犬と飼い主





犬を拾った。まだ若いたぶん大型犬。




「むわっさむぅねどぬおおおっっ!!」
元気を通り越し暑苦しいだけの熱を身に纏い今日もその犬は駆けてきた。
犬からすれば全身から愛情を放っているらしい、
がそれは飼い主には理解されなかった。
「お前、暑苦しい」
突進の勢いで背中にのしかかってきた犬を半ば引き摺りながら、飼い主はぼやく。
「飯ならまだだ。散歩も後にしろ」
ぴしゃりと言い放つと、一瞬だけしゅんと落ち込んだが犬はすぐに気を取り直す。
「いえ、某、政宗殿のお傍にいられるならば構いませぬ!」
「なら一生飯抜きでいいんだな?」
意地悪くそう言うと、犬はうっと怯んだ。
「そ、それは……」
焦った様子の犬に苦笑を漏らし、
飼い主は辿り着いたベッドに背中の犬を引き剥がしてから腰を下ろす。
「ま、政宗殿ぉ…」
情けない声で足に縋り付いてくる犬の頭を撫でながら、飼い主は笑みを零した。
「jokeだ、joke。だからな、幸」
犬の名前を呼び、飼い主は柔らかい声音で言い聞かせる。
「大人しくしてろ」
優しい口調で諭されて頭を撫でられ、嬉しさの余り犬は目を輝かせた
「承知致した!」
頭の後ろに束ねられた髪が、飼い主には左右に振られている尻尾に見えた。
苦笑と諦めと呆れが混ざった表情でそんな犬を見ていると、犬がうずうずし始めた。
これはアレの前兆だ。
避難しようと思ったと同時に、
「まっさむねどのーっっ!!」
足に縋り付いて尻尾を振っていた犬が飼い主に飛びついてきた。
「うわーっ!」
なかなかに間抜けな悲鳴を上げ、飼い主はそのまま犬に押し倒された。
「愛しゅうござるっ、愛しゅうござるーっ!政宗殿ーっっ!!」
耳元で喚かれながらしつこいくらいに頬擦りされる。
「幸、うるせぇっ!てか、暑苦しいっ!!」
飼い主の拳が犬に炸裂し、きゃいんと悲鳴が響いた気がした。








「政宗殿!某、散歩に行って参りまする!」
未だ夢うつつの政宗を揺り起こし幸村がそう声をかけると、
低血圧の政宗はうーんと呻った後、閉じた目蓋を開くことなく手だけひらひらと振る。
それを確認してから、幸村は家を出た。
 季節は五月。新緑がその色を深め、日は刺す光を強めつつある。
爽やかな風が吹き、幸村の髪を揺らす。
それら全てを感じながら、不意に頭に過ぎったものを嘲笑った。
「あれ、犬の旦那?」
背後から幾分驚いた声がかかり、幸村は後ろを振り返った。
橙に近い赤毛の男が、食えない笑みを浮かべながらひらひらと手を振り、幸村の方へ歩いてくる。
「おお、佐助か。どうしたのだ?」
「竜の旦那に用事ってか報告。旦那こそ――」
一人で何してんの、珍しい。と続けたかったのだが、それは幸村に遮られた。
「政宗殿ならば未だお休み中だ、後にしろ」
有無も言わさず言われる。
その勢いに押され暫し閉口するが、気を取り直して佐助は疑問を口にする。
「……まだお休みって、もう10時だろ。竜の旦那がいくら低血圧だからって…」
佐助の発言に幸村が深刻そうな表情を作る。
「…仕方がないのだ、昨晩俺が少し無理をさせてしまい……」
「無理って……ああ、はい…」
聞かなきゃ良かった、と思いつつ、佐助は納得し、手元の時計で時間を確認した。
「そんじゃまあ、夕方くらいにまた来るよ。そんくらいには流石にお目覚めでしょ?」
「うむ、そうだな。ならばそれまで暇であろう?散歩に付き合わぬか?」
幸村の提案に、呆れ混じりに言い返した。
「…あのね、旦那、俺のお仕事何か知ってんでしょ?」
「無論だ。万屋であろう?」
「そっ、万屋。何でもするお仕事。
 だから俺様、あんたみたいに暇じゃないんだよ。
 竜の旦那からの仕事だけじゃ無く色々やってんの、他にも仕事があるの!」
言葉に露骨な嫌味(それでも理解されたかどうか)を入れて言うが、
幸村は気にも留めずに、当然といった口調で言い返した。
「だからこそだ。俺に付き合うのもお主の仕事だろう?」
「は?あんた何言ってんの?…って、まさか……」
こういう時の自分の鋭さがほとほと嫌になる。
幸村の言わんとする意味に気付き、佐助は心底嫌そうに眉を顰めた。
「勘弁してよ、旦那。あれはもう終わってるだろ」
この犬によって過労死寸前まで追い込まれたあの日々は、思い出すだけでも眩暈がしてくる。
しかし幸村はそんな佐助に容赦なく追い打ちをかけてくる。
「そんなことはない。慢心することなく常に己を磨け、と政宗殿が仰ったのだ」
「そりゃ結構。でも他を当たって下さい。俺様でなくてもいいだろ」
「お主を頼りにしろ、とも仰ったのだ」
「……」
ホントにあの竜の質が悪いことと言ったら!
今はここに居ない竜の意地の悪い笑みが瞳の奥にまざまざと呼び起こされ、
佐助はこれまで以上に眉を顰め、
相変わらず飼い主以外には聞き分けの無い目の前のこの犬にもう一度目を遣った。
「…大体さぁ、犬の仕付けならさぁ、飼い主がするもんだろぉ…」
過去の悪夢を否が応でも思い出しながら、佐助が最後にそうぼやいた。

























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2007年9月24日、2007年10月14日の日記からサルベージ。

言わずもがな幸村が犬(notアニマル)で政宗が飼い主。
犬は性質が限りなく黒いので、飼い主を崇拝しているけど手は出します。
実は結構なプレイもやってます。でも飼い主は慣れてるので別に嫌がりません。

佐助は便利屋。金次第で何でもやります。
でも相当に金積まれるか気に入った奴の仕事しか請け負わないです。要するにただの気分屋です。

いわゆる一人楽しすぎるというやつです。