天の彼方から





落ちていく。
墜ちていく。
晴れた夜空は、透き通るような蒼だった。
瞬く星々、輝く月。
それは、彼らだけの特権だ。
それを見られただけでも、良いかもしれない。








「おまけだ、これも持って行きな」
両腕で抱える袋には、肉や野菜や缶詰でいっぱいだった。
その上に更に、大きなリンゴをポンと載せられた。
「おじさん、サンキュー!」
載せられたリンゴをグラグラと揺らしながら、サトシは礼を言い、去っていった。




 今日は満月だ。
おかげで道がいつもより明るくて歩きやすかった。
「色々安く買えたし、今日は何か良いことありそうだな」
今日はあと、数時間で終わるのだが、サトシはそんなことは気にしなかった。
抱えている荷物のおかげで前がよく見えないので、夜空の月と星を眺めながら家路を進む。
「キレイだなぁ…」
呟いたと同時に、線を描き、星が流れた。
「明日も晴れろ!」
思わず大声で願い事を言ってしまう。
五月蠅い、と窓を開けて怒られるかと思ったが、野良ネコが不愉快そうに一声鳴いただけだった。
 小さな公園に差し掛かったとき、公園の中が何やら明るかった。
花火かと思い、ならオレも混ぜてもらおう、とサトシは公園の方に足を踏み入れる。
公園の中は、静寂に包まれていた。
人の気配は無い。
「ちぇっ、花火してるかと思ったのに…」
口を尖らせてそう呟き、踵を返したその時、サトシの視界に光が映る。
「?」
そちらに目を向けると、自分の抱える袋のおかげでよくは見えないが、
ぼんやりと光る何かがあった。
「何だ?」
そろそろと、視界に入る光を頼りに近付いていき、荷物を地面に下ろした。
「!」
目を見開き、その光を凝視する。
いや、光に包まれている人物を凝視した。
 見慣れぬ衣装を身に纏い、しかしその衣装はところどころが破けていた。
破けた箇所はこの人物の身体にも達していて、傷口から流れる血が、衣装を汚していた。
彼はぐったりとしたまま動かなかったが、
上下する胸と口から漏れる息が、彼が生きていることを知らせていた。
「た、大変だ…!」
救急車、と公衆電話を探して辺りをキョロキョロと見渡し、
何も無くて再び彼に目を向けたとき、信じられないものが目に入った。
「…え……?」
傷だらけの身体、その背には、人間には絶対に付くことは無いであろう、純白の翼が確かに付いていた。
背中から翼を生やした人と言えば、思い当たる名前はあれしかない。
でもまさか。
しかし、でも。
悩んだ末に、当座の結論を出した。
とりあえず、彼は普通の人間ではない。
よって救急車は呼べない、と気付いて、さてどうしようかと考える。
「……こうするしかないよなぁ……」
独りごちて、彼を自分の家へと連れて行こうと思い至る。
が、ふと盲点に気が付いた。
サトシは傍らの荷物と、彼を交互に見た後、
再びどうしようかと頭を悩ませるのだった。








 閉じていた瞳の先に、しかし光を感じて、シゲルは眩しそうに眉を寄せた。
だが光が無くなる気配がないので、うっすらと重い目蓋を開いた。
光が飛び込んできた。
今まで見たこともない光。
本でしか読んだことのない世界の光だった。
「……?」
何故、それが。
不思議に思い、目を擦りながら、半身を起こす。
拍子に、身体中が痛み、シゲルは眉を顰めるが、構わず起き上がり、まず周りに目を向けた。
 狭い部屋だった。
物が所狭しと雑多に置かれており、そのほとんどはシゲルにとってはガラクタのようにしか見えなかった。
その部屋の、窓のすぐ近くに敷かれた布団。
シゲルはその中にいた。
「……ここは……?」
この狭い部屋ではシゲルの小さな呟きでも気付けるらしく、
おそらくほとんど長さは無いであろう廊下から、ひょっこりと黒髪の少年が顔を出した。
「お、気が付いたか?」
少年の手には、先に丸いものがついた棒状の道具が握られており、僅かに湯気が立ち上っているのが確認できた。
少年は大股で二、三歩歩いてシゲルに近付き、正面でしゃがみ込んだ。
「ケガ、痛むか?」
そう言われ、シゲルは漸く自分の身体に目を向ける。
身体が痛むのはあの時の傷に他ならないが、
上半身だけ脱がされた服から見えるはずの傷は、今は白い包帯が巻かれていた。
「……君が、手当してくれたのか?」
「うん?まあな。
 消毒ぐらいしか出来てないけど…」
でも、病院に連れてくわけにもいかなかったし、と付け加えられ、
シゲルは、はたと気が付いた。
そうだ、あまりにも普通に話しかけてくるので失念していたが、目の前の彼は、人間だ。
自分とは違う、生き物。
生きる世界が違う、別の生き物。
ならば、彼にしてみれば、自分の利用価値は十分にあるはず。
「……」
普段通り疑念を生じ、シゲルは少年を冷たく見た。
その瞳を見返し、少年はにこりと笑う。
「キレイだな!」
先程見た光のように、その笑顔もその言葉も、何の悪意も含まれていなかった。
初めて向けられる悪意以外のものに、シゲルは戸惑った。
そして何か言おうと口を開きかけた時、甲高い音が部屋に鳴り響いた。
「あ、お湯!」
少年は慌ててどこかへと走っていき、鳴り響いていた音は止まった。
再び戻ってくると、少年はシゲルに声をかける。
「オレ、サトシ。お前は?」
「……」
戸惑ったまま、シゲルは答えられずにサトシと名乗る少年の瞳を見返す。
サトシはシゲルの戸惑いや心配を振り払うかのように、またにこりと笑った。
「名前、教えてくれよ」
サトシの焦げ茶色の瞳が、興味深そうにシゲルの蒼い瞳を覗き込み、
その瞳と彼の口から紡ぐ言葉が、不思議とシゲルの警戒心を解いた。
「……シゲルだ」
「シゲルか。
 よろしくな、シゲル」
手を差し出し、半ば無理矢理にシゲルの手を掴んで握手をした後、
サトシは、もうすぐ朝ご飯出来るから、と言ってシゲルの返事を聞かずに、また走っていった。
おかげで、僕は人間の食事は食べられないんだけど、
と言い損なった。

























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突発シゲサト天使ネタ。
サトシが天使のバージョンも考えたけど、
シゲルを天使にしろと、もう一人の私が仰ったので、こうなりました(笑)

いや、ウソです。
何となくです……;

最近突発ネタばかりで申し訳ない…;
突発ネタは突発故に出てくるのです…
ていうか、今年初の更新がこれですか、自分;;