いつもの空き地。いつもの待ち合わせ場所。
貴方はここで、言葉をくれた。
「…政宗殿……」
石にもたれ、目を閉じている政宗に幸村は声をかける。
政宗は暫くしてから目を開き、力なく笑んだ。
「…よお、遅かったじゃねぇか」
目に見えて衰弱してきたのが分かる。
幸村は、すみませぬ、と呟き、政宗をその腕の中に包み込む。
指先の冷たさは、身体にまで広がっていた。
「どうした?」
苦笑混じりに抱き返され、その力の弱さに泣けてきた。
このままでいたい。
離れたくない。
失いたくない。
叶わぬと知っていても、そう願わずにはいられないのだ。
既に掛け替えのない存在になっているから。
「…行かねぇよ」
幸村の願いに応えるが、その声も言葉も頼りない。
頼りなくても心配をかけまいと、政宗は無理して笑う。
回した手で、背中をさする。
「どこにも行きたくねぇよ…」
それが本音だ。
このままでいい。
それがどんな結果を招こうとも、そのギリギリの時間まで、共にいたい。
依存だ。
我が儘だ。
分かっている。それでも、
「幸村…」
だからアンタは、何も言うな。








「…あんたの力ってさ、」
佐助の声に耳だけ傾ける。
たぶんだけどね、と前置きしてから告げられる、何となく気付いていた、己の、
「……某も、そう思う」
己の力は皮肉めいたものだ。
救いと絶望、その両方を与え得る。
特に彼にとっては。
答えは出ている。
だが心は決められない。
失いたく、ない。
「……俺は、応援も邪魔もしないよ」
だから、二人で決めなよ。
そう付け加えた佐助の声も辛そうで、拒絶でなく、無関心でもなく、思いやりだと分かる。
「…すまぬ、佐助」
頭を下げてから、幸村は夕日に染まる空を仰いだ。
どこまでも澄んでいた。
「……分かっているのだ……」
答えは出ている。
だが心は決められぬ。


だから、決めねばならない。








脳が次第に麻痺していく。
意識は薄れ、ぼろぼろの身体は指先一つ動かせない。
動かせば、骨が砕けてしまう。
しかし掴まれ、引き摺り回される度に痛みと共に、身体は壊れていった。
最早働かない頭は、何を思うわけでもなかった。


そうして俺は、




 目を開けると、相変わらず闇があった。迫ってきた。
「……Ha」
その笑みは誰に向けたのだろうか。
誰を嘲笑ったのだろうか。
闇が覆い尽くそうと、呑み込もうと、身体にまとわりついてくる。
「……」
身体が重い。
動かせない。
悪夢の続きか、それとも、あの時の続きか。
これから抜け出す術は知らない。
知っているが、それを選ぶことはできない。
選べば、

無理だ。
それだけは嫌だ。
連れて行かれるならば、それで構わない。
だが、自分から選ぶのは嫌だ。
自分から別れを選ぶのは嫌だ。
だからもういい。
目を閉じた。




闇に、墜ちる。








「――政宗殿!」
強く引き寄せられ、次いで光が見え、政宗は目を開いた。
幸村の顔が視界に飛び込んできた。
まとわりついてきた闇は、暫し潜まり、次の機会を狙ってくるだろう。
虚ろにそう思っていると、幸村の声が耳に入ってきた。
「良かった……っ!」
そのまま抱き締められ、息苦しさと温かさに、政宗は僅かに身を捩る。
「暑苦しいんだよ、てめぇは…」
嫌がることはせずに、そう呟き、政宗の方も幸村の背に腕を回す。
「Thanks、助かったぜ」
もう少しだけ、ここにいられる。




引き寄せた彼は、ひどく冷たかった。
彼を呑み込もうとした闇も、どこまでも冷たかった。
もう時間がない。
消えてしまう。
いなくなってしまう。
あの闇が、ますますこの人を冷やしてしまう。
そう考えると、身を切られるような痛みが体中を刺した。
何て、自分勝手だったのだ。
あの中に、みすみす追い込もうとしていたなんて。
「……っ」
目尻に熱いものが込み上げてきて、それを見せたくなくて、幸村は強く政宗を抱き締めた。
「ハハ…だから暑苦しいって」
何て哀しく笑うのだろう。
何て哀しいのだろう。
言いたくない。
だが言わねば、その笑みから哀しみは除かれないのだ。
決して。




この方の為に。
否、己の為に、儘に。
「……まさむねどの……」
出た音は掠れた声で、それに政宗は身体を固くする。
嗚呼、気付いてしまった。
「政宗、どの…」
嫌だ。
「……言うな」
掠れた声。
政宗は幸村の肩を掴んだ。
縋り、爪を立てた。
「……言うんじゃねぇ」
彼の力。その意味。
そして、
彼の道。その意味。
爪を立てるその手に力はなく、震えが伝わってきた。
「……政宗殿……」
だが、こうするしか。
こうするしか――




 幸村は俯き、長い間黙っていた。
拳は、自らの手を傷つける程に握り締められていた。
「……すみませぬ……」
漸く開いた言葉に、しかし政宗は愕然となる。
「……そなたは、」
幸村が声を絞り出す。
「止せ、幸村」
告げるのか。
アンタの口からそれを告げるのか。
事実を、真実を、その口が言うのか。
その意味を、その力を、アンタは知っているのか。
肩を震わせながら、幸村は漸く顔を上げた。
「そなたは、」
掠れた声が、言葉を紡ぐ。
「止めろっ!!」
口を塞ごうと、政宗が手を伸ばした。
伸ばした手は、擦り抜けた。
驚愕し、泣きそうに顔を歪めた政宗の代わりに、
幸村が涙を流した。
涙を流しながら、告げた。




「そなたは、もう、亡くなっている。
 だから、ここにいるべきではない」
























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