曖昧な三角





 ハルカは最近機嫌が悪かった。
その理由は自分でもよくわからない。
でも気になることならある。
「サトシって、最近シュウと仲良いわよね?」
自分のいない間に、何度か会っていて、
しかもいつの間にかサトシはシュウのメルアドまでゲットしていて。
それに、最近特に頻繁にメールしている。
二人のことが気になって仕方がないので、本人に直接聞いてみると、
サトシは頷いた。
「ああ、シュウは同じ仲間だからな!」
元気よく答えてくれるが、意味が全然分からない。
「それって、どういう意味?」
「だから、シュウは……」
そう言いかけて、慌てて両手で口を塞いだ。
「いや、何でもない」
口を押さえたまま、くぐもった声でサトシはそう言うが、どう考えたって、怪しいことこの上ない。
「何でもないって、どのあたりが何でもないのよ!」
「とにかく、何でもないんだって!」
声が大きくなったハルカにつられて、大声でそう言い返す。
「オ、オレ、修行しないと」
「ちょ、ちょっと、サトシってば!」
更に、食い下がるハルカに構わず、逃げるように、その場を立ち去ってしまった。
「もう、何なのよー、気になるかも〜」
似たようなやりとりを何回か続けた結果、
ただでさえ不機嫌気味なハルカの機嫌は、すっかり損ねられてしまった。




「ハルカ〜、機嫌直せって」
サトシは何度もそう言うが、ハルカはサトシの方すら向いてくれない。
「サトシが隠し事してるからでしょ!」
「オレだってしたくないけど、だって仕方がないじゃんか〜」
「仕方が無くない!
きちんと教えてくれれば解決する問題じゃない」
「そうは言っても……」
「サトシ〜、メールだよ〜」
水を差すというより、火に油を注ぐタイミングで、
ポケナビを持って、こちらに走ってくるマサトから声がかかる。
「どうせシュウでしょ!
二人で仲良くメールでもしてればいいのよ!」
そう言い捨て、ハルカは走り去ってしまった。
「あ、お姉ちゃん!」
「ハルカ、ちょっと待てって」
「サトシのバカ〜」
遠くから風に乗ってそんな声が聞こえてきた。
 ため息をついた後、サトシは届いたメールに目を通す。
マサトが尋ねる。
「誰から?」
「……シュウ」
ハルカの言った通りだった。
何ともバッドタイミング。
「だってしょうがないじゃんか〜」
一人でそうぼやく。
「……ねえ、サトシ」
「何?」
「……何の隠し事してるの?」
メールは読み終えたので、ポケナビの画面から、マサトに目を向ける。
「……いや、隠し事っていうか、シュウから言うなって言われてるだけ」
それは隠し事以外の何ものでもないんじゃないのかな、
とマサトは思うが、そうは言わずに、尋ねてみる。
「何を?」
「うん?ハルカにな……って、言わせるなよ!」
さりげなく聞かれると、どうにも口を滑らしそうになる。
オレ、いつまで保つかな、とサトシは不安になった。
「……サトシって、隠し事できないタイプだよね」
マサトの言葉にトドメを刺された気がして、サトシはうなだれた。
 マサトは気にせず、更に聞き出そうとする。
「でもさ、シュウにはお姉ちゃんに言うなって言われてるんでしょ?」
「うん、まあな」
「じゃあ、ぼくには言ってもいいんじゃない?」
「……そうかなぁ……」
「そうだよ、それに知っていた方が、いざという時はサトシのフォローをしてあげられるし」
「……なるほど」
ちょうど、一人で隠し続けるのもしんどくなってきた頃だし、
今の台詞はなかなかに説得力がある気がする。
「……いや、でもやっぱダメだ。
男と男の約束なんだ!」
だが、半分出かかった言葉を引っ込めて、サトシはブルブルと首を振った。
「……ちぇー」
マサトの聞き出し作戦は失敗に終わった。
「もう聞くなよ、マサト。
頼むから」
サトシは心からそうお願いした。








「おや、どうしたんだ、ハルカ?」
水汲みから戻ってくるところで、ハルカとすれ違い、タケシは声をかける。
ハルカは立ち止まって大声で言った。
「サトシが悪いの!」
「まあ、落ち着け。
ミルクティーでも飲むか?
ちょうど今からティータイムにしようと思っていたんだ」
「……」
「気分を少し変えれば、良い考えも浮かんでくるものだぞ」
タケシののんびりとした声とお茶のお誘いに、少し頭が冷えてきた。
「……わかった」
しぶしぶ頷いた。




 不透明で、底の見えないミルクティー。
はっきりとしなくて、気になって仕方がない。
底にはまだ、砂糖が残っているかもしれないし、紅茶の葉が沈んでいるかもしれない。
想像ばかり先走って、結局独り相撲じゃない。
まるで、今みたい。
タケシの入れてくれたミルクティーを飲みながら、ハルカはそんなことを考えていた。
どうしてサトシは隠し事をするんだろう、
シュウと一緒に、何を隠しているんだろう。
大体、二人はいつの間にメールをし合うほど、仲良くなっていたんだろう。
「……」
どうしてよりにもよって、シュウとサトシなんだろう。
性格だって、全然違うじゃない。
まあ、それはシュウとわたしにも言えることだけど。
でも、トレーナーのサトシより、同じコーディネーターのわたしの方が、ずっと、
何て言うのかな、近いじゃない。
それなのに、なんでシュウは……
ハルカはため息をついた。
「どうした、ハルカ?おかわりか?」
片付けをしながら、タケシは相変わらずのんきにそんなことを聞いてくる。
「……まだ残ってるかも」
力無くそう答えると、そうか、と言って、お茶菓子を出してくれた。
前の街で作っておいたらしい。
みんなには、内緒だからな、と付け加える。
とうにミルクティーを飲み終わったサトシとマサトは、
ポケモンたちと、この先で見つけた森の広場まで遊びに行っていた。
 即席のテーブルに前屈みに体を預けて、ハルカはもう一度ため息をついた。
大好きなお茶菓子、それもタケシが気を遣ってくれたものなのに、
それも今は心を晴らしてくれない。
「……何で、わたしに話してくれないのかな……」
ぽつりと小さく呟いたのだが、タケシにはしっかりと聞こえていたようだった。
タケシは少しの間黙った後、穏やかな声で言った。
「サトシが隠し事をしているから、怒っているのか?」
「……」
そう、自分に話してくれないから、こんなにイライラしてる。
「……でも、サトシにも人には言えないことだってあると思うけどな」
「……わかってるわよ。でも、シュウのことだし……」
「シュウが気になるのか?」
「……え?」
タケシは何を言っているんだろう。
ハルカは答える。
「……当たり前じゃない、だってシュウは……」
「ライバル?」
続きをタケシに言われ、ハルカは頷いた。
頷きながらも、その言葉に違和感を覚え、首を傾げてしまった。
「……」
「それだけなのか?」
タケシは変わらず、穏やかな様子で尋ねてくる。
だが、尋ねてくる言葉は、ハルカの心に答えの分からない疑問を浮かばせる。
「……何か、変かも……」
心の中に、何か、もやもやしたものがある。
この正体は……








「ハルカ!」
風に乗って、タケシの声が聞こえてきた。
サトシは木の間から眺める。
辛うじてだが、ハルカが遠くの方に走っていくのが確認できた。
「ハルカ?」
サトシはタケシのところまで行こうと走り出した。
「どうしたの、サトシ?」
マサトが慌てて追いかけ、ピカチュウたちがそれに続いた。
 距離はそれほど離れていなかったので、タケシのところまでは時間はかからなかった。
「タケシ!」
タケシのところまで行き、呼びかけると、タケシは困った顔をしながら振り向き、呟いた。
「ハルカといい、サトシといい、青春してるなぁ」
「オレがどうかしたのか?」
タケシの感想は、当人には理解されなかった。
 それよりも、とサトシはタケシに尋ねた。
「ハルカ、どうしたんだ?」
「……頭がこんがらがったみたいだ」
いきなり、駆け出してしまった、とタケシは付け加えた。
「どっちに行った?」
「あっちの方に行ったが……」
タケシが指差すと同時に、サトシは走り出した。
「オレ、捜しに行ってくる!」
「おい、サト……」
全速力で走って行くので、タケシは返事を言い損なった。























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シュウが出てこなかった;

タケシは何でもお見通し。
何だか長くなってしまったけど、
続いちゃいます。