ねぇ、旦那、何で?
俺は、化け物だ。
と佐助は思っている。
こんな眼を持った自分は、まともな人間ではない。
だから化け物だ。
他人に言われ、親に言われ、そう思う以外に術を知らなかった。
化け物は、幸せにはなれない。
幸せになるなど、おこがましい。
実の親に面と向かって言われた言葉は、今でも心を突き刺し、
佐助の未来を決めてしまった。
化け物は、幸せになっては、いけない。
信玄の寺で世話になっているのが縁となり、幸村と出会った。
佐助と同じ、人ではない彼らが見える眼を持つ者。
それだけでなく、人ではない彼らが存在を認める者、
人ではない彼らと話をする者。
同じ、化け物。
いや、俺よりも更に酷い、化け物。
幸村の存在は、佐助にとっては救いだった。
あれよりは、よっぽどマシだ。
暗い救いであっても、佐助にとっては、唯一のものだった。
初めて、前向きに未来を考えられるようになった。
あれがいるなら、俺も幸せになってもいいかもしれない。
俺は、幸せになってもいいかもしれない。
初めて、未来を決めた親の言葉に刃向かった。
しかし、暗い救いは、夢見た未来に仄暗い影を落とした。
楽しそうに笑うようになった幸村。
化け物。
幸せを願う化け物。
何故だ。
俺より酷い化け物なのに、
何故幸せを願う。幸せになっていく。
それが羨ましくて妬ましくて悲しくて、
そんな思いを抱く佐助に気付かずに、
心から頼ってくる幸村を見るのが、
苦しかった。
どうして、あんただけが……
偶然かもしれない。
必然かもしれない。
ただ、永遠を願った時間は、少しずつ、綻び始めていた。
それは、とても脆いものだった。
消えた闇を凝視したまま、幸村は長い間その場を動かなかった。
傲慢な気持ちが、どこかにあったのだ。
以前よりも彼らと話せるようになってきたから。
自分は彼らを救えるのだと、
簡単に思えるようになってしまっていた。
いつものように、幸村を見つけ、彼らは近付いてきた。
その中に、一人の女がいた。
彼女は攻撃的なタイプだったが、幸村は彼女を宥め、話を聞いた。
しかし女は、追い詰められていた。
彼女には、後がなかった。
「…落ち着いて下され。
まだ時間は残っておりまする」
何を言うの。
時間がない。
もうそこまで迫っている。
「そなたが心を落ち着かせれば、まだ間に合います」
間に合わない。
もうそこまで来ている。
もう手遅れ。
「焦る心が時間を奪っていくのです。
まだ間に合う。
落ち着いて下され」
嫌、怖い。
助けて。助けて。
「助けてみせます。だから、」
助けて。
錯乱した彼女は、幸村に飛びかかり、
同時に深い闇が彼女を襲った。
幸村の腕を掴む彼女の腕から闇が伸び、幸村の腕へと絡みついた。
「あ…っ」
引き摺り込まれる。
目の前の恐怖と、縋ってくる彼女の腕が、幸村を逃がそうとしない。
「真田っ!!」
「旦那!!」
肩を掴む腕が、闇に呑み込まれかけた幸村を引き寄せる。
「佐助!」
次に自分を心配する政宗の瞳と目が合った。
「政宗殿…っ」
佐助の腕は尚も幸村を強く引き寄せ、政宗もそれに加勢する。
代わりに、彼女の腕が離れていく。
闇に覆われる彼女と、最後に目が合った。
絶望と悲しみと恨みが込められていた。
「Are you all right?」
発音の良い声が上からかかり、幸村は消えてしまった闇から頭上の政宗に視線を移した。
「政宗殿…」
「…何だよ、あれ。
薄気味悪ぃな」
不愉快そうに、今はない闇に向かって、政宗はそう吐き捨てた。
「真田の旦那、大丈夫?」
引き寄せるために後ろから回していた腕を放しながら、佐助が幸村を覗き込む。
「……救えなかった……」
呟いた言葉に、佐助と政宗は眉を寄せる。
何て傲慢だったのだろう。
何故驕ってしまったのだろう。
「真田…」
「……」
呆然となる幸村に、政宗も佐助も、長い間何も言えなかった。