言葉が、頭に響いた。


アンタは、無力じゃねぇぜ。
アンタは十分、力になってる。




そう言ってくれたから。
初めてそう言われたから。


心配してくれた。まだキツイかと、熱が出たのではないかと。
化け物の俺を気にせず、躊躇うこともなく、顔に触れてくれた。
嗚呼、そうか。
答えは至極簡単だった。
「……政宗、殿……」
出逢った時から、貴方は俺を救ってくれていたのだ。


涙が、零れた。




構わぬ。
化け物と言われても構わぬ。
貴方がいてくれるのならば、構わぬ。


貴方がいれば、堪えられる。








 向かってきた鋭い破片は、再び肩に突き刺さった。
痛みに呻くが、幸村は声を絞り出した。
「…落ち着いて、下され……」
溢れ出す血と、冷たい空気に、身体が震えた。
「……ここで、某の身体を手に入れても、何の救いにもなりませぬ」
死ね。
死んでくれ。
楽になりたいんだ。
だから、お前が死んでくれ。
身体を伝う汗と血と、傷の痛みが辛うじて意識を失うのを留めた。
「ここに留まっている限り、苦しみからは逃れられませぬ」
自分の呼吸が荒いのが分かる。
痛みが、逆に意識を鮮明にする。
「そなた達は、他に行くべきところがあるはずだ」
肩を刺していた腕の力が、微かに緩まった。
「その道は、某には分からぬが、そなた達ならば、必ず見つけられる」
迷っても、行き止まりのように思えても、道は必ず見つかる。
だから、哀しまずに、前に進んでくれ。








 暗い空の下で歩き、
疲れたら休み、
どこまで歩いたかも分からない。
荒んだ心は、次第に落ち着きだし、しかし唐突に顔を出した。
悪夢を見て、
穏やかな時を過ごして、
それを繰り返し、
どのみち心は空虚で、
時折見える闇も変わらなかった。
癒える術が無かった。
 たまに他人が通りすがり、たまに気付いて話しかけてきた。
最初は不思議だったが、次第に彼らはもうこの世のものでは無いのだと気付いた。
どんな奴も、ふらふらと彷徨い続けていた。
自分は、気付きもしなかった。
 いつまでも空は暗く、ずっと周りはよく見えなかった。
しかし、灯りのようなものに気が付いた。
引き寄せられるようにそちらに行った。
 泣いている子供と、それを宥めようとしてますます泣かせている男がいた。
言葉の下手な奴で、放っておけなかった。
側に行くと、不思議と心が落ち着いてきた。
同じか幾らか下の歳であろうその男は、
最初驚いたようにこちらを見て、それでも子供と話した後は丁寧に礼を言われた。
こっちが怒らせるような言い方をしても、怒ることなく答えてくれた、
言葉遣いがかなり古くさい、ちょっと変わった男。
触れてきた手が温かくて、優しくて、泣きそうになった。








 乱れた彼の心は、哀しみと苦しみに溢れている。
その心は乱れ飛び、彼がどこにいるのか分からない。
「政宗殿っ!」
痛む肩にも構わず、幸村は叫び続けた。
自分の力では、政宗の居場所は分からない。
その程度の力なのだ。
だから呼び続けた。
「政宗殿ぉっ!!」
気付いてくれ。
気が付いてくれ。
俺は、ここにいるから。
「政宗殿っっ!!」








見つけた光は眩しくて、
それでも優しくて。
また会おう、と言ってくれた。
こんな醜い俺に、笑いかけてくれた。
憎しみではなく、
親しみを込めて、俺の名を呼んでくれた。
片眼が潰れ、
化け物だと母に疎まれ、
無様に、……
そんな俺なのに、
アンタだけは否定しなかった。




助けてくれ。
どこに逃げればいいか分からない。
ここは嫌だ。
怖いんだ。
助けて、




――幸村。








「…の」
微かに聞こえたのは、幻聴だろうか。
その微かなものでも縋りたくて、必死に呼び続けた。
ここにいる。
俺はここにいるんだ。
弱くても、
情けなくてもいい。
女々しいと言われてもいい。
この闇から抜け出す術が分からない。
一人では、もう無理なんだ。
だから、見つけてくれ。
「……幸村…っ」


「――政宗殿っっ!!」
今度ははっきりと聞こえた声に顔を上げると、
呼び続けた、助けを求め続けた男が、確かにそこにいた。


片眼だけだが、確かに涙が流れた。








周りも気にせず抱き合って泣いて、
二人分泣いて、
自分の分まで泣いてくれて、


繋いだ手は温かくて、嬉しくて、
また涙が溢れた。








 二人並んで、夜の道を歩いた。
二人とも何も言わなかったが、
繋いだ手が、十分すぎる程に語ってくれた。


























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