雪の声





 白い息を吐いて、政宗は縁側に座り庭を見ていた。
庭は言わずもがな雪景色。
今日は珍しく晴れていて、
太陽が雲の合間から、柔らかいというよりは弱い光を控えめに投げかける。
その光は雪に反射して、元の光よりも明るくなった。
「いつまでぼんやりなされるのか、政宗殿?」
背後から声がかかり、同時に肩に羽織を掛けられた。
「そのような薄着では、風邪をお引きになりまする」
政宗は振り返り、苦笑混じりの幸村にニヤリと笑った。
「そん時は、アンタのせいだぜ?」
「…どういう意味でござるか?」
「薄着どころか着ているもん全部剥ぎ取られたからなぁ、昨日は」
「……」
僅かに頬を赤く染め、幸村は何とも言えぬ顔をしていたが、
ふう、と息を吐いて背後から政宗を抱き締めた。
「では、また温めてごらんにいれますぞ」
耳元で囁かれ、熱い息が首にかかる。
「言うようになったじゃねぇか」
言外に別の意味を含めた切り返しだということには気付いていたし、
それに身体が少しばかり熱くなったのも事実だが、
相手の、ましてやこいつの思い通りにはさせてやらない。
「なら、しばらく湯たんぽ代わりになってろ」
生殺し的な発言をし、幸村に体重を預けて、政宗は再び庭に目を向けた。
「…何を見ておられるのでござるか?」
惚れた弱みで、政宗の言うことには逆らえないので、
おとなしく彼を腕の中に抱いたまま、幸村は彼と同じく庭に目を向けた。
「何も」
「……」
返事が率直すぎて、しばらく二の句が継げなかった。
幸村の様子に政宗がまた可笑しそうに笑う。
「からかわないで下され」
「ハハ、sorry、だが本当に見ていた訳じゃねぇんだ」
政宗の言葉に幸村は首を傾げた。
「では…?」
「聞いてた」
今度も一言だけの答だ。
幸村は耳を澄ませてみたが、特に何も聞こえない。
首を傾げた。
「何をお聞きに?」
「よーく聞いてみな。色々な音が聞こえるだろう?」
政宗に倣い、幸村も目を閉じて、耳を澄ませてみた。
「人の喧噪、葉擦れ、それに雪解けの音だ」
「…はい、聞こえるでござる」
そうか、その音を聞かれていたのか。
しかし、何故?
生じた疑問に答えるように、政宗は呟いた。
「心を落ち着けるにはな、こういった音を聞くといいんだぜ」
雪が溶ければ、また戦が始まる。
次はどこをどう攻めようかと、頭だけが先走り始める。
それを幾分でも抑えるためだ。
逸った頭で考え出す策など、ろくなものではない。
「成程。
流石は政宗殿でござる」
心底感心したように言う幸村に、政宗は苦笑する。
逸ることこそが己がまだ未熟であるということを物語っているのに。
「某も、心が逸る時は政宗殿を見習いたく思いまする」
そう言ってくれるか。
俺を認めてくれるか。
その言葉も、身体に伝わってくる熱も、温かい。
「…アンタのそういうとこ、見習いたいねぇ」
到底自分には無理だと思いながらも、その素直さは羨ましかった。
彼に聞こえないようにそう呟いて、政宗は幸村の方に振り返った。
甘えるように、憎まれ口を叩く。
「てめぇには絶対無理だ」
「…ひどい言われようでござるな」
怒りはせずに、困ったように笑った。
下から見上げ、政宗は誘うように更に言う。
「自制心ないだろ、てめぇは」
指で頬を撫で、首をなぞる。
「まだまだ、未熟故」
誘われて、抱き締める手に力が込められる。
しかし、その先まで進まぬようにと堪えているのが、幸村の困ったような表情から分かった。
「知ってる」
我慢も覚えたのか。
それは幸村の政宗への気遣いからくるものに他ならず、それが政宗には嬉しかった。
 首の後ろに腕を回し、触れるだけの口付けをした後、
政宗は赤くなる幸村の瞳を覗き込み、言った。
「続きは、また夜にしようぜ」
からかうのはここらへんでやめておこう。
これ以上誘ったら、キレるからな。
「た、堪えてみせるでござる」
誘うだけ誘っておいて、極上の言葉でおあずけさせた後、
政宗は漸く立ち上がった。
「さーて、早いとこ片付けちまうか」
今日の政務はまだまだ残っている。
客人である幸村にばかり構っていられないのだ。昼は。
「お前はしっかり音聞いてろよ」
振り返り、幸村にまたニヤリと笑いかけて、部屋へと戻っていった。

























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激しく季節無視です。 暑苦しい!(笑)