ネコ騒動 その3
地面が遠い。おかしい。
さっきまで同じ身長ぐらいだったのに、あの白ウサギが何故か自分のはるか下にいる。
おかしいって、絶対おかしいだろ。
この五本指は何だ、僕の珊瑚の色した肉球は何処行った。
ていうか黒い毛がない、それどころか変なの着てる。
神社にいる人が着てるようなの着てる。
シュウはおずおずと自分の顔を前足(だったもの)で触ってみる。
やっぱり毛がない。
いや、頭の上には生えてるんだけれど。
暫くシュウはペタペタと顔を触りまくっていたが、ふと、懐かしい感触がした。
あ、この触り心地。
耳はついてた。
よく見れば長い黒尻尾も健在だ。
それで少しは安心したらしく、シュウは息を吐いた。
「シュウ、おいシュウ!」
そして漸く白ウサギの声に気が付き、そちらを見下ろした。
「お前、いきなり無視はないだろ」
サトシは口を尖らせてそう抗議する。
サトシはずっと呼びかけていたのだが、
当のシュウが茫然自失状態だったので彼の耳には全く入っていなかったのだ。
「……これ、何だ…何で僕はこんなことになっているんだ?」
あの時、サトシが自分の背中に前足を乗せた直後にこんな状態になったのだ。
原因はコイツにあるに決まってる。
「君、僕に何をしたんだ?」
「はあ?」
そう尋ねるシュウの口調がきつくなってしまうのも無理はないのだが、
サトシの方は間の抜けた声を返すだけだった。
「そうじゃなきゃ、いきなりこんな人間みたいな姿になるはずないだろう。
君が何かやったに決まってる」
断定するシュウの思考がサトシには理解できない。
「ちょ、ちょっと待てよ、シュウもヨサファなんじゃ…」
「何だ、そのヨサファっていうのは? 僕はネコだ」
「いや、そうじゃなくて…」
サトシは少しの間考えた。
変身したってことは、シュウはヨサファだ。
でもシュウはヨサファなんて知らないって言ってる。
それなら、とサトシは目を閉じた。
ぽふんと煙を立てて人間の姿に変身する。
いきなり小さなウサギから自分とさして変わらない身長の少年が現れたものだから、シュウは唖然としている。
そのシュウの両肩にサトシは手を置き、正面からシュウを見つめる。
「ヨサファってのは、オレやシュウみたいにこんな風に人間に変身できるやつのこと」
「まさか。僕は今までに一度として、こんな姿になったことはない」
サトシの姿に驚きながらも憮然とした顔でシュウは首を振る。
「たまたま今まで気付いてなかっただけじゃないのか?」
「……」
納得できないが返す言葉が思いつかなかったので、シュウは黙り込んだ。
再び自分の身体を念入りに見る。
変わってない、どう見ても人間だ(耳+尻尾は気にしない)。
最後にもう一度だけため息をして、シュウは観念した。
なってしまったものは仕方がない。
ならば元に戻る方法を探すだけだ。
「……で、これはどうやったら元に戻れるんだ?」
サトシもそのヨサファとかいうやつだというならば、当然戻る方法だって知っているだろう。
そういえば、会った直後は人間だったし。
「どうって……」
改めて言われると、サトシとしては困る。
「気が抜けたら戻る、かな?」
感覚そのままという何とも呆れた答えを返すサトシに、当然シュウは呆れ顔だ。
「…そんな顔すんなよ、オレは変身苦手なんだ。だからシゲルに……」
そこまで言いかけ、突然サトシの頭に名案がひらめいた。
「そうだ、シゲルだ! シゲルならきっと教えてくれる!!」
以前に変身のコツを教えてくれると言ったシゲルだ、
彼ならきっとシュウに巧くヨサファの感覚を伝えられるだろう。
そう判断したサトシはすぐにシュウに提案した。
「オレ、今からシゲルに会いに行くからさ、シュウもついてこいよ。
シゲルは変身上手いから、きっと教えてくれるぜ」
シュウはシゲルの居場所を知っている。
シゲルは元に戻る方法を知っている。
そして、そんなシゲルをサトシは知っている。
これ以上にスゴイ名案は無い、そんな名案を思いついたのでサトシは上機嫌になった。
「……まあ、仕方ないな」
もう昼寝タイムを大分過ぎているのだが、
こんな姿ではもう昼寝どころの話ではないし、第一眠気なんてとっくに吹き飛んでいる。
今は元のネコの姿に戻ることが先決だ。
渋々ながら、シュウはサトシの提案に同意した。
「よし、そうと決まったら行くっきゃない、やるっきゃない、だぜ。
シュウ、シゲルがいる…えーと、博士の家?ってのは何処なんだ?」
「確か、マサラタウンの外れの方に」
ウキウキした様子で尋ねてくるサトシにそう答えるが、次のサトシの言葉にシュウは凍り付いた。
「じゃ、案内してくれ」
「え…っ」
サトシの名案の唯一にして最大の欠点にシュウは気が付いた。
「……ここ、何処か分かるかい?」
重要な役割を持つ案内役は、現在地を見失った方向音痴ということだ。
まだまだ続く!