近くて、遠い
ぽかぽかとした陽気で、気持ちの良い日だった。
サトシはとうに眠りこけてしまっている。
眠っているサトシに手を伸ばし、彼の頬をシゲルはそっと撫でた。
気持ちよかったのか、サトシの口元が綻んだ。
眠ったまま微笑むサトシに、シゲルは笑いかけた。
「……サトシ……」
愛しさを込めて、彼の名を囁いた。
もちろん、返事はない。
「……」
好きだ、と心の中で呟く。
決して、外に出ることはない、この想い。
バランスのとれないこの想いは、いつだって彼を傷つける。
だから彼に告げてはいけない。
いつかは、彼から離れていかなければ行けない。
「……う〜ん……」
サトシが唸りながら、シゲルの手を掴む。
しっかりと掴まれていて、離すことはできない。
「……」
それが離さない、と言ってくれているようで、もしかしたら、と淡い期待を抱いてしまう。
だからいつまで経っても決心がつかない。
自分と彼の気持ちには、埋められない差があるというのに。
「……こんなにも、近いのにな」
いつも隣にいるのに、想いは届かない。
目を覚まして、身体を起こすと、隣でシゲルが眠っていた。
「……」
サトシは起こした身体を曲げて、シゲルの寝顔をじっと見つめる。
手を伸ばして、シゲルの頬をつまんで引っ張った。
シゲルは微かに眉を寄せ、頭を動かした。
つまんでいた手が離れる。
「……」
もう一回つまむと、シゲルの閉じていた目蓋が開いた。
サトシは慌てて手を離した。
目覚めたシゲルと間近で目が合う。
「安眠妨害は止めてほしいんだけど?」
「……」
呆れた様子で言うシゲルに、ごまかすように笑いかけ、サトシは立ち上がった。
シゲルも半身だけ起こし、壁に寄りかかるが、ぼんやりとしている。
そんな彼にサトシは声をかける。
「眠いなら、もう一回寝たら?」
「邪魔が入るからもういいよ」
もう邪魔しないから、と言う前にシゲルにそう言われ、
サトシは決まり悪そうにシゲルから顔をそらした。
「……せっかく隣にいられるのに……」
サトシはぽつりと呟いた。
「……何か言ったかい?」
よく聞きとれなかったらしく、シゲルが声をかけてきた。
サトシは首を振る。
「いや、別に」
「ならいい…」
寝起きのせいか、シゲルは大して気にしなかった。
横目でちらりとシゲルの様子を窺うと、シゲルはまだぼんやりとしたままだった。
そう言えば、彼は寝起きがあまりよろしくなかった。
低血圧までとはいかないが、目覚めたばかりの時は、反応が鈍い。
「……」
まあ、そのうち起きるだろう、と思い、
サトシは眠気を払うために身体を動かし始めた。
しばらくして、規則正しい寝息が聞こえてきた。
サトシは再びシゲルに目を向ける。
「……」
もういいとか言っておいて、しっかり寝ているじゃないか。
サトシは不満そうにシゲルを見る。
が、よっぽど眠かったんだろう、と思うことにした。
そしたら、確かにさっきのは安眠妨害だな、と少し反省した。
サトシはシゲルの隣に座った。
身体をぴたりとくっつける。
少しの間そうしていると、
気候のせいか、先程、眠気を覚まそうと動いたばかりなのに、また眠くなってきた。
サトシはシゲルに寄りかかった。
シゲルの体温が伝わってくる。
それほど二人の距離は近いのに。
「……でもオレは、なかなかお前に追いつけない……」
こんなに近くにいることができるのに、シゲルとの距離はなかなか埋まらない。
近いのに、遠い。
「……」
サトシは目を閉じた。
夢うつつに、シゲルのことを考えた。
よく分からないまま、眠りに落ちた。
近くにいるのに、隣にいるのに……