とりあえず寝かせて





 気分転換というよりは、眠らないように、普段はあまり飲まないコーヒーを飲んでみた。
が、眠気は一向に覚めてくれない。
眠気を振り払おうと、シゲルは首を振った。
「……」
やっぱりダメか。シゲルはため息をついた。
やはり昨日、徹夜したのがいけなかった。
生物の欲求には逆らえない。
しょうがない、少し寝るか。
 邪魔が入らない内にと、シゲルは自室へ急いだが、こういう時に限って、邪魔は入る。
 家の呼び出しベルが鳴った。
即、居留守しようと決めたが、遠慮無く玄関のドアは開かれる。
無遠慮な輩の正体は予想がついた。
「シゲルー!」
サトシは大声で呼びかける。
返事をしてもしなくても、サトシは家の中に上がってきそうだったので、
シゲルは諦めて玄関の方へ向かった。
 こちらにいつもよりゆっくりと向かってくるシゲルの姿を見つけ、サトシは彼に向かって手を振った。
「シゲル! あのな、ママがアップルパイ作ってくれたんだ。だからお裾分け」
ハナコに持たされたバスケットを、自分の頭の高さまで持ち上げて、サトシは機嫌良く、そう言った。
「……どうもありがとう。キッチンにでも置いといてくれ」
シゲルはそれだけ言うと、サトシに背を向けた。
シゲルの素っ気ない態度にサトシは口を尖らせる。
「何だよ、愛想無いな〜」
サトシは玄関から家の中に上がり込むと、シゲルの腕を掴んで引き止めた。
「一緒に遊ぼうぜ」
「……勘弁してくれ」
ウンザリした顔で振り返り、シゲルはサトシの誘いを断る。
振り向いたシゲルの顔を間近で見てみれば、少し顔色が悪い気がした。
サトシはそれを別の意味に解釈した。
「シゲル、元気ないな。外で元気よく遊んだら、気分だってスッキリするぜ」
「……」
いや、今走り回れば、気分が良くなるどころか、たぶん倒れる。
自分の体調を確信したので、シゲルはもう一度断った。
だが、サトシは引き下がらない。
「オレ、シゲルと遊びたいんだよ〜」
諦めが悪いサトシを振り切る気力は、シゲルにはもう残っていなかった。
すでに意識は遠のいてきている。
もういい、後は彼に任せよう。
「……分かった、後で何でも付き合ってやるから」
ふらふらとシゲルはサトシに近づいていく。
ゴメン、サトシ。と心の中で謝った。
「……シゲル、どうしたんだ?」
シゲルの様子に、サトシはようやく、いつもと違うと気が付き、声をかけた。
今やシゲルは目の前だ。シゲルはサトシの質問が聞こえなかったらしく、答えなかった。
「……とりあえず、寝かせて」
ぽつりと一言呟いて、シゲルはサトシに向かって倒れ込んだ。
「うわわっ、シゲル!?」
サトシは慌ててシゲルを受け止めたが、
勢いに負けて、シゲルを抱えたまま、床に尻餅をついた。
「……ったく、何だよ、いきなり……」
文句を言いつつ、シゲルを見れば、シゲルはすでに熟睡している。
「……寝てるし……」
訳が分からない。
何でいきなりこいつは寝るんだ。
オレにどうしろって言うんだ。
シゲルに言いたいことは山とあるが、当の本人は寝ているので、どうしようもない。
サトシは、さっきの衝撃で中身が崩れていないことを願いつつ、バスケットを横に置いた。
「……シゲルのバカ」
せめてもの腹いせに、シゲルの頬をつまんで引っ張った。
ほとんど力を入れていなかったので、シゲルは目を覚まさなかった。
ため息を一つついてから、シゲルの手を自分の首に回させ、自分の腕はシゲルの背中に回した。
「……よっと!」
気合いを入れて、立ち上がる。
火事場の何とか力で、シゲルを支え、サトシは歩き出した。

























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サトシは結構力持ちだと思う。
ヨーギラスをだっこできるくらいだし……