「竜の旦那、お久しぶり〜…って、ええっ!?」
信じられない。
久々の竜からの呼び出しで来てみれば、目の前には信じがたい光景が広がっていた。
「…よう」
竜と呼ばれたその男は佐助の方に目を向け、笑みを浮かべる。
心なしか諦観の相が窺える気もする。
いや、たぶん竜の背後にいるというかしがみついてるものとのテンションの差でそう見えるのだろう。
「…旦那、何があったの?ってか、後ろのそれ、何?」
「……コレか?」
竜は背後に目を遣ると後ろのそれと目が合い、それの瞳が嬉しさに輝いた。
「政宗殿〜!」
竜の名を呼びながら、それは竜こと政宗の背中に頬擦りを始めた。
「愛しゅうござる〜!!」
それを見ていてふと思った。何者かはまだ知らないが敢えて例えるならばアレだ。
「…犬」
「Yes、よく分かったな」
ポツリと呟いた言葉に同意され、更にこの前拾ったと続けられた。
「………………いや、その何て言うかさぁ……そうですか…」
たっぷりの沈黙の後、佐助は何か言おうと思い口を開いたが頭の方は追いつかなかった。
「ほら、ちゃーんと名乗ってやれ」
政宗に促され、それ改め犬は初めて佐助の方に目を向けた。
「某、幸村と申す。お主は何者だ?」
警戒しているらしく、些か鋭い目つきで睨んできた。
変わったものに慣れているのか、政宗もツッコんだ幸村の言葉遣いごと軽く受け流し、
佐助は答えてやった。
「俺様は猿飛佐助だよ、犬の旦那」
「猿飛…?」
胡散臭そうに佐助を見遣るが、佐助は構わず政宗の方に目を移した。
「…それで竜の旦那、用件は?」
「決まってるだろ、仕事の依頼だ」
ニヤリと笑うその瞳の奥に潜む何かを感じるが、巧妙に隠されはっきりとは分からない。
しかし、こういう表情の時の政宗が言い出す仕事は、佐助にとって大概ロクなものではない。
このまま逃げたいなぁ、と無意味なことを思いつつ、佐助は諦観の笑みを浮かべる。
「……甚だ嫌な予感がするんですが、どんな内容で?」
「仕付けだ、犬のな」
「……できれば俺の手に負える、チワワくらいの可愛らしい小犬がいいんだけど…」
佐助のチワワ並に可愛らしい最後の抵抗は、しかし政宗によって簡単に切り捨てられた。
「そんな犬ここにいるか?」
「……いませんねぇ」
いるとすれば、視界の片隅で警戒あらわにこちらを睨んでいる、割と大型な犬くらいだ。
でもこの犬は、この犬だけはイヤだ。
直感が言っている。絶対ロクなこと無いって。
佐助の願いも虚しく、政宗はからかいも含めた意地の悪い笑みを浮かべ、宣告した。
「コレ、しっかり仕付けろよ」
そして傍らの犬に目を向け、佐助に対するものよりも幾分柔らかく微笑し、頭を撫でながら言い聞かせた。
「ちゃんと学んで来いよ、幸」
「それで、俺は何をやれば良いのだ」
憮然とした様子で、しかし飼い主の言うことには従い、
犬は佐助の後に続きながら彼の背中にそう問いかけた。
飼い主以外はどうでもいいせいか、佐助に対する態度は偉そうというかぞんざいだ。
前を歩く佐助も佐助でそんな幸村の問いかけを適当に受け流したり無視したりしていたのだが、
「……俺の手に負えるのはせいぜい中型犬まで。だーかーら」
突然足を止め、漸く振り返って不敵に笑った。
「犬の旦那には打って付けの相手にお願いすることにしました」
「…む?」
佐助の背後にそびえ立つのは、巨大な屋敷だった。
それから暫く経った。
そんなつもりじゃなかったんだ。
だって気が合いそうだし、あの人こそ適役だろうって感じだったし。
「幸村!」
「お館様!」
「幸村!!」
「お館様っ!!」
「幸村っ!!」
「お館様ぁっっ!!」
叫び声と共にドカッバキッなどの殴り合う音が道場に響く。
「……どうしよう…」
その入り口から中の様子を窺いつつ、佐助は途方に暮れた。