。
「びっくりした?」
「驚きましたとも。それはもう、これが現実だと認識したくないほどに」
「……言葉の端に微妙に引っ掛かる所があるけど……まあいいか」
 私の返答にお嬢様は一瞬だけ眉を顰めたが、すぐにその表情は満面の笑みへと変わり――
「大成功だわ!」
 何故か盛大なガッツポーズをかました。
 ちょっと待て。
「何が大成功やねん……いえ、大成功だと仰るのですか?」
 うっかり素でツッコミをしてしまう所だった。直前で気付き、何とか取り繕う。
「だって今日はハロウィンでしょ」
 言われて思い出す。本日の日付は10月31日。確かにハロウィンである。だが。
「……何故メイド服なのですか……?」
「勿論、あなたを驚かせる為に決まってるじゃない」
 さも当然といった風に胸を張って答えるお嬢様。
「普通の仮装じゃ面白くないでしょ。もっとリックの意表を突くような衣装はないかと思って」

 ――突如、忘れ去ったはずの今朝の夢の記憶が脳裏に蘇る。

「リック、セルマを頼む」
 ランド様が告げるのは、以前見た夢で聞いたものと同じ言葉。
 あの時と同じ言葉に、私も同じ答えを返す。
「はい。お嬢様は、何としてでもお守りいたします」
 しかし何故か私の返答に首を横に振るランド様。
「いやいや、そうではない。私が言いたいのは――
 言って、ランド様は笑う。
「セルマの悪戯にも付き合ってやってくれると私はとっても嬉しいなー」
「……は?」
「という訳でよろしく頼んだぞリック。私はここから見守っていようではないか!ぬはははははっ!」
 生前にあれほど笑ったのを見た記憶があっただろうかと思うほどに、豪快に笑いながら遠ざかって行くランド様。
「お待ちください、仰っている意味が解りません!ランド様!ランド様ーっ!!」
 追いかけようとした私の足に何かが絡みつく。
 見れば、どんなに振りほどこうとしてもますます絡みついて離れないそれは、人の腕。
 必死に腕を解こうとする私から、ランド様は一層遠くなっていく。
「うふふふふ……逃がさないわよ、リック――
 腕が声を発した。いや、発したのは腕の先に伸びた頭。
 ずるり。
 流れるような長い黒髪の下から覗く、邪悪な笑み。その顔は――
「さ、貞――――もといお嬢様――!」

 ――それが、今朝見た夢の全てだった。
 悪夢も悪夢、思い出すことさえ厭わしい、最上級の悪夢だった。

 ハロウィンには、死者の霊が生前親しかった者に会いに来るという。
 ならばランド様が夢に現れたのも、今朝起こる事態を私に告げる為だったのだろうか。
 ですが、ランド様。

 タイミングごっつ遅いです――
 あと言うだけ言って去られる辺り、超見捨てる気でしたね――

 そんな風に夢の中のランド様に怨嗟の言葉を投げかけ、逃避しようとする私を、お嬢様が現実に引き戻す。
「ここまで大成功だと清々しいわね。キャロルに相談した甲斐があったわ」
 ゴシップ好きのメイド長の名を聞いた途端、とある確信めいた予感が頭に浮かぶ。
「という事は、キャロルもこの件に絡んでいるのですか……?」
「そうよ。だってこの服はキャロルに借りたんだもの」
 これは、後でキャロルにも問い質しておかねばなるまい。恐らくは、そう遠くないうちにその機会も訪れるだろうが。
「で、どうかしら?似合う?」
「似合う似合わない以前に、お嬢様がメイド服、という状況が怖……いえ、何でもございません」
 危うく出そうになった本音を、慌てて封じる。
 正確に言えば、メイド服を着たお嬢様が怖い訳ではない。
 そのような突拍子もない行為でお嬢様が何を企んでいるかを考えるのが、怖い。
「な・ん・で・す・っ・て?」
 私をぎろりと睨みつけるお嬢様。視線だけで既に怖いです。
「怖いくらいにお似合いです」
「その台詞が棒読みでなければ嬉しかったわね」
 ジト目。
 その視線に耐え切れず、目を逸らす。
 窓の外からは、相変わらず賑やかな小鳥達の声が聞こえる。
 鳥はいいなあ。自由に空を飛べて。
 ………………。
 ………………。
 しばしの無言の時が過ぎた後。
――あ、そうだわ。こういうのはどうかしら?」
 唐突にお嬢様が声を上げた。何か面白いことを思いついた、というような笑顔。
 何だか素晴らしく嫌な予感。このような笑みを浮かべた時のお嬢様は、向けた相手に対して良からぬ事を考えているというのが、経験則で分かっている。
 なのだが、かといってお嬢様を止めるなど私にはできようはずはなく。
「着ている服に合わせて、今日一日だけリック専属のメイドをやるの」
「………………はい?」

 ――脳裏に、メイド姿で奉仕に勤しむお嬢様の姿が浮かんだ。
 しかし。
 悲しいかな、お嬢様に長年仕え、お嬢様の性格を身をもって知っている私には、無心で奉仕するお嬢様などという構図はどうしても思い浮かばなかった。
 一見奉仕しているようで、その実、裏で何を考えているか全く読めない。
 奉仕させたらさせた分だけ、後で相応の反応が倍返しで返ってくるに違いない――そう考えると、とてつもない恐怖が襲う。
 やはりメイド服などという非日常的な衣装をまとっている今日のお嬢様は一味違う――
 というか、明らかに先刻の私への仕返しにしか思えないのですが。
「今日だけ主従逆転。面白そうじゃない?」
 そう言って、お嬢様は片目を瞑る。
「一体何を仰るのですかお嬢様!」
「リック、今日のスケジュールはどうなってる?」
 私の制止など聞く耳も持たず、勝手に話を進められた。
「……午後に会合の予定が入っておりますが、午前中には何も予定はございません。ですが――
「そう、じゃあ午前の間だけならできるわね。決定」
「お待ちくださいお嬢様――
「そういう訳だから、何なりとご命令を。ご・し・ゅ・じ・ん・さ・ま?」
「うっ……」
 つつつ、と。
 唇に触れたお嬢様の指が、唇から頬へ、更に首筋まで撫でていく。撫でられた部分にぞわりと走る感覚。
 蟲惑的な笑みに危うく飲まれそうになり――ギリギリの所で我に返る。
 思わず、自分の領分を忘れてしまう所だった。
 なおも静まらない動悸を抑える為に、咳払いを一つ。
――では、”ご主人様”としてお願いします。どうか今すぐにメイド服を着替えてください」
「ふうん。そんなに嫌なら、あなたがこの場で脱がせたらどう?」
 またしても、ニヤリと黒い笑みのお嬢様。
 相変わらず、お嬢様はこの手の冗談がお好きなようだ。
 同じ内容でからかわれる自分も自分だ、と時々悲しくなるが、それは仕方ない。
 しかし今回に限っては少々状況が違う。
 私はすぐには答えず、扉の前まで歩き、
「滅相もございません。そのような事をしても――
 無造作にドアを開いた。
「ひゃっ!?」
――ドアの前で聞き耳を立てているキャロルを喜ばせるだけですので」
 開いたドアの先には、キャロルが立っていた。
 やっぱり。
 気まずげな笑顔を見せる彼女に、私は微笑む。
「おはようございます、キャロル。こんな朝から何の用でしょうか?」
「え、えーと……その……お、お嬢様がリックの部屋からなかなか出て来ないから、ちょっと心配になって……」
 笑いを顔面に張り付かせたまま、じりじりと後退するキャロル。
「なるほど。つまり貴女はお嬢様がこの部屋に入る時から見ていたと」
「いやほらまさかこんな朝っぱらからそんなコトにはならないとは思うけど、一応、ね……?」
「そんなコトとは、どのようなコトを言っているのでしょうか?」
 にっこりと、キャロルにあくまで笑顔で迫る私。
 それにつれて、キャロルも更に後ろに下がっていく。
「ああ、そうそう。先ほどお嬢様にお聞きしましたが、お嬢様にメイド服を貸したとか。その辺りの事情について、少々伺いたい事があるのですが」
「そ、それはその……えーと……」
「それくらいにしておいてあげなさいよ、リック」
 背後からお嬢様の声がかかる。
「頼んだのは私なんだから。キャロルは悪くないわ」
「いえ、お嬢様、私はそのような事を指しているのではなくてですね……」
 うっかりお嬢様の方に向き直ってしまったのがまずかった。
「じゃ、じゃあ、私仕事が残ってるからまた後でね!」
 一瞬の隙を突いて、走り去っていくキャロル。
 逃げられた。
 まあ、キャロルは後でいくらでも問い詰める事ができるか。部屋の前からいなくなってくれれば、とりあえず問題はないのだ。あの状態ならば、しばらくは戻ってくる可能性もないだろうし。
 足音が遠ざかるのを確認して、私はドアを再び閉めた。
 小さく溜息。
――こうなるのが容易に想像できるので、このような話にキャロルを噛ませるべきではないと思うのですが」
「でも、結局誰に頼んだって、最終的にキャロルに話はばれるわよ」
「確かにそうですが……」
 ゴシップ好きの彼女なら、どこでどうやって話を聞きつけてくるか分からない。
 そして一旦気付かれれば、メイド長のキャロルに逆らえるメイドなどいようはずもないのだから。
 そのまま芋蔓式に話は全て筒抜けになり、結果、キャロルがああして外で待ち構える事になったという訳だ。
「ですから、最初からメイド服など着ようと考えなければ良かったのだとはお思いになりませんか?」
「でも、さっきのリック、すごく驚いてたじゃない。これはメイド服だったからこそ引き出せた反応に違いないわ!」
 ……握り拳まで作って主張しないでください、お嬢様。
 そもそも、単なる仮装とコスプレを混同しています。
「そう思わない?」
 でもって、私に返答を求めないでください。
「そうですね、そういう事にしておきます」
 今日は朝から――いや、夢の中から既に、精神力を消耗するような事ばかりが立て続けに起きている。
 もう何だか全てがどうでも良くなって、私は反論する気も起きずにそう返事をしたのだった。
 いや、どうでも良くない事がたった一つだけ。
「お嬢様、言い忘れておりましたが」
 これだけは今のうちに伝えなければ。
「え、何?」
「メイド服のお嬢様も、大変に魅力的ですよ」
 そう告げて、私はお嬢様に微笑んでみせる。先刻とは違う。今度は心からの、感情を込めた言葉で。
「あ……。あり、がとう……」
 そう小さく呟いて頬を染めるお嬢様は、とても、可愛らしかった。

「ところで、何か大事なことを忘れてる気がするのよね。確か、ハロウィンに欠かせないもの」
 うーんと唸るお嬢様。
 それは、多分。
「あ、思い出した。言葉よ、言葉」
「……お嬢様、もうあの言葉に意味はない気がするのですが。私は既に思いっきり悪戯をされておりますゆえ」
「いいじゃない。こういうのは形式も重要なのよ。だから、ちゃんと返事を返してね?」
 そう言ってお嬢様が片目を閉じ、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
お菓子をくれないと悪戯するわよ?(T r i c k  o r  T r e a t)
 その問いに対する答えなど、一つしかない。
 私はお嬢様の顎に手を添える。
 私の答え。それは――
「あ……っ」

 どんな菓子(sweets)よりもなお甘い(so sweet)、蕩けるような口付け。






  〜おまけ〜 ↓※ED後なので反撃有り。

「って、ななな何してるのよリック?」
「勿論お分かりの通り、お嬢様のメイド服を脱がしておりますが」
「ちょっ、ちょっと待ってよ。どうしてそうなるの?」
「こなすべき事は一通りやり終えたのでは?ならば、今更メイド服を着ている必要はありますまい」
「そ、それはそうだけど、でもほら、他に仕事とか一杯あるじゃない!」
「先ほど申し上げました通り、午前中は何も予定が入っておりません。ですので、あと4時間は自由に使えます」
「公務が入ってなくても、他にやりたい事が……あっ……や……」
「ですが、お嬢様ご自身が、本日の午前中は何でも私の命令を聞くと仰いませんでしたか?」
「で、でもっ!誰かが来た……らっ、んっ……どう、するの……よ……!」
「先ほどの様子なら、キャロルは当分戻ってくることはないでしょう。ちなみに鍵もかけてありますので、うっかり誰かが入ってくる可能性もないかと」
「う……」
「そういう訳ですので、3時間の間は私に付き合っていただきます。構いませんね、お嬢様?」
「……こっ、ここここのエロ執事ーっ!!」









リッくんはできる子です。