今そこにいる存在





 四天王との戦いを終え、レッド、グリーン、ブルー、イエローの四人はようやくマサラタウンに辿り着いた。
「さてと、もう夕方だし、イエロー、今日あんたの家に泊めてくれる?」
「構いませんよ」
ブルーの言葉にイエローは同意した。
「それじゃあね、レッド、グリーン」
「レッドさん、グリーンさん、ではまた」
「ああ、じゃあな!」
イエローとブルーはレッドとグリーンにそう言って別れていった。
 しばらく歩くと、レッドの家とグリーンの家への分かれ道にさしかかった。
「じゃあな、グリーン」
「ああ……」
レッドがグリーンに背を向ける。
 突然グリーンはレッドの腕を掴んだ。
レッドが振り向く。
「どうした?」
「……いや……」
無意識に伸ばした手を離し、グリーンは首を振る。
レッドはしばらく黙ってグリーンを見つめる。
 不意にレッドが微笑んだ。
「家、来るか?」
思わぬ提案にグリーンが驚いてレッドを見た。








 なぜ来てしまったのか、分からなかった。
自分が何を考えているのかよく分からない。
レッドの家に招かれ、ソファに腰を下ろし、グリーンは周りを見渡す。
必要最低限の家具しかなく、一人暮らしということは聞いていたが、
それにしては大きすぎる印象を与える部屋だった。
そして人がいなかったせいか、埃っぽかった。
「……何か飲む?」
窓やドアを開け放しながら、レッドはグリーンに声を掛ける。
「ああ」
グリーンが頷いた。
レッドは戸棚から紅茶を取り出した。
「悪いな、埃っぽくて」
紅茶をつぎながら、レッドはまた声を掛ける。
開けた窓から風が吹き込んでくる。
その風に吹かれて、リビングの片隅で紙がめくれる音がした。
「砂糖はどこだったっけ……」
レッドの声と戸棚を開け閉めする音が聞こえる。
それと風の音以外は聞こえない、静かな夕暮れだった。
周りもだいぶ薄暗くなってきた。グリーンは窓の方へ目を向けた。
 ガチャーン。
何かが割れる音が黄昏の静けさを破った。
グリーンがレッドの方に振り向く。
ティーカップが割れ、中の紅茶が辺りにこぼれていた。
レッドはしゃがみ込んで、欠片を拾い集めていた。
「わり、落とした。隣に掃除機あるから持ってきてくれ。行きゃ、すぐわかる」
 グリーンが掃除機を持って戻ってくると、レッドの周りは先ほどのままであった。
「おい、ちっとも片付いてないぞ」
「……」
レッドの返事がない。
怪訝に思い、掃除機をその場に置いて、グリーンは側に近づいた。
「……どうした?」
レッドが急いで顔を上げた。薄暗いせいか、顔色が悪く見えた。
「何でもない、ちょっと欠片で指切っただけだ」
「……どこだ」
「左の中指。でも大した傷じゃない」
「見せてみろ」
「平気だって」
「いいから」
グリーンもしゃがみ込み、少し乱暴にレッドの左手首をつかんだ。
「って!」
レッドが声を上げた。
グリーンは思わず手を離す。
レッドがグリーンから一瞬顔を逸らしたが、すぐにまた顔を向け、
非難めいた目でグリーンに文句を言った。
「……あんまし、力こめんなよ。オレ、か弱いんだぜ」
「そんなに力は込めてない」
グリーンが反論する。
「じゃ、お前が馬鹿力なんだよ」
そう言い捨て、中指を一舐めした後、レッドはまた欠片を拾い始めた。
グリーンは何か言い返そうと思ったが、不毛な言い争いが続きそうだったのでやめた。
 後片付けも終わり、レッドがまた紅茶を入れる。
グリーンはその間掃除機を片づけた。
グリーンが戻ってくると、レッドは先にソファに座り紅茶を飲んでいた。
そして、グリーンにも紅茶を渡す。
「たぶん悪くはなってないぜ。たぶんだけど」
「……」
レッドの隣に座り、グリーンはまじまじと紅茶を見つめた。
死にはしないだろうと思って、口を付けた。




 こいつに妙な違和感を感じるのはなぜだろうか。
紅茶を飲みながらグリーンはレッドを見つめる。
見られるレッドは居心地悪そうだ。
「……あんまし睨むなよ。お前目つき悪いんだから」
「……部屋が、暗い」
レッドがいつもより頼りないように見えるのは、部屋が薄暗いせいかもしれない、
そう思ってレッドの台詞を無視し、グリーンは呟いた。
その呟きにレッドは天井を見上げた。
「ああ、そういや。ちょっと待て、電気点けるから……」
レッドが立ち上がり、グリーンに背を向け、電気のスイッチのある場所まで向かう。
グリーンはそれを目で追っていた。
「……」
 無意識だった。
グリーンは不意に立ち上がり、レッドの肩を掴み、自分の方を向かせた。
「グリ――?」
そのまま口付けて、レッドの言葉を塞いだ。
「――!」
レッドは目を見開いた。しかし抵抗はしなかった。
 キスは先ほど飲んだ紅茶の味がした。砂糖の甘みも少し感じた。
グリーンは腰に手を回し、レッドを強く抱きしめた。
更に深く口付けた。
軽く開いている口から自分の舌を入れ、レッドの舌と絡める。
「……んっ……」
少し苦しげに声を漏らし、レッドがグリーンに体重を預けてくる。
一度唇を離し、グリーンはレッドをソファにもたらせた。レッドは大きく息を吐いた。
 いまや意識を取り戻した理性は、頭の片隅でストップサインを出していた。
だが行為は止まらなかった。他にわき上がる感情に、グリーンは少し戸惑った。
 もう一度深く口付けた後、グリーンはレッドの上着に手を掛けた。
半分まで脱がせ、下に着ているTシャツは首の辺りまでまくり上げた。
レッドの素肌があらわになる。
 レッドが小さく震えた。
そういえば、窓を開け放したままだった。
決して強くはないが、風が吹き込んでくる上に素肌を晒されれば、多少の寒さも感じるだろう。
「……」
窓を閉めに行こうかとも思ったが、止めて、代わりにレッドを抱きしめた。
微かな震えが伝わってきた。
寒いからか、それとも自分が今やっているこの行為に怯えているからか、
グリーンには判断がつかなかった。
だが、怯えているならば、なぜレッドが何の抵抗も見せないのかも分からなかった。
 また口づける。
レッドの目は先ほどから強く閉じられたままだった。
決して目を開いてグリーンの方を見ようとはしないようにも見える。
軽く開いたままの口から、また舌を入れる。
それがレッドの舌に触れると、一瞬逃げるように奥へと引っ込みかかる。
それを追いかけ、口づけを深くして、自分の舌を絡めさせた。
 唇を離し、今度は舌を首筋に這わせた。
「……っ……」
ピクリと反応する。
舌で首から鎖骨までなぞった。
レッドが少し苦しげに、息を吐いた。
「……」
おかしい。
その疑惑が拭いきれなくて、湧き上がる欲望を無理矢理押し込めた。
「……なぜ、抵抗しない?」
「……」
レッドがようやく目を開いた。その瞳は虚ろだった。
「……どうして、抵抗しなきゃいけないんだ?」
呟いたその言葉は、いつもの彼とは別人のようで、
何の感情も無いように、いや、抑え込んでいるように聞こえた。
その理由はグリーンにはわからない。
「……意味がわかって、言っているんだろうな」
「……」
レッドが小さく唇を噛みしめた。
だが、瞳と同じく、虚ろな声で言った。
「……ああ。やるなら早くやれよ」
投げやりなその言葉に、グリーンは眉をひそめた。
なんだか無性に腹が立った。
 レッドを乱暴に床に押し倒した。
痛みに顔を歪めるレッドにグリーンは言い捨てた。
「もう、やめないからな」








こんな風に抱きたかったわけじゃない。
いや、抱いてすらいない。
ただ犯しているだけだ。
言った手前、意地で抵抗しないこいつを押さえつけて、
わざと乱暴に、一気に貫いた。
欲望と、苛立ちにまかせて。
快楽も充足も、意味も全くない。
苦痛と
赤と
白だけが
残った。
























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