「よし、お前の名前は?」
「幸村にござる!」
やる気のない声に反比例して、幸村は元気良く答えた。
「good、じゃあ幸、俺からも質問だ」
「何でござりましょう?」
小首を傾げる幸村の顔をぴっと指差し、政宗は口を開いた。
「その時代劇みてぇな言葉遣い!一体何だ、そりゃあ?」
怒っているようにも思える口調に怯み、幸村は恐る恐るといった様子で尋ねる。
「あの、お気に障るでござ――」
「別に。だが、バカにしてんのか、とは思うな」
やはり気に障っているのだ、と幸村の顔が青くなる。
だが、確かにこんな一昔も二昔も前の口調を普段使う人間は、あまりというかほとんどいない。
「ま、政宗殿が仰るならば、某、何としてもこの悪癖、直してごらんにいれましょうぞ!」
「……無理だと思うぜ」
一大決心の幸村だが、言葉遣いは全然全く変わってない。
悪癖というか何かもう染みついちゃってる感じだ。
それに呆れつつ、でもまあ出来るもんなら、と政宗は試してみることにした。
「おう、そんなら幸、俺の後に付いて言ってみな」
「承知致した!」
「……」
やっぱ一大決心最初から無意味じゃねぇの?
まあ、とりあえず。
「……俺」
「俺!」
「…お前」
「お前!」
まあ、ここらへんは大丈夫だろう。コイツでもたまに使ったりするし。
「…政宗」
「政宗、殿」
「殿いらねぇ」
「…政宗…殿」
「…いやだから…」
「……」
「まあいいや、次、万屋は虎のお使いで市場まで行きました」
「よ、万屋、は、お館様の命により市に参った次第…」
「……お前、それわざと?」
「めめめ滅相もござらぬ!」
大袈裟にぶんぶんと首を左右に振る幸村だがわざとにしか思えない。
と言いたいところだが、これがこの犬だ。だいぶ分かってきた。ついでに飽きてきた。
「あー、何かやっぱもういい。お前にゃ無理」
座っていたソファから政宗が立ち上がると、その足下に座っていた幸村は慌てて追いすがる。
「そ、そんな政宗殿!某頑張るでござる!!だから捨てないで下されぇぇっっ!!」
腰に手を回してひしっと抱き締めてきた幸村に構わず、
幸村を1メートル程引き摺った後、政宗は息切れてその場に膝を折った。
幸村は間髪入れずに背中にのしかかってくる。
「政宗殿ぉぉっっ!!」
「おま、乗るな、重い!!」
喚きながらも俯せないよう必死に手で堪えるが、幸村はそのまま政宗を押し倒そうとしている。
「嫌でござる!ぅますぁむぅねぇどのぉぉ!」
二人は暫し攻防を続けていたが、ついに政宗の方が力尽き、
間の抜けた声で呻いて幸村に押し潰された。
「某の勝ちにござる!」
本来の目的を見失った幸村は、政宗を押し倒したまま単純に喜んでいたが、
「えーい、鬱陶しい!どけっ!!」
政宗に後ろ頭突きをかまされ、蛙の潰れたような声を上げるが、石頭らしい幸村は堪える。
「ぬぬぬ、この程度ぉっ!」
「このバカ犬!話逸れてるぅっ!!」
後頭部を押さえながら喚く政宗の声に、漸く幸村は我に返った。
自分がしたことに気付き、さーっと顔が青くなる。
「ま、政宗殿、もも申し訳ござりませぬぅぅっ!!」
謝りつつも未だ上に乗っかったままの幸村に、政宗の堪忍袋の緒がブチリと切れた。
「いいからさっさとどけっ!!」




 打って変わって政宗の足下で小さくなっている幸村を、政宗は暫く不機嫌そうに睨み付けていたが、
顔面蒼白で心なしかプルプルと震えている姿を見て、漸く、はぁ、とため息をついた。
「…す、捨てないで下され…」
絞り出された情けない声に、怒る気も失せた。
「……某の言葉がおかしいならば、何としてでも直してみせます。だから…」
捨てないでくれ、と繰り返す幸村を見ていると、
先程の怒りはどこに行ったか、逆に何やら哀れになってくるのだから不思議なものだ。
 足でこづき、顔を上げた幸村の頭に手を置いた。
「別に捨てるなんて一言も言ってねぇだろうが」
撫でる代わりに軽く叩いてやると、少しは立ち直ったのか瞳が輝き始めた。
「直せねぇんなら、無理に直すこたねぇ。バカにしてるわけじゃねぇってのも分かったしな」
「ま、政宗殿…」
感激のあまり幸村の後ろで束ねてある髪が左右にはち切れんばかりに揺れている、
ように政宗には見えた。
ウズウズとしてるのは前にもあった通り抱き付こうとする前兆だ。
避難しようかと一瞬過ぎり、たぶんもう遅いな、と思ったと同時に幸村が飛び付いてきた。
「まっさむねどのーっ!!」
「あー、はいはい」
勢いで座っていたベッドに押し倒されるが、今度は受け止めてやった。
嬉しそうに顔を擦り寄せてくる幸村の頭を適当に撫でてやりつつ、政宗は思った。




犬には仕付けが必要。

























Next Novel





2007年12月10日、2007年12月11日の日記よりサルベージ。

犬を拾ってきて間もない頃のお話。
真田は死にかけのところを政宗に拾われました。
そして政宗に幸村という名前を頂戴してから、幸村にとって政宗殿が全てになりました。

政宗が幸村を幸と略すのは、表向きは名前全部呼ぶのが面倒だからです。
実際は伊達に真田を幸と呼ばせたいという私の願望です。
だって伊達って頑なに真田をフルネーム呼びなんだもの。
幸村呼びが2の最終章の一度だけとか。
あれ、ところで宴ではまさかの真田呼びですか!?

全く関係ないですが、当サイトの真田はやっぱり犬属性な上に政宗殿大好きなので、
いつか政宗殿を政殿って略して呼んでみたいらしいです。
あと頭撫でられても喜びます。まあ踏まれたり蹴られたりしても喜びます。