夢隠れ





 今宵は半月、下弦の月。
月が欠けていくに伴い、その光も弱くなる。
そしてその弱い光さえも空を泳ぐ灰色の雲に半ば隠されそうな、そんな夜。
……元親……
部屋の外から名を呼ばれ、元親は眉を寄せた。
「誰だ?」
元親の問いには答えず、代わりに相手は障子を開け、元親の前に姿を現した。
「…政宗?」
弱い光を背に受けて、政宗が佇んでいる。
先程俺を呼んだのは、こいつか?
声がいつもと違うような気がしたが。
「……どうした?」
「……」
薄暗がりで見えぬはずなのに、政宗が唇の端を上げて笑んでいるのが分かった。
政宗は何も言わぬまま、ゆっくりと元親の方に歩み寄ってくる。
 不意に元親は、政宗の全身から発している、怪しいものに気が付いた。
邪気とも呼べるそれを纏い、笑んだまま近付いてくる彼の片眼には、普段の鋭い光が見えない。
「お前、まさか――」
憑かれたのか、続けようとした言葉は、不意に襲われた圧迫感に遮られた。
「…っぐ」
政宗の全身から発している暗い邪気が、気付けば元親にまとわりついている。
それが元親の首や胸を締め付けていた。
「冗談、きついぜ…っ」
呻く元親に政宗は更に近付いてくる。
彼の全身を纏う邪気が、ゆっくりと形を変えていった。
「……っ」
最早、人ではないが、それは人を形作った。
長い髪の、血のように赤い唇の、同じ色の着物の女。
その形相は人とは離れた般若のものだ。
しかし女を形取る邪気は、ただの象徴に過ぎない。
――――よくも……
政宗が、いや邪気が発した言葉は、一人の女の声ではない。
幾つかが重なり合い、おどろおどろしい声となっていた。
「……」
唐突に元親は気がついた。
過去の女たちが脳裏によぎる。
「……お前ら、何のつもりだ…?」
元親の問いかけに邪気が揺れた。
悦んでいるのか、煽られているのか、
邪気は身体を這い回り、元親の自由を奪った。
邪気を纏った政宗は足を進め、音もなく元親のところまで辿り着いた。
それを見上げ元親は尋ねた。
「……何が、望みだ?」
「……」
邪気が揺れ、政宗が虚ろに唇の端をつり上げた。
膝を折り、元親の側にしゃがむと光の浮かばない瞳で元親を見据えた。
怯むことなく見返すと、政宗は元親を見つめたまま彼に顔を近付けていく。
光の見えない瞳の奥に真実の彼を探すが、
奥まで闇に包まれた瞳はまるで吸い込まれてしまいそうな程深かった。
一瞬本当に吸い込まれたのかと思ったが、
単に彼が尚も顔を近付けていく故に過ぎず、
ひやりとした感触を唇に感じたのは彼が自分のそれを元親に重ねたからに過ぎない。
冷たい唇の間から冷たい舌が入り込み、熱を求めるように元親の口中を這い回る。
漆黒の片眼は微動だにせずにその瞳に深い闇を称え、
今度は自らの闇に誘い込もうと口付けを深くし強請った。
 自由の効かない身体が勝手に政宗に手を伸ばし彼の着物に触れる。
政宗もまた元親の首に腕を回し縋り付いてくる。
唇を離した政宗が虚ろな瞳で笑みその唇が言葉を紡ぐ。
音を発しなかった言葉はしかし元親に伝わった。
願うは、ただ一つ。
「……分かった」
元親が了承の言葉を呟くと、
政宗は笑みを深くし彼を覆う邪気は悦びに揺れる。
不意に元親の身体に自由が戻る。
成程、操られるのでなく俺自身でやれ、と。
ならば、
元親も唇の端をつり上げ笑んだ。
「…愉しもうじゃねぇか」

























Novel TOP





まあこの後は(書かないけど)たぶんエロシーンが続くだけだと…