アナザー寒いから手を繋ごう





 自分の体温は、人より低めだと思う。
比較する相手の体温がいつも温かいからかもしれないが、
平熱だって低めだから、まあ、あながち間違いではないだろう。
だからだろうか、昔、今思えば、バカなことを考えていた時がある。

自分が手を繋いだら、相手の体温を奪ってしまうのではないか、ということだ。



 少数の例外を除いて、昔から、誰かに触れたり、触れられたりするのが苦手だった。
小さい頃は、マサラタウンに引っ越してきたばかりだったことも手伝って、なかなか打ち解けることがなかった。
 最初に手を繋いだのは、家族を除けばサトシだった。
初めて会った時から、なれなれしくて、こちらが冷たくしても、しつこいくらいに付きまとってくる、そんな奴だった。
 サトシまで巻き込んで闇雲に飛び出して、広すぎる研究所の庭で完全に迷ってしまい、
ただ帰りたいと初めての願いを持ちながらも、子供が思うだけでは到底無理なことで、
そんな時に初めてサトシと手を繋いだ。
 でもその時は、相手の体温を奪うとかいう、余計なことは何も考えていなかった。
温かいとは思ったけれど、単純にはぐれないためと、帰れないかもしれないという不安を少しでも紛らわせるためだった。
 その事件以来、サトシと少しだけ打ち解け、マサラでの生活に少しずつ慣れ始めた時には、もう冬が近づいてきていた。
寒さが一日一日と厳しくなってきた。
 そんな時、サトシに連れられて、マサラの裏山を探検しに行った。
その日はいつもより寒くて、裏山に入って、少しも経たないうちに、手足の先が寒さを訴え始めた。
寒さ対策はしてきたつもりだが、この日の寒さに対しては、どうも不十分なようだった。
「今日はもう、帰ろう」
そう言うと、サトシは不満そうに言い返した。
「え〜、まだいいじゃん」
「これ以上体が冷えたら、風邪引く」
負けずに言い返すと、サトシはしばし考え込んでいた。
 が、すぐににこっと笑って、腕を伸ばし、僕の目の前に小さな手を差し出した。
「じゃあ、手、繋ごう」
「は?」
サトシの行動の意味がわからず、サトシを凝視する。
サトシは、まだまだところどころが舌足らずな声で、それでも懸命に彼なりの説明をし始めた。
「手、つないだら、あったかくなるから、そしたら寒さなんかへっちゃらだろ!」
「……」
とりあえず、言いたいことは分かった。
だが、サトシの提案には肝心なところが抜けている。
そう思ったので、指摘した。
「お互いに、体が冷えているんだから、繋いだくらいで、温かくなるはずないだろ」
「だいじょーぶ!」
しかしサトシは強引に僕の腕を掴んで自分の方に引き寄せると、ぎゅっと手を握った。
「……冷たい」
やっぱり冷たいじゃないか。何が大丈夫だ。
だが、サトシは気にしていない。
「しばらく握っていると、あったかくなるんだって!」
「……」
常日頃思っていたが、改めて確信した。
こいつは何て自分勝手なんだ。今更だけど。
 しばらくは我慢した。
が、無駄とは分かっていても、せめて文句の一つでも言いたくなり、
口を開きかけた、その時だった。
「……?」
何だか、握られた手がさっきまでと違う。
まさか、だってそんなはず…
「……温かい……」
「だろー?」
思わずそう呟くと、サトシは嬉しそうに笑って、握った手に、もう片方の手まで重ねた。
 不思議だった。
ただ手を繋いだだけなのに、どうしてこんなに温かくなるのだろう。
その後、不意にあの考えが出てきて、段々と心配になってきた。
僕は温かいんだから、サトシは反対に、寒くはないのだろうか。
「……君、寒くないの?」
「……?」
サトシは首を傾げる。
質問の仕方が悪かったか。
言う台詞を探しているうちに、サトシが答えた。
「シゲルの手が温かいから、寒くないよ」
「……そんなはずない。さっきまで、あんなに冷たかったんだぞ」
そう言うと、サトシは握っていた手を離し、半分叩くように両手を僕の頬に当てる。
「……」
繋いでない方は当然冷たくて、繋いでいた方の手は、
温かかった。








「シゲル、何ぼーっとしてるんだよ?」
いつの間に起きたのか、サトシが僕の顔を覗き込んだ。
そんなサトシに、笑いかけ、頬にそっと触れた。
「おはよう、サトシ」
「おはよ。で、どうかしたのか?」
「懐かしいことを思い出してたんだ」
そう言って、頬から手を離し、サトシの腕を持ち上げた。
その手に自分の手を重ねた。
「?」
サトシはきょとんとしている。
「寒いな、サトシ」
「そりゃ、服着てないからな」
当然だろ、といった様子でサトシが答える。
おかしくて、嬉しかった。
「手を、繋ごう」
重ねた手を、しっかりと握った。

























P_Novel TOP





恥ずかしすぎて死ねる(あらゆる意味で)