家、公園、商店街、コンビニ。彼の普段の足取りを辿りながら、元親は政宗の通う高校まで辿り着いた。
今日は試験で、午前中で終わりだと言っていた。
現在はもう19時を回っているので、まだここに残ったままだとは考えにくいが、
念のために校門をくぐり、校舎の方へと足を急がせる。
靴箱でまだ残っていたらしい学生と鉢合わせた。
学生は不審そうに元親を見遣り、口を開いた。
「部外者は立ち入り禁止だよ」
「わりいな、人探してんだ」
一回りしたらすぐ出て行くからと言い、彼の隣を擦れ違いかけた時、ふと思った。
「なあ、転校生……二、三ヶ月ぐらい前に転校してきた奴いるだろ?
 あー、確か二年だ、知らねえか?」
「……さあ、いたかもねえ」
無関心な性格なのか、さしたる興味も見せない学生に、元親は更に尋ねた。
「じゃあ場所だけでいい。二年の教室ってのはどこにあるんだ?」
微かに眉を顰め、面倒そうにその学生は言い捨てた。
「……東校舎の二階。そっちから行けるよ」
右の方向を示した後は、そのまま元親の返答も待たずに歩いていった。
「……」
それを幾らか不審な目つきで見送った後、思い出したように元親は校舎の中へと走っていく。
 日が落ちた校舎は暗くなっていくばかりだった。
人影を見逃さないよう慎重に教室を一つずつ確かめていた元親は、何番目かの教室でついに人影を見つけた。
「政宗…?」
声をかけながら床に伏せている人影に近付くが、俯せたままピクリとも動かない。
しかし、腕に制服の上着が引っかかっただけの姿のその人物は、間違いなく元親が探し回っていた政宗だった。
「……政宗、おい!」
一瞬背筋に寒気が走るが、すぐに元親は政宗を抱え、呼びかけた。
身を揺すると、呻きを零し、政宗が微かに目蓋を開く。
それから少ししてから焦点を元親に合わせ、彼は言葉を絞り出した。
「……ちか…?」
「おう」
政宗の呼びかけに応え、ほっと息を吐いた後、元親は片腕で彼を支えながら散らばっている政宗の制服に手を伸ばした。
「とりあえず帰るぜ。歩けるか?」
周りの暗さが幸いしたか、少なくとも今は政宗の惨状と直面せずには済みそうだ。
そう思いながらも、元親は制服を政宗の側に置いてやった。
「……ああ、悪い――」
元親の腕を支えに身を起こしながらそう応えかけた政宗が、突如、熱のこもった呻きを漏らした。
「おい、どうした?」
凝視する元親から一瞬顔を背けたが、暫しの逡巡の後、政宗は舌打ちして小さく呟いた。
「……抜いてくれ……」
「何を……」
言いかけ、口を噤んだ。
彼の下半身に一度目を遣り、身を貫く異物が与える疼きと、羞恥を堪える政宗の頭をくしゃりと撫でた。
驚き、思わず顔を上げた政宗に元親は笑いかけた。
「力抜いてろよ」
四つ這いにしてから軽く脚を開かせ、背後から彼の後孔に手を伸ばす。
手探り状態なので彼の肌を辿っていくしかないのだが、
ずっと過剰な快楽を与えられていたらしい身体は、ただ触れられるだけでも反応を返す。
それを何とか抑えようとするものの、刺激の中心となっている後孔の異物に元親の手が辿り着いた時は、
流石に何とも言えぬ吐息を零した。
 異物は奥まで容赦なく貫いている。しかも一つではなく、恐らく束にしたペンか何かを突き刺しているのだろう。
顔を顰めた後、僅かに飛び出している部分を握り、元親はそれらを引き抜き始める。
「……いっ…あっ」
内壁を擦られて、悲鳴とも嬌声ともつかぬ声を上げ、政宗は無意識に逃れようと身を捩る。
しかしそうすれば更に中を抉られるだけだし、抜ける物も抜けない。
「動くな、もう少しだ…」
しかも政宗の身を貫いていた異物が引き抜かれていく程、
中に吐き出された誰のものとも知れぬ精液のせいで手が滑ってくるのだ。
彼を支えていた腕で逆に政宗を押さえ込むと、元親は一気に異物を引き抜いた。
その衝撃に堪えかねて悲鳴を上げ、緊張から一気に解放された政宗は、間もなく意識を手放した。








 そこは、どこまでも高く、どこまでも広い空で、どこまでも青かった。
そして足下には、どこまでも深い、濃い青の海があった。
海と空だけの、青の世界。手を伸ばせば、このまま溶けていけそうだ。

良かったじゃないか、ここだけがお前の居場所だよ。




 目蓋を開き、一つのみの眼球を動かし辺りを確認する。
水、いや湯の流れる音と湯気が辺りに立ちこめてやや視界が霞んでいるが、見知った風呂場だ。
だが自宅ではない。覚醒しきっていない頭で不思議に思いながらのろのろと重い身体を起こすと、
政宗に気が付き元親が振り向いた。
「おう、目ぇ覚めたか」
シャワー片手に湯の調節をしながら元親は政宗に声をかけるが、
政宗は呆けた様子で元親を見遣るばかりで、何も言葉を発さない。
元親も何も言わずにシャワーの湯を政宗にかけ、彼の身体を洗い始めた。
「……」
ああ、そうか。と今日、己の身に降りかかったことを漸く思い出す。
自身の身体に目を落とし、湯に混じって流れていくであろうそれを、呆けたままただ眺めていた。
「……」
不意に政宗の頬に元親の手が添えられ、彼の眼帯を外そうとする。
「……いい」
眉を顰め、顔を背けようとする政宗から手を離さずに、元親は再び己の方へと向けさせ、彼の眼帯を取り上げた。
「……元親」
政宗の咎める視線に構わず、元親はそのまま政宗の顔に湯を掛ける。
「ちょ、てめっ」
「ほら、取っておいて良かったろ?」
顔を左右に振り湯を飛ばす政宗に冗談めかして笑いかけた後、
元親は取り上げた眼帯を棚の上に避難させ、ついでにシャンプーを取って、政宗の髪を洗い始めた。
「目つぶってねえと染みるぜ」
「……」
次第に言い返すのも面倒になり、政宗は仕方なく目を閉じて、元親のするに任せた。
髪や身体にこびり付いた汚れを落としていく元親の手つきは、意外にも慎重かつ丁寧ではあったが、
蹴られ殴られた際に擦り剥けたらしい身にはやはり染みる。
ピリピリとする痛みに耐えながら、泡を全て流し終えた元親に再び顔を向け、政宗は投げやりに呟いた。
「犬かなんかにされた気分だぜ」
湯を滴らせる政宗の髪をかき上げてから、くしゃくしゃと撫でつけ、元親は少し意地悪く笑った。
「そんな可愛いもんじゃねえだろ?」
心中にどういった思いを隠しているかは分からなかったが、普段と変わらずに接してくれる元親に政宗は漸く微笑した。




 中に出された精液を掻き出し、殴られ蹴られ受けた傷や痣ごと身体中念入りに丸洗いして、やっと元親は政宗を浴室から解放した。
「しつけーんだよ、てめえ」
勝手知ったる他人の家ではあったが、昼からのことはもちろん、先程までの丸洗いによる疲労でふらふらだ。
不本意ながら元親に肩を借りリビングへと向かいながら、政宗はそう文句を零した。
「バカ、せっかくのいい肌だぞ。あれぐらい当然だろうが」
「当然じゃねえだろ、洗い殺されるかと思ったわ」
そう言い返しつつ、政宗は思い出す。
元親は幼い頃の影響かは知らないがやたら色白だとか肌のきめ細やかさだとか、
まあ俗に言う美肌に自他かかわらずこだわる男だった。
特に元親は政宗に対して、やれ肌が綺麗だとか、色が白いだとか、普段から口にするのだが、
正直そんなこと言われても微塵も嬉しくない。
「ほら」
政宗をソファに座らせ、元親は冷蔵庫から取り出してきたスポーツドリンクを渡す。
それを受け取って半分程を一気に飲み込んだ後、政宗は大きく息を吐いた。
「何か食うか?」
政宗の飲みかけのスポーツドリンクを取り上げて飲みながら、元親がそう尋ねた。
いつもは色々と注文つけてくる男なのだが、多少の気遣いを見せる程度の神経はあるようだ。
「いい、寝る」
昼は食べ損なったが、代わりにもならないものを散々飲まされた。
それだけが原因ではないが、疲労も手伝って軽い吐き気までするので、流石に何か食べる気になれなかった。
「あー、なら寝る前にアレだ、手当しねえとな」
今思い出したとばかりに、救急箱を取りに行く元親を横目で見ながら、政宗は尽きつつある気力でぼんやり考える。
救急箱片手に戻ってきた元親に八つ当たり的にそれを吐き捨てた。
「ねみいんだよ」
「何怒ってんだよ……」
そうぼやくが、元親も政宗の性格は理解している。
軽くため息をつくと、救急箱をテーブルの上に置いて、自由になった両手で政宗を抱え上げた。
ただし、横抱き――俗に言うおひめさまだっこ――ではなく、荷物のように肩に担ぐ感じだ。
前者は勘弁して欲しいが、後者は後者で腹が立つ。
元親の背中に肘打ちをかますと、間抜けな声を出して痛がっていたが、
「何だよ、こっちがいいのか?」
と、担いでいた肩から下ろし、両腕を背中と膝の下に回して抱き直した。今度こそおひめさまだっこだ。
「アンタ……」
感動どころかドン引きする政宗だが、その内怒って暴れ出すのは目に見えている。
その前にと、元親は政宗を寝室へ連れて行き、ベッドの上に降ろした。
「ほら、手当ならしといてやるから寝てろ」
そう言い含め政宗の頭をぽんと軽く叩く。完全に子供扱いだ。
「阿呆、寝られるか」
頭に置いた手を政宗に乱暴に払われたが、元親は気にしない。
「何だ、寝かしつけてほしいのか?」
手当してからなー、と冗談めかして、再び救急箱を取りに寝室を出て行った元親の背中に、
政宗はせめてと枕を投げつけた。

























Next Novel





次はエロと多少暴力表現があります。