ラブ・イズ・オーケー。
「……だから、そういう時は、もっと積極的に――」
「放っておいて下さい。あなただって似たようなものじゃないですか」
と、シュウはシゲルにそう切り返した。
何の因果か偶然か、かなり珍しいというか、
あり得ない組み合わせの二人が、何かを言い合いながら、一緒に歩いていた。
「僕は君ほどじゃないけどね」
シゲルが更にそう言うと、シュウは顔をそらして、ボソリと呟いた。
「よく言うよ……」
耳ざとく聞きつけたシゲルが声をかける。
「何だい?」
「……いえ、別に」
何で聞こえるんだ、と思いながら、シュウはそう答えた。
「ふーん、まあ、いいけどね」
大げさにため息をついた後、ふとシゲルは前方左側の繁みに、何かを見つけた。
その正体は、シゲルにはすぐに判明した。
「あれ、サトシ?」
シゲルの声に、シュウも目をこらすが、ぱっと見では分からなかった。
「……え、どこに……?」
「よく見てくれよ。あそこの繁みの端っこにいるだろ」
シゲルの指差した方向を注意深く見れば、確かに人影が、繁みの端っこでうずくまっているのがわかった。
が、それがサトシだとははっきりとは確認できなかった。
(……何で分かるんだ……)
またシゲルに聞かれると面倒なので、心の中でそう呟いておいた。
二人は、その繁みのところまで近づいた。
近くに来たので、さすがにシュウにもそれがサトシだと確認できた。
サトシはこちらには気が付かずに、一心不乱に繁みに目をやっている。
サトシのすぐ側まで近づいたところで、シゲルはこちらに背を向けているサトシに声をかけた。
「やあ、サトシ」
「……」
声をかけても、何の反応もない。
シゲルは小首を傾げ、もう一度声をかけてみた。
「サトシ?」
「……」
やはり、反応はない。
仕方がないので、サトシの肩を軽く叩いて、もう一度呼びかけた。
「サトシ」
「……!」
いきなり後ろから触られたせいか、びくっと反応した後、サトシがようやく振り返った。
驚いたようにこちらを見ている。
「……何だ、シゲル…とシュウか。ビックリした」
シゲルと、やや後ろにいるシュウだということを確認して、サトシはほっと息をつく。
「まあ、いいや。オレ、今忙しいから」
そう言いながら、サトシは再び繁みの方に目をこらし始めた。
何かを観察しているのだろうか、
シゲルはサトシの隣にしゃがんで、同じ目線で同じ方向に目をやるが、何も見えなかった。
「……サトシ、一体何を――」
「ちょっと黙っててくれ」
「……」
シゲルは少し戸惑った様子で、シュウの方を見る。
シュウはなるべく注意深く、サトシを見る。
よく見れば、たまに頭が左右に動いている。
もしかしたら、何かを探しているのだろうか。
シュウは一つため息をついた後、シゲルに代わって、サトシに尋ねてみた。
「……何か、探しているのか?」
シュウの問いに、今度はサトシも答えてくれた。
あっけらかんと、とてつもないことを。
「マイナスイオン」
「……」
意外すぎる答えに、言葉が出てこなかった。
マイナスイオンか、最近話題になっていたな。
見つかれば、それはそれは癒し効果があるだろう。
見つけられれば。
見つけた後、自分の部屋にでも持ち帰るつもりだろうか。
そうすれば、さぞ部屋がいごこちいいものになるだろう。
すごいな、マイナスイオン、見直した。
ここまで思考を巡らしたところで、その思考があらぬ方向に行っていたことに気が付き、
シュウは慌てて、考えるのをやめた。
しかし、この少年は何て言うか……
いや、この先を続けたら怒り出しそうだ、やめておこう。
その代わりに、自分と同じく呆れているであろう、シゲルに目を向けた。
彼なら、ずばっと言ってくれるかもしれないし。
シゲルが黙ったままなので、とりあえず、声をかけてみる。
「……サトシ君って……」
シュウの声に、シゲルは振り向いて、頷いた。
「ああ…まさか、あんなこと言うなんて……」
やっぱり。
きっと彼なら代わりにずばっと言うだろう。
さあ、言ってやってくれ。
とにかく、ツッコんでくれ。
そんな期待とは裏腹に、シゲルはしみじみと言った。
「可愛いな」
「!?」
どこらへんが!?という言葉が喉まで出かかったが、かろうじて、堪えた。
しばらく固まった後、自分の認識の甘さを理解した。
どこをどう見れば、そんな風に思えるんだ。
いや、恋は盲目という言葉もあることだし、好きな相手だと、そうなるものなのか。
だとしたら、僕も相手がハルカ君だったら……いや、まさか。
でも、ありえないとも言い切れないような……
「……」
また思考が飛んで行きそうだったので、そこでストップした。
サトシとシゲルを順に見れば、
前者はまだ一心不乱にマイナスイオンを探しているし、
後者はそんな想い人に見とれている。
それを確認して、シュウの意志は固まった。
勝手にやっていろ。
どうせ言っても聞こえないだろうから、心の中でそう言ってから、
シュウはその場を一人で去っていった。