四代目拍手(2007.1.1〜2007.8.11)
呼び方
呼んで下され! (サナダテ)
「ま、政宗殿!」
「……どうした?」
きちんと正座して声をかけてきた幸村に政宗は眉を寄せた。
「じ、実は某、その……」
「何だよ?」
「いえ、あの、その……」
顔を赤くさせ、幸村は何かを言おうとするが一向に言える気配はない。
「……」
政宗は気が短い。
「早く言え」
低い声で脅しをかけてきた。
「は、はい!」
政宗の迫力に、幸村は顔は赤いのに、体温が下がりそうだった。冷や汗が背中を伝う。
「そ、その、ま、政宗殿と、そ、某は、こ、こ、恋仲、でござりましょう?」
そこまで言って、己の発言に破廉恥、と叫び、
幸村は恥ずかしさに両手で顔を覆ってしまった。
「…まあな」
呆れた様子でそれを見るが、幸村の方からそんな話題を口にしてくるのが珍しいのと、
あまりの動揺ぶりが気の毒で、素直に認めてやった。
「確かにアンタと俺はloversってわけだ」
「……?」
「…恋人同士って意味だ」
説明してやると、その言葉にやっぱり先程よりも更に幸村の顔が赤くなる。
恋仲だという確認だけで、どうしてこんなに時間がかかるのか、と再び政宗が不機嫌になってきた。
「…幸村、話を進めろ」
「は、はい!」
返事はいいのだが、呻るばかりで、幸村はなかなか言い出さなかった。
「……」
何でこんなのに付き合ってんだ、と今度は段々飽きてきた。
「…話さないんなら、帰れ」
幸村から外の景色に視線を移して、しっしっ、と追っ払うように手を振ると、
幸村が慌てて言った。
「ま、待って下され!某、政宗殿に呼んで頂きたいのでござる!」
「ああん?何をだ?」
意味が全く分からないが、そう言い縋ってきた幸村の方に再び目を向けると、焦った様子の幸村と目が合う。
幸村はそれによる恥ずかしさで、後ずさってしまった。
「……お前なぁ……」
やることはやっているくせに、何を今更そんなにも恥ずかしがってんだ、コイツは。
呆れながらも後ずさった幸村に政宗はゆっくりと近付いた。
絆されてるな、と思いながら、声音を少し和らげる。
「…で、何を呼んで欲しいんだ?」
「……そ、その、某を……」
「お前を?」
促すと、恥ずかしさと焦りと、期待の入り交じった顔で、どもりながら幸村が言った。
「ゆ、幸、と……」
「……」
それだけかよ。
脱力感に襲われ、政宗はため息をついた。
「……何でまたいきなり?」
怒る気力も無いので、とりあえず理由を尋ねてみた。
「…その、恋仲にあるものは名前で呼び合うと聞きましたので……」
「呼んでんじゃねぇか、名前で」
幸村、は名前以外の何ものでもないではないか。
しかし幸村は言い縋る。
「一度だけで構いませぬ。
短く呼ばれた方が政宗殿を身近に感じるでござる!」
無理矢理な論理だが、まあ、分からないでもない。
くだらない、とは思った。
「……」
もう一度、幸村の顔をマジマジと見た。
相変わらず頬を赤く染めているが、瞳の光に諦めの影はない。
諦めた。
「…一度でいいんだな?」
その言葉に幸村の顔がぱっと明るくなった。
「はい!」
それに苦笑しつつ、またため息をついた。
「幸」
幸村は目を見開いて、呆けたように政宗を見つめ、
「す、すみませぬぅぅっ!!!」
そう叫びながら、両手で顔を覆って部屋から飛び出して行ってしまった。
それを苦笑しながら見送った後、政宗はもう一度だけ息を吐いた。
「……マジかよ」
頭を抱え、速まる動悸を落ち着けようとする。
ただ名前を呼ぶだけなのに。
くだらなくなど無いではないか。
呼んでみないか? (チカダテ)
いつからだろうか、元親が名前を馴れ馴れしく縮めて呼ぶようになっていた。
「なあ、政」
「……」
「おい、宗」
「俺の名前は、政でも宗でもなく、政宗だ!」
このやり取りも何回かしたが、元親はやっぱり名前を略する。
「分かった、分かった。で、政」
そんな感じだ。
「なあ、元親」
「何だ、政?」
最近は、いちいち怒るのも疲れるだけなので、置いておくことにして、
政宗は尋ねてみることにした。
「お前、何で俺の名前を略すんだよ?」
「ああん?いちいち全部呼んだら長ぇじゃねぇか」
確かに。
「って、ちがーう!!」
当然のように言われると、一瞬でもそう思ってしまうから不思議なものだ。
しかし我に返って直ぐさま怒鳴り返す。
「っざけんじゃねぇぞ、てめぇっ!」
元親の胸倉を掴み上げ、睨み付けるが、元親は少し目を丸くしただけだった。
「そんなに怒るなよ、政。
ほら、魚でも食え」
酒のつまみにと用意された刺身を、箸で掴み、元親は怒鳴る政宗の口に放り込んだ。
「新鮮なマグロだぞ、うめぇだろ〜?」
自分でも刺身を口に入れながら、自慢げに笑顔を見せられる。
怒りは倍増したが、毒気を抜かれてしまい、口に入れられた刺身を飲み込んだ後、政宗は脱力した。
「…アンタに付き合ってると、すげー疲れる……」
「そうかぁ?単にお前が怒りっぽいんじゃねぇかぁ?」
怒ってばかりは良くねぇぞ、と杯に自分で酒を注ぎながら、元親は偉そうに説教した。
「……どうせ俺は短気だよ」
「おいおい、ふて腐れんなよ」
頭を撫でようと手を伸ばすと、その手を振り払われ、更に部屋の角まで後ずさりされた。
ああ、何か懐いてない獣見る気分。勿論ネコ科。
こんな風に全然懐いてない奴が懐くようになると可愛いんだよなぁ。
政宗に対して相当に失礼なことを思いながら、
元親はこの毛を逆立てている獣をどう宥めるかを考える。
部屋の角まで後ずさった政宗の側に、そろそろと近寄る。
「そうだなぁ…
そんなに腹立つんなら、俺のことも略して呼んだらどうだ?」
「……は?」
的外れのことを言われ、政宗は間の抜けた声を返す。
「そうだよ、そうしろよ。そうすりゃお互い様だ」
がしっと肩を掴み、名案とばかりに瞳が煌めいた。
「いや、何か趣旨がずれてるぞ、アンタ…」
そうツッコミを入れてはみるが、元親の方は自信満々というか妙に乗り気になってしまい、
果ては呼んで呼んでと頼んでくる始末だ。
あれ、何かデジャブ…?
「よ、呼ばねぇ、ぜってぇ呼ばねぇっ!」
慌てて元親の横をすり抜けようとするが、逃がさねぇ、と腰の帯を掴まれた。
「Fuck !はーなーせーっ!」
暴れる政宗をそのまま引き寄せる。
「いや、俺異国語分かんねぇ」
後半は紛うことなく日本語だ。
「離せって言ってんだよ!
ちなみに英語はくそったれって意味だ、分かったか、このスカタン!」
怒鳴りながらも政宗は丁寧に訳してやる。
何だかんだ言っても優しいな、とか元親はしみじみと感想を抱いた。
「分かった、分かった。
お前が呼んだら離すから。な、な?」
「全然分かってねぇよっ!」
じたばたと暴れる政宗を背中から抱き締める。
「呼んでくれるまで、離さねぇ」
耳元で囁いた。
いつもの声と違う低い声。
例の五羅の挑発時ボイスみたいな低音だ。
「――っ」
声と共に息を吹きかけられ、政宗の顔が、かあっと赤くなった。
だって、あの声は反則だ。
「こ、この…っ」
身体が熱くなって、頭が混乱して、訳が分からなくなった。
言葉と一緒に、拳を突き出した。
「この、バカチカっっ!!」
呼んでみよう! (グリレ)
「なー、オレ達っていつまで経っても名前そのまま呼びだよな」
不意に口を開いたレッドの方にグリーンは顔を向けた。
「いきなり何だ?」
「一応付き合ってると言えなくもないような気がしないでもない関係だろ、オレ達」
「……そんなに自信ないのか、お前は…」
レッドの言い方に呆れ、グリーンは一つため息をついた。
「なら、どう呼びたいんだ?」
「どう呼びたいって言われてもなー…」
言ってはみたものの、レッドも特に良い案があるわけでもなかった。
「ただ、たまには違う呼び方した方が気分も変わるんだろ?」
「…誰に吹き込まれた、そんなこと」
「え、ブルー…?」
彼女はからかい八割ぐらいの気持ちで、応援してくれている。
グリーンは少し眉を顰めた。
「…まあいい、とりあえず何か呼んでみろ」
「お、珍しく乗り気じゃん」
「…暇だからな」
「……」
ちょっと言い返したい気持ちが生じたが、珍しくめんどくさがりな彼が乗り気なので、
レッドは気にしないことにして、何か良い呼び方を考える。
「……あー、緑くん?」
「……ならお前は赤ちゃんか?」
今日のグリーンはホントにノリが良い。
「いや、そうじゃない、そうじゃない」
自分の思考とグリーンにツッコミ裏手パンチを入れた。
「それは、却下だな…」
「そうだな」
ため息を吐くレッドに、グリーンも同意した。
「……えーと、じゃあ…グリ」
「……オレはどこぞの野ねずみか。それにグラがいないからダメだ」
今度は真面目に言い返すけど、やっぱりノリは良いなぁ。
ていうか、お前は自分の愛称に何を求めているんだ。
「…それにその呼び方でいくと、お前は甚だ呼びにくいぞ」
「……」
レッドは自分の名前を想像してみた。
レッ…?
何だかものすごく中途半端だ。
むしろそこまで言ったなら、最後まで言え!って感じだ。
敢えて言うなら、レッドがその呼び方に付き合う必要は別にないのだが。
レッドは首を振りため息をついた。
「うん、これもダメだな…」
「オレもそう思う」
頭を思いっきし横に曲げ、レッドは次の呼び方を考える。
グリーンも割と真面目に考える。
しかし、元々、三、四文字の名前だし、グリーンの四文字の内一つは伸ばし音なので、そんなにボキャブラリーは無かった。
長い間二人して考えていたが、レッドが漸く重い口を開き、結論を出した。
「……やっぱ、普通に名前呼ぶので十分だな」
「ああ、オレもそう思う」
始めっからそうすりゃいいのに、バカみたい。
という、どこぞのデジモンのツッコミを入れたくなるぐらい、長い時間を無駄にした。
しかし二人はどこまでも真面目だったので、その思考には無駄にしたという考えは、微塵もなかった。
「…よし、そろそろ夕飯の支度しないとな」
「ならオレは洗濯物を取り込んでくる」
二人は同時に立ち上がり、レッドはキッチン、グリーンは庭へと向かった。
お前ら同棲中ですか!
とか、
どこまで所帯じみてんですか!
というツッコミは無しの方向で。
呼んでみたけど (シゲサト)
「シゲルってさ、オレのことサートシくんとか、マイなんたらとか呼ぶよな」
それを言うならマイスイートなのだが、わざわざ言い直すのも、自分が言っていただけに何だか気恥ずかしい。
それに、サートシくんはともかく、そう言ったのは、数える程しかない。
よく覚えていたな、と思いながら、シゲルはサトシの方に目を向けた。
「どうしたんだ、いきなり?」
「いや、何で色々呼ぶのかな、と思って」
まあそれは、ノリに任せたりとかちょっと調子づいたとか、その程度のものなのだけれど、
そう言ったら怒り出しそうなので、シゲルは適当な理由を考える。
「……親しみと愛情を込めると、そんな呼び方になるんだよ」
胡散臭い笑顔と態度を、言葉でオブラートに包み込んでやると、
見抜かれて、サトシの瞳が少し冷たくなった。
「……わざとらしいぞ、お前……」
「うん、僕もそう思う…」
流石に自分でもやりすぎたと思ったので、シゲルは素直に認めた。
「…オレは割とマジメに聞いてるんだぞ」
「…それは分かるんだけど……」
割との部分はこのさいあまり気にしないこととして、しかしやはり素直に言うのは躊躇われる。
何となく、話を逸らしていこうという、ちょっと卑怯な手段を思いつき、シゲルはサトシに提案した。
「…なら、サトシも僕のこと好きなように呼んでみろよ」
「え、何で?」
思わぬ言葉にサトシの目が大きく開かれる。
「そうしたら、僕の気持ちが分かるかもしれないからだよ」
ついでに言えば、シゲル以外の呼び方をされたことがないので、
サトシが自分をどう呼ぶのかも結構興味がある。
「……分かるかな?」
「どうだろうね…でも、」
ここでは素直になっておこうと、シゲルは微笑を浮かべて言った。
「僕もサトシに違った呼び方されてみたいな」
シゲルの言葉と笑みに、見開いた瞳がますます大きくなる。
二、三度ゆっくりと瞬きしてから、暫く腕を組んで考え込み、やがてサトシは頷いた。
「分かった。何か面白そうだし、やってみるぜ」
そう言った後、また暫くサトシは考え込んでいた。
何と言おうかと考えているのだろう。
シゲルもシゲルで、さて何と呼ばれるだろうか、
と期待半分不安半分でサトシが口を開くのを待っていた。
「……やっぱ、もういいや」
長い長い沈黙の後、サトシはやっと口を開いたが、その内容にシゲルは拍子抜けした。
「…何で?」
そう尋ねると、サトシは言いにくそうにもごもごと口を動かしていたが、観念した。
「…色々考えてみたんだぜ、シゲるんとか」
「……」
それじゃなくて良かった、とシゲルはひっそりと思った。
当然気にせず、サトシは続けた。
「あとは、シゲールとか…」
「……」
それはアレですか、ピエールあたりと同じノリですか。
サトシの表情は真剣そのものなので、ふざけてないことは見れば分かる。
分かる分、あんまりな愛称にシゲルは少しだけ傷ついた。
「…いや、僕もなのか…」
もしかしたら、サトシもこんな気分なのだろうか。
いや、でも、サートシくん、ぐらいならいいんじゃないか?
だけどサトシはもしかしてそれも嫌だと思っていたら…
色々考えた末に、シゲルは、せめてマイスイートはあまり言わないでおこう、という結論に辿り着いた。
「シゲル」
結論に辿り着いたところで、サトシに呼ばれ、
シゲルは再びサトシの方に目を向けた。
「何?」
「シゲル」
今度は楽しそうに呼ばれ、しかもその頬が嬉しそうに綻んでいる。
「…どうしたんだよ?」
その笑顔に少しだけ頬を染めながら、シゲルはもう一度尋ねた。
「うん、やっぱり、シゲル、って呼ぶのが一番だな」
満足した様子で、サトシはまた、シゲル、と呼んだ。
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