エレキトリック





 珍しく、早いうちにポケモンセンターに辿り着いた。
夕食には早かったし、かといって何かすることも思いつかない、半端な時間ができた。
「……」
窓から外ををぼんやりと眺めていたが、サトシは座っていたベッドから立ち上がり、マサトのところに行った。
「マサト、ポケナビ貸してくれ」
「いいけど、何するの?」
マサトが懐からポケナビを出しながら、尋ねた。
サトシが答える。
「これって、メールができるんだろ?やってみようと思って」
ポケナビにはメール機能が搭載されており、しかも、一つのポケナビで複数のメールアドレスを持つことが可能である。
パスワードを決めておけば、他人に見られることもない。
「サトシにできるの?」
「できるよ!」
小馬鹿にするマサトの発言に、そう言い返し、サトシはポケナビを受け取ると、再びベッドに戻り、今度は寝転がった。
 メールアドレスは以前から持っていたが、ポケナビで使うのは初めてだった。
送る相手は決まっている。
サトシはリュックから、以前聞いたアドレスを書いておいた紙を取り出した。
紙に記されたアドレスを打ち込む。
「……」
本文には、何て送ろうか。
別に用事があるわけではなかったので、なかなか良い文が思い浮かばない。
しばらく唸った後、ゆっくりと文を打ち、送信ボタンを押した。








 メールの着信音に、本を読む手を止めた。
研究用のアドレスに着たのではないので、誰からだろう、とシゲルは首を傾げた。
ポケナビのメール機能を呼び出す。相手の名前を確認して、思わず笑みがこぼれた。
サトシからだ。
彼が旅に出てから、初めてのメールだった。
本文は一言だけだった。
『シゲルに会いたいな』
シゲルは苦笑して、返信ボタンを押した。


 返事が着た。
サトシはドキドキしながら、メールを開いた。
返事も一言だった。
『僕もだよ』
サトシは嬉しくなった。
また、返信した。


『今すぐがいい!』
サトシが今どこにいるかは知らないが、ここからはかなり離れているはずだ。
相変わらず、無茶なことを言う、とシゲルは思った。
また、返信する。


『無茶苦茶だ。大体、今どこにいるんだ?』
『ポケモンセンター!』
『どこの?』


「……!」
現在のサトシの居場所を記した返信に、シゲルは驚いた。
あまり近くはないが、決して遠くでもない。
こんなに近くにいるなんて……
普段は抑えている思いが、大きくなる。
いや、その思いは、ついさっき、もう彼に告げた。
「……」
サトシにもう一度返信した後、シゲルは立ち上がった。








 サトシはハルカたちに断って、部屋を出た。
一体シゲルは何をする気なんだろう。
『待っていろよ』
一言そう返ってきた、シゲルのメールから、サトシは考える。
その予想が、ただの願望や期待なのか、自分で判断がつかなかった。
だって、まさか……
 今日のポケモンセンターの利用客は、サトシたちだけだった。
ジョーイも、奥の部屋にいるらしく、センターのフロントは全く人気がない。
フロントにあるソファに座り、サトシはじっと外を見つめた。
信じられない。
でも、こうしてわざわざ部屋から出てきて、彼を待ってしまうのは、きっとシゲルからのメールのせいだ。
そして、最初にシゲルに送った、自分のメールのせいだ。
何を書けばいいのか分からなかったから、ふと思った自分の気持ちを、ただ送った。
送ってしまったから、その言葉を打ってしまったから、
ふと思っただけの気持ちが、頭から離れてくれない。
「……」
やっぱり、ただの願望か。
なかなか会えないからって、都合の良すぎる期待をしてしまうなんて……
サトシはため息をついた。




 どれくらい時間が経ったのか、サトシには分からなかった。
物思いにふけっていたから、すごく長かった気も、あっという間だった気もする。
センターのドアを開ける音がして、サトシは、ばっと顔を上げ、ドアの方を見た。
 人影が立っていた。
間違えるはずがない。よく知っていた。一番知っている。
思いにふければふける程、会いたくて会いたくてたまらなくなっていった。
あいつだ。
「シゲル!!」
ソファから立ち上がり、サトシはシゲルの方へと突進した。
「サト――」
名前を呼ばれて、シゲルはサトシの方を向いたが、彼の名を呼ぶ間もなかった。
シゲルに向かって全力疾走のまま、サトシはシゲルに抱きついた。
その勢いに押されて、シゲルはサトシもろとも、センターの床に倒れ込んだ。
その拍子に、後頭部を強かにぶつけたが、シゲルはサトシをしっかりと抱き留めた。
「シゲルだ!本当にシゲルだ!!」
サトシは満面の笑みを浮かべながら、シゲルシゲルと大騒ぎしている。
その笑顔につられて、シゲルも顔が綻んだ。
「……相変わらず元気だね、君は」
サトシを抱えたまま、シゲルは半身だけ起こす。
ぶつけた頭が少々痛みを訴えてくるが、
サトシの笑顔のせいか、それともサトシに会えたせいか、あまり気にならなかった。
「すごい、すごい、シゲル!
どうやって来たんだ!?」
興奮して、サトシは自分を抱きしめるシゲルの腕を掴み、尋ねた。
「君が会いたいって言うから、飛んできた」
「飛んでって……」
「飛行ポケモンでだよ」
くすりと笑いながらシゲルが答える。
からかい混じりのそんな口調も、懐かしくてたまらない。
いつもは腹がたつのに、今日は嬉しかった。
 シゲルは、自分の腕を掴むサトシの手をそっと開かせ、もう一度しっかりとサトシを腕の中に包み込んだ。
「僕も、会いたかった」
伝わってくる彼の温もり、
自分に向けてくれるその笑顔、
サトシという存在すべてが、自分の心を満たしてくれる。
こうして会って、抱きしめるだけで、
そしてサトシもまた抱き返してくれるいうことだけで、幸せだと感じた。








 一緒にいられる時間は少なかった。
誰にも言わずにいきなり出てきてしまったので、そろそろ帰らなければならなかった。
サトシは、少し寂しそうに笑って、頷いた。
「今日は、シゲルに会えて嬉しかったぜ」
「僕もだ」
 互いに微笑んで、握手した。
握った手を、名残惜しげに離しながら、シゲルは言った。
「また、メールしてくれ」
「うん、でもお前忙しいだろ?」
邪魔しちゃわないか?と聞いてくるサトシに、シゲルはゆっくりと首を振った。
「メールでも、サトシと話せるんだから、嬉しいよ」
もちろん、直接会って話す方がいいけどね、とシゲルは付け加えた。
シゲルの言葉に、サトシが微笑んだ。
サトシとてそれは同じだ。
もちろん今回はたまたまで、こんなこと、めったに起こることではないのは、自分にも十分理解できる。
それでも、文字だけでもシゲルと話ができるのなら、ずっといいと思った。
「絶対、またメールする。だから、シゲルもメールくれよ!」
シゲルが頷いた。
最後にもう一度だけ、サトシを抱きしめ、彼の温もりをしっかりと記憶した。
「それじゃあな、サトシ」
「またな、シゲル」
さよならではなく、またな、という言葉に嬉しさを覚えつつ、
シゲルはポケモンの背に乗って、空高く飛んでいった。
彼の姿が見えなくなっても、サトシはずっと見送っていた。








 サトシはシゲルが去っていった方向に背を向けた。
「お腹減ったな〜」
きっとみんな待ちくたびれているだろう。
戻ったら、まず、ハルカの小言を聞かなきゃいけないな、とサトシは覚悟した。
それからゴハンを食べて、寝る用意をすませたら、早速またあいつにメールを送ろう、
そう考えながら、サトシはポケモンセンターの中へと戻っていった。















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最初は会わせようなんて、思ってなかったんですが、何で会ってるの、この二人……(苦笑)
あまりにもアニメ本編でシゲルとサトシが会ってくれないので、せめて自分の話では会わせよう……と、思ったようです。
ポケナビにはメール機能がついている、ということにしておいて下さい……何て便利なんだ、ポケナビ!(笑)
実際はそんな便利な機能ついていない、はず。
でも、彼らって、どうやってメールとかしてるんだろ……
ポケモンセンターのパソコンとかでしてるんでしょうかねぇ……