ネコ騒動 その1
緑豊かなマサラ山。今日も今日とて白ウサギ、町のネコと待ち合わせ。
なはずなのに、
「………遅い」
いつまで待っても、ネコの姿も気配も見えない。
普段シゲルをいつまでも待たせてるくせに、サトシはふくれっ面で立腹中だ。
「何だよシゲルのやつ、何で来ないんだよ」
石に座って足をブラブラ、暫く溢れ出てくる文句をぶつぶつと零していた。
が、不意にサトシ的名案を思いついたらしく、突然目を輝かせ立ち上がった。
「よし、決めた!」
そう宣言するがいなや、サトシは飛び跳ねていく。
目指すは麓、マサラタウンだ。
以前にタケシやハナコママに言われていた、
保護区である山を出ちゃダメ、
という忠告も禁止事項もどこ吹く風か、目的はただ一つ。
「待ってろよ、シゲル、会ったら文句言ってランチ奢らせてやる」
欲に忠実な誓いを胸に、白ウサギはマサラタウンに向かっていった。
だけど自然はそんなに甘くない。
「……ヤバイ」
冷や汗たらたら、サトシは繁みに隠れる。
「どこに行った、あのウサギ」
大きな耳だけに大声に殊更ビクついて、身を竦めた。
山を下り始めて間もなく、早速密猟者らしき男二人に見つかってしまったのだ。
「…ああもう、オレのバカ」
猟犬は連れていないらしく、ガサガサと茂みをかき分け、男二人はウサギを探している。
音を立てないように、そろそろと茂みの間を縫うように、サトシは男達から離れようとする。
「いたぞ、あそこだ!」
なのにどうして見つかるかなぁ、繁みに隠れているのに。
とか思っていたけれど、
その繁みからばっちり見えちゃっていたのだ、白耳が。
男たちが近付いてくる。
今飛び出せば確実に捕まるのでそれも出来ない。
自分の間抜けっぷりに心の中で思いっきり文句を言うものの、
それは無意味だし気付けば男二人はもう目と耳の先だ。
二人のうち一人がサトシの耳を掴み、そのまま引っ張り上げた。
ウサギをよく知る人から見れば憤慨極まりない乱暴さ。
良い子は真似しちゃいけない。
「痛い痛い痛い!!」
悲鳴を上げるサトシを男達は凝視する。
気が動転していたせいか、
あろうことか、咄嗟にサトシは自分というかヨサファ特有のあの能力を出してしまったのだ。
「な…!」
二の句の継げない男の腕が掴む先には、やっぱり白い大きな耳を生やした見た目人間の少年サトシ、
実は白ウサギ(ヨサファ)が手足をジタバタさせていた。
ヨサファは珍獣中の珍獣だ。
人間達は目の色を変えるし、当然高く売れる。
サトシはそのままどこぞの研究所に連れて行かれ、
大腸菌もビックリな程、全身「すげー見られた」り、
変なコードとかをくっつけられたり、
あげくの果てには冷たく光るメスが。
「――って、そんなの嫌だーっ!!」
自分で思い浮かべた想像に、サトシはひときわ大きな悲鳴を上げた。
その声に驚いて、思わず男はサトシの耳を掴んでいた手を離してしまった。
ドスンと尻餅をつくが、自由にはなった。逃げるなら今しかない。
しかしサトシは動かなかった。ていうか動けなかった。
腰が抜けてしまったのだ。
「あわわわ…」
無意味な声を上げながら、サトシは男たちを見上げた。
恐怖で耳が心なしか垂れている。
そんなサトシを男二人は呆然と見下ろしていたが、
「……か」
「か?」
一人が呟いた少々素っ頓狂な声をサトシはオウム返しする。
男が驚愕しながらも瞳を輝かせてその続きを口にした。
「か、可愛い…!」
「はぁ?」
予想だにしない発言にサトシも間の抜けた声を出し、小首を傾げた。
拍子に真っ白な耳も揺れ、その仕草が男的ツボに入ったらしい。
男二人は身悶えし始めた。
「可愛い!この愛くるしい黒々とした瞳(ホントは雀色)!健康そうな肌!
何よりその大きな白耳!!」
「もうたまらない!!」
「はあ、そりゃどうも…」
密漁に来たくせに、どうやら男二人は獣耳萌え〜な人間だったようだ。
しかもサトシの正体に全く気が付いていない。
「ごめんよ、てっきりウサギだと思って…」
「そうそう、まさかこんな可愛いコスプレ少年だとは思わなかったから…」
「こすぷれ?」
そんなこと知る由もないサトシは、その様子に少々というか、かなり引き気味だ。
だけどおかげで抜けてた腰は元に戻ったようだし、
呆気にとられすぎて恐怖もどこかに行ってしまった。
「おじさん!お前ら密猟者だな!!」
立ち上がって威勢良く二人を睨み付ける。
萌え対象にすごまれたせいか、二人は少し小さくなっている。
「いや、密漁というか…あ、まだおじさんじゃないよ」
「ペットにする動物を捕まえに…そうそう、まだおじさんじゃない」
さりげなく主張しつつ、ご丁寧に交代交代でよく分からない理由を述べる二人に、サトシは怒鳴った。
「そういうのを密猟者って言うんだ!
オレの友だちに手を出したら絶対許さないからな!!」
ウサギの習性が出たらしく、足で地面をトントンと叩く(怒ったり警戒している時の仕草)。
彼らにとってはサトシのそんな姿も萌え〜なのだが、それはそれ、
萌えながらも彼らは素直に謝り、
サトシのお説教を約5分くらい(堪能し)、
もう二度としない、飼うならペットショップに行きます、
とホントに分かってるんだか、な約束をした後、おとなしく山を去っていった。
「あっ!ていうかオレも山下りるんだった!」
当初の目的を思い出し、サトシはシゲルに会うため、再び山を駆け足で下りていった。
白耳を生やした少年姿のままで。
続く!