知りたくなかった





「政宗」
呼ばれた声に、ずくんと胸が疼いた。
動悸なのか、痛みなのか。
その正体は分からない。

知りたくない。




 きぃ、と小猿が鳴く。
その頭を撫でてやると、小猿は気持ち良さげに目を細め、その場にごろんと横になった。
「…お前は、主人に似てるな」
「え、そう?」
小猿の代わりに政宗の傍らにいた主人が答えた。
「どこらへんが?」
暫しの間だけ慶次に向けていた視線を遠くに向け尋ねてくる言葉に、
だらしなく寝転がってるところだ、と言い捨てた。
「政宗も横になればいいのに。寝転がると気持ち良いよ」
草っぱらに顔を埋めると、土の香りが鼻を心地よく刺激する。
太陽は暖かく照りつけ、風はそよそよと優しく彼らを撫でていく。
だからこそ息抜きになるだろうと、政に追われやや疲れ気味の政宗を例によって強引に攫って連れてきたのだが、
大して暴れないところを見る限り、効果は多少はありそうだ。
疲れが溜まって暴れる気力が無い、という疑惑も拭いきれないが。
「俺は人の前では横にならねぇ」
慶次の提案を切り捨てた政宗の視線は遠くに向かったままだった。
それを頬杖を付いて見上げていた慶次の瞳が、楽しいことを思いついたらしく不意に煌めいた。
「わぁっ!」
短い悲鳴が辺りを少々ざわめかせた。
慶次に突然腕を引っ張られ、政宗はそのまま不本意にも彼の胸の中に倒れ込んだ。
その政宗の背に腕を回し、慶次はそのまま政宗を抱き締めた。
「――!?」
暴れられる前に抱きすくめると、くぐもった声が胸の辺りを震わせた。
「あんたはもうちょっと素直になってもいいんだよ」
あやすように頭を撫でてから、腕の力を少しだけ弛め、腕の中の彼を覗き込んだ。
「――いでっ!」
その慶次の顔面に向かって拳が炸裂した。
拍子に弛んだ隙に慶次の腕の中から抜け出し、政宗は着物に付いた土や草を払う。
「アンタの馬鹿さ加減には付き合ってらんねぇよ」
顔を押さえて痛がる慶次を放置し、政宗はさっさと歩いていく。
「だって、恋してるからな!」
その背に向かって、そう声をかけた。
「……」
呆れた様子で振り返る政宗を追いかけ、慶次はその横に並ぶ。
「本気だからな」
顔は笑みを浮かべているというのに、その声には戯言めいた音は少しも含まれておらず、
そのせいか、いやに辺りに響いた気がした。
「……Ha」
いや、響いたのは己の心にか。
「…くだらねぇ」
慶次と己にそう吐き捨て、政宗は歩き出した。
更に追いかけ、慶次は後ろから政宗を抱き上げた。
「てめっ…!」
怒鳴りつけようと顔だけ振り返ると、慶次の笑顔とぶつかった。
暴れようとした身体が止まる。
「……っ」
腹が立った。
全てが嫌だった。
この笑顔も、戯言であれと願う告白も、抱き締めてくるその温かな腕も。
その力の強さも。
それに揺らぐ己自身も。
己が今どれだけ情けない顔をしているかは知らないが、
慶次が笑えば笑うだけ、泣きたくなった。




知りたくない。
知りたくないんだ。
こんな気持ちなど、こんな心など。
今の己の弱さを知っていても、
この男との関係で生まれる新しい己を強いとは思えぬ。
否、この男が己から消え去った時の己の弱さを思い知らされるのが堪らぬのだ。
ならば最初からそんな己など要らぬ。
矮小な己と、心地よいこの男との今の関係のままで構わぬ。




「…慶次…」
意識無しに呟かれた声に、その弱々しい声に、慶次は政宗を正面で抱き直し、彼の瞳の奥を覗き込んだ。
堪えかねて伏せようとする前に、胸の中に包み込む。
頭を撫で背中を叩いた。
「……」
何も言わず、語りも諭しもせずに、慶次は長い間政宗を抱き締めていた。




嗚呼、最早一人では生きられぬ。

























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久々ケイダテ!

伊達=スチレンなイメージが強いので、
その脆さを男ども(アニキ、真田、慶次)で晒させて支えたり包んだりしてもらおうと思っていたら、
何かどんどん伊達が女々しくなってきてる気が…;


実は最初はシゲサトで書く予定だったけど、
そっちが長くなったので「その先には」で出しちゃった、
という裏話があったり…;