はなのかんむり










「っはぁ〜。どこだよここ〜。」

「…森の中、だね。」

「わかってるよ!」

「じゃあ訊かないでよ。」


鬱蒼と茂った森の中で、エドとアルは先程から延々とこのような会話を繰り返していた。

空は見事な秋晴れ。
しかし森の木に遮られ、そんな空さえも拝むことの出来ない場所を2人はかれこれ3時間近くも歩き続けている。


つまり、彼らは道に迷っていた。


「ったく誰だよ!街道歩くよりも森の中突っ切った方が早いとか言ったのは!」

「兄さんでしょ。」

「…アルうるさい。」

「もう、八つ当たりしないでよ。」


人間お腹が減ると心がささくれ立ってくるものだ。
例に漏れずエドも、疲れと空腹でイライラが募っているらしく、さっきからアルに当たっては迷惑がられていた。


「地図では30分も歩けば抜けられそうだったのにさ。一体いつになったらこの森抜けられるんだよ〜…。」


アルに文句を言ってもやり返されるためか、今度は1人で何やらぶつぶつと言い始めるエド。
そんな兄を見て、アルは「全く、どっちが年上なんだか」と思いつつため息を零す。



と、その時、木々の向こうに明かりが差しているのを見つけ、アルは声を上げた。



「兄さん!あっちの方、森が開けてるみたいだよ!街道に出られるかも。」

「おっ!本当だ!よし、行くぞ!アル!」

そう叫ぶが早いか、さっきまでだれ気味だったのが嘘のように元気に駆け出すエド。
そんな兄に呆れつつも、アルは黙ってその後を追って行った。













「あ…。」
「うわぁ!」


森を抜けたそこは、街道では無く一面に秋桜が咲いた花畑が広がっていた。
だけど周辺に民家は見当たらず、誰かが手入れをしている様子もない。
どうやら、どこからか種が運ばれてきたものが群生してこうなったようだった。


「すごいね!どこだろうここ…?こんなにたくさん秋桜が咲いてるところなんて初めて見たよ。」

おびただしい花の数に、思わず感嘆の声を上げるアル。
しかし、それに対してエドは至って冷静だった。


「そうだな。まぁ、道に迷っている事には変わりないし、花じゃ腹は膨れないけどさ。」

「もう!兄さんは!」


エドのムードもへったくれもない発言に拗ねるアル。
そんなアルの様子を見て、エドは小さく笑った。


「冗談だって。腹が減ってるのは本当だけど。でもまぁ、一回ここで休憩するか。」


エドは笑いながらそう言うと、手近にあった木に寄りかかるように腰を下ろしアルに手招きをした。
アルも、促されるまま同じようにエドの隣に座ると、2人は秋桜を眺め始めた。












*************









「ねぇねぇ、兄さん覚えてる?昔ウィンリィがさ、秋桜が好きで、秋桜で作った花の冠が欲しいって言ったから、二人で作ったことがあるよね。」


秋桜を見て昔のことを思い出したのか、不意にアルがエドにそんなことを話しだした。
エドもその話を思い出したようで、アルに大きく頷いてみせる。


「そうそう。花の冠なんて作ったことなかったから、母さんに作り方聞いたりしてな。」


そう言いながら、エドは手近にあるコスモスを数本手折り、決して器用とは言えない手つきでそれを編み始めた。
それを見たアルも一緒になって花を摘み始める。


「でもやっぱり兄さんはこういうの下手だからさ、ウィンリィに『そんな下手くそなのいらない!』とか言われて怒ってたよね。」

「あぁ。本っ当失礼だよな、アイツ。」

「ふふふ。でもそれから兄さん、1人でこっそり練習してたでしょう。」

「なっ!?見てたのかよ?」


怒っていたかと思うと、次の瞬間には真っ赤になるエド。
その表情豊かな様子に、「からかい甲斐があるなぁ」とアルは笑みを零した。


「うん。ばっちり。けなげだよねぇ。」

「そんなんじゃねーよ!ただアイツにバカにされたのが悔しかっただけだ!」

「ふ〜ん?そうなんだ?」

「なんなんだよ!その含み笑いは!」

「べっつにぃ〜。」


明らかに笑いを含んだ声色でからかうように言われ、エドは赤くなった顔で暫くアルを睨みつける。
しかしそのうちふいっとアルから顔を背けると、不貞腐れた表情のままで冠の続きを編み始めた。
アルはそんなエドにクスッと笑うと、自分も摘んだ花を使って何かを作り始めた。












*************









「できた。ほら、お前にやるよ。」

黙々と冠を編んでいたエドは、出来上がった冠を一度満足げに見やると、そう言ってそれを、アルに差し出した。
まさか花の冠を自分に作っているなどとは夢にも思わなかったアルは、驚いて目を瞬かせる。


「え?ぼくに?別にいいよ。」

「いいから。ほら、頭出せよ。」


そう言ってエドは座っているアルの前に立つと、頭にそっと冠を載せた。





風で秋桜の花びらがゆらゆらと揺れる。





「似合ってんじゃん。」


エドは花の冠をつけたアルを眺めてから、そう言ってにっ、と笑って見せる。
そんな兄にアルは小さく苦笑し、ため息をついた。


「…似合ってても微妙に嬉しくないんだけど。」

「そう言うなって。折角作ったんだからさ。」


そう言って笑っているエドをアルは暫く睨んでいたが、不意に何か思いついたかのように「あっ」と声を出すと、エドに微笑みかける。


「じゃあ、ぼくは兄さんにこれあげる。兄さん、後ろ向いて。」


そう言ってエドに後ろを向かせると、アルは自分で作っていた秋桜の髪飾りをエドの髪紐の上から括り付けた。


「似合ってるよ、兄さん。」


エドの真似をしてそう言うと、アルはクスッと笑った。
自分の三つ編みの先に付けられた花の髪飾りを見て、苦笑するエド。


「似合ってるって…女じゃないんだからさ。」

「そう言わないでよ。折角作ったんだから。」



笑いながらさらに自分の真似をするアルを軽く睨みながら、エドはアルのおでこを小突く。
そうして2人で顔を見合わせると、声を上げて笑い出した。







2人が笑う声に合わせるかのように、花畑の秋桜も、風に舞いそよそよと揺れていた。
















『たまには、こんな風に道に迷うのもいいのかも知れないな…。』


















Fin.






















***********


携帯サイトの2000ヒット記念SSです。
鎧アルに花の冠、というビジュアルを想像して萌え悶えた結果できたお話でした。
なのでひたすら情景とか、雰囲気重視で書いてみたつもりです。
最後の台詞はふたりともです。

うっかりコスモスの季節外してしまったのですが、まだギリギリ賞味期限は大丈夫かなとか思いつつ、慌ててアップしたということはありませんよきっと。(目を逸らし)

作成日:04年10月4日  UP日:05年11月15日





戻る