言葉に隠して
繁みの方からガサガサと物音が聞こえてきた。
サトシはそちらに目を向け、体を乗り出す。
繁みの間から、水色とピンクが見えた。
「……ポケモン?」
立ち上がって歩いていくのは、まだ少しきつかったので、
サトシは両手と両膝を使って、そろそろと繁みに近づき、覗き込んだ。
「……ニドランだ」
驚かさないように、サトシは小声で呟いた。
それぞれ水色とピンクの毛並みのニドランたちは、互いに毛繕いをしていた。
「……」
仲良しだなぁ、と思いつつ、ニドランたちを眺めていると、
いきなり背中に、ふわりと何かが触れてきた。
感触が柔らかかったので、大声は出さずにすんだ。
「……?」
背中に目を向けて、サトシは背中の上の物体が、自分の上着だと確認した。
そのまま背後に目をやれば、シゲルがゆっくりとこちらに近づいてきていた。
「……せめて服を着てから動き回ってくれ」
サトシの残りの服を放り投げ、シゲルが呆れた様子でそう言ってくるので、
サトシは素直に受け止めた服を着る。
それから、目の前の繁みを指差しながら、シゲルに声をかけた。
「シゲル、ニドランがいるんだ」
「……」
シゲルはしゃがみ込むと、サトシと同じく四つん這いで、ゆっくりと彼の隣まで来た。
ニドランを驚かさないための配慮だ。
「……ニドランの一匹や二匹、いたとしても不思議はないと思うけど?」
呟きながら、サトシの指差す繁みを覗き込んだ。
確かに二匹のニドランがいる。
「仲良さそうだな」
ポケモンがいたことが嬉しかったのか、サトシは機嫌良く、そう呟いた。
確かに仲は良い。
だが、この光景と周りに醸し出される雰囲気を見る限り、
二匹は単なる仲の良い友だち以上の関係だろう。
シゲルはサトシに教えてやった。
「……あの二匹は、恋人同士だよ」
「え、そうなのか?」
サトシは驚いて視線をシゲルからニドランたちに移した。
「……あいかわらず、鈍いねぇ……」
ため息と共にシゲルは呟いた。
だから、自分の気持ちも全く気が付いてくれない。
身体を重ねる本当の意味も、分かっていない。
だが、その意味を教えなかったのは、自分に他ならない。
彼の鈍さを知っているのに、
彼に何も伝えずに、行為を押しつけて、
文句を言うのは勝手すぎるというものだ。
サトシに呆れながら、自分にも呆れた。
その時だった。
仲睦まじく毛繕いをしていたニドランたちは、
そうするのが自然であるように、ゆっくりとお互いの口をくっつけ合った。
「……!」
「……?」
シゲルは軽く目を瞠り、サトシはきょとんとした。
すぐにサトシはシゲルに尋ねた。
「なあ、あれって何してるんだ?」
少しの沈黙の後、シゲルは短く言った。
「……キスしてるんだよ」
ポケモンでもキスをするのか。
シゲルは少し感心してしまった。
後で、オーキド博士に報告しよう。
そんなことを思っていると、先程の答えに、サトシは更に尋ねてきた。
「何でその、キスってのをするんだ?」
「……」
シゲルはニドランたちからサトシに目を向けた。
身体は重ねていても、唇はまだ重ねていない。
だから彼は、その意味を知らない。
何も知らないから、素直にサトシは聞いてくる。
その素直さが、少しでも自分にあれば……
その先は、考えたくなかった。
そうはなれないことをシゲル自身、分かっている。
自分が素直になれないことも分かっていた。
でも、本当は伝えたいという自分はいる。
だから、たとえ伝わらなくても、この想いを彼への説明に隠しておこう。
今はそれで精一杯だ。
「……好きだから」
サトシのことが。
心の中でそう続けた。
「……大切に思うからだよ」
「へぇ、何かいいな」
シゲルの言葉に、サトシは優しく微笑んだ。