縁に座り直し、サトシが尋ねた。
「……何でわかったんだ?」
少し落ち着いたらしいが、まだ顔は赤い。
シュウはぼんやりと人混みを見ながら答える。
「…わからない方がおかしい」
「……」
黙りこんだ後、サトシは大きなため息をついた。
「……まさかバレるとは思わなかった……」
「あからさまに反応を見せるからじゃないのか?」
「……どういう意味だ?」
「……冗談半分に言ったつもりだったんだけど?」
「……」
つまりは指摘された後の自分の反応で墓穴を掘ったのだということに気が付いて、サトシは頭を抱えて唸った。
少し気になったので、シュウは尋ねてみた。
「……片思いかい?」
「……いや、一応付き合ってる……かな」
「それはそれは羨ましいことで……」
ちょっとからかう気持ちも含めて言うと、サトシはぶんぶんと首を横に振る。
「やめてくれ〜」
ずいぶんと素直というか、単純な性格だ、とシュウは思った。
しばらくして、俯いたまま、サトシが小さな声で言った。
「ハルカたちには言わないでくれ」
「……なぜ?」
唐突なサトシの発言と、ハルカという言葉に、シュウは人混みからサトシに視線を戻した。
サトシは頬を相変わらず赤く染めて、先ほどよりももっと小さな声で呟いた。
「……だって、はずかしいじゃないか……」
「……」
もともと秘密の付き合いだからか、両者の関係を他者から言われることがか、
はずかしがる理由は色々と推測できたが、改めて誰かに言う気はなかった。
結局、他人の恋の話もその行方も興味はないのだ。
シュウは一口ほど残ったジュースを飲みほすと、腰を上げた。
「わざわざ言いふらす趣味は無いよ」
シュウの言葉に、サトシは勢いよく顔を上げ、シュウを見つめる。
そして大きく息を吐いた。ようやく安堵できたようだ。
気の抜けた様子で、しばらくシュウを見ていたサトシが、不意に笑顔になった。
「ありがとな、シュウ。お前って、いい奴だな!」
「……それは、どうも……」
サトシの底抜けに明るい笑顔を見ながら、
シュウは、騒いだり、慌てたり、照れたり、笑ったり、
色々と忙しい奴だと思った。
だが、
「……」
彼の笑顔を見ていて、不意に彼女がよぎった。
ほとんど無意識に呟いた。
「……君も、似ているよ……」
シュウの呟きに、サトシの笑顔が不思議そうな表情へと変わる。
「……誰に?」
問われるままに、答えた。
「…ハルカ……くんに…」
「ハルカに?」
聞き返すサトシの声に、ようやくシュウは我に返った。
「……似てるかなぁ……?」
自分とハルカの類似点が思いつかず、サトシは腕を組んで考え込む。
おかげで自分の動揺と、心臓の鼓動が大きくなっていたことを気付かれずにすんだ。
シュウは急いでこの動揺を押し隠す。
無意識に声に出して言ってしまったが、言ったことはシュウにとっては本当のことだった。
明るくて、感情が豊かで、
少しドジなところがあるから、余計に放っておけなくて気になってしまう。
会う度に憎まれ口を叩いてしまうが、本当は、
あの素敵な笑顔がいつか自分に向けられてほしい、
と初めて思った相手だった。
いまだ考え込むサトシのズボンの裾をピカチュウが引っ張った。
「ピカピ、ピカ」
「ん? どした、ピカチュウ?」
「ピカ!」
ピカチュウは、短い前足を大きく伸ばし、ある方向を指さした。
そちらの方向から、ハルカ、タケシ、マサトが荷物を持って歩いてくるのが見えた。
「みんな、お帰り〜!」
サトシが大きく手を振る。
それに気付いて、手を振り返したところで、ハルカはサトシの隣にシュウがいることに気が付き、
荷物をタケシに押しつけ、走って来た。
ハルカは少し嬉しそうに挨拶をする。
「シュウ! 久しぶりね、なんでこんな所にいるの?」
「……いたら悪いかい?」
「そんなこと言ってないでしょ!」
シュウの言葉にハルカは口をとがらせた。
「さっき偶然会ったから、ちょっと話してたんだ」
サトシが代わりに説明する。
そのころ、タケシとマサトがゆっくりとやって来た。
「……それじゃ、僕はもう行くよ」
「ええ、もう!?」
サトシとハルカの異口同音を無視して、シュウは二人に背を向けて、さっさと立ち去ってしまった。
「ちぇっ、もっと話したかったのに……」
サトシが不満をこぼしていると、ハルカがサトシに尋ねてきた。
「ねえ、サトシ。シュウと何話してたの?」
「……う〜ん、まあ、色々と……」
付き合いがバレることを警戒してか、さすがに内容は話さず、サトシは言葉を濁した。
ハルカはぷうっと頬を膨らませた。
「……ちょっとずるいかも!」
その台詞が何を意味するか、何を含んでいるのか、
今の二人にはまだ理解できていない。