似てる?
街の中心にある広場の、中央の噴水の縁に座って、ぼんやりと周りの景色や通り過ぎる人々を眺めていると、
おそらく知っている人物が目に止まった。
「あれは……」
背筋を伸ばし、今度はしっかりと目を開いて見ると、
間違いない、彼だった。
「おーい!」
サトシは大声で、右腕を高く上げて、手を振りながら、彼の方に駆けていった。
先ほどまでサトシの隣に座っていたピカチュウが、急いでその後を追い始める。
サトシの声に彼は顔を向ける。鮮やかな緑色の髪がその動きに合わせて微かに揺れ、同じ色の瞳がサトシを捉えた。
「君は確か……」
彼は少し記憶を探り、サトシがハルカと一緒にいたことを思い出した。
「よ、久しぶりだな、シュウ」
にっこりと微笑んで、サトシはシュウに挨拶をする。
それにシュウは素っ気なく答えた。
「……何か用かい?」
「別に用はないけど、お前がいるの見つけたからさ」
ピカチュウがサトシに追いついて、その肩に登った。
シュウはサトシが来た方向をちらと見て、尋ねる。
「君ひとりかい?」
「まあ、今はな。ハルカたちは買い物行ってるんだ。オレは留守番」
「……」
シュウは興味を無くしたように、視線をサトシからそらす。
するとサトシがまた口を開いた。
「シュウ、あのさ、ちょっと話さないか?」
眉を寄せ、シュウは再びサトシに目を向けた。
「……なぜ?」
「なぜって……久しぶりだし……
それにちょっと、確かめたいことが……」
「確かめたいこと?」
サトシの台詞を聞き返す。
自分とサトシの関係は、共に旅をしている仲間のライバルというだけだ。
そんな自分に、一体彼は何を確かめるというのか。
シュウは不審そうにサトシを見る。
「ジュースおごるから!」
「……」
別にジュースにつられた訳ではないし、はっきり言って怪しいが、少し興味は引かれた。
特に急いでいる訳でもないので、しばしの沈黙の後、シュウは了承した。
先ほどサトシが居た、広場の中央の噴水まで案内され、その縁に腰掛ける。
サトシは一走りして、さっき宣言した通り、オレンジジュースを二つとミネラルウォーターを一つ買って来ると、
オレンジジュースの一つをシュウに渡し、シュウの隣に腰掛けた。サトシの隣にピカチュウが座る。
サトシはピカチュウにミネラルウォーターを、フタを開けてから渡してやった。
サトシはジュースのフタを開け、勢いよく中身を飲み込んだ。ジュースの中身は一気に半分程まで、その体積を減らした。
シュウはその様子を見ていたが、手元のジュースの方に視線を移し、フタを開けると少し口に含み飲み込んだ。
柑橘系独特の風味が口に広がる。
「そういやさ……」
サトシが色々と質問してきた。
あれこれと自分のことを聞かれるのはあまり好まないので、当たり障りのない内容だけ答えた。
そんなシュウの態度を、サトシは特に気にしていないらしく、
「答えたくない」とか「関係ない」などと言っても、ただ納得してまた別の質問をしてくる。
ゆっくりと飲んでいたシュウのジュースの中身が半分程まで減った。
サトシのジュースは、とうに無くなって、ピカチュウの隣に空き缶が置いてある。
ピカチュウは十分水分を摂って満足したのか、丸くなって舟をこぎ始めていた。
ジュースの空き缶の隣に、ミネラルウォーターが中身を三分の一ほど残して並べてあった。
サトシは相変わらず色々とシュウに話しかけてくる。
それに適当に答えていたが、先ほどサトシが言っていた「確かめたいこと」は一向に出てくる気配がないので、
ジュースの中身がおよそ四分の一になった時、シュウから切り出した。
「……ずっと君のおしゃべりに付き合っている気はないんだ。
いつまでもそれが続くようだったら、僕はもう行かせてもらうよ」
少し悪意を込めてそう言った。
それに一瞬サトシは沈黙したが、
次の瞬間嬉しそうに微笑んで言った。
「……やっぱり」
「……はぁ?」
思わず間の抜けた声を出してしまった。
呆気にとられたシュウにサトシは笑顔のまま言った。
「シュウって、似てる!」
「……」
「カッコとかは全然似てないのに、話し方とかがすっげー似てる!」
いきなり変なことを言い始め、しかもすごく嬉しそうで、サトシの真意がシュウには全く掴めなかった。
サトシは一人勝手に「似てる〜」とか「懐かし〜」とか、なぜか「むかつく〜」とか騒いでいて、シュウのことはお構いなしだ。
このままそっと席を立てば、きっと気付かれずに立ち去れるだろうと思い、実行しようかと一瞬思ったが、
それは止めて、サトシに言った。
「……君が何を言っているのか、何が言いたいか、僕には理解できないんだけど……?」
シュウの台詞に、ようやく我に返り、サトシはごまかすように笑いながら言った。
「わり〜、わり〜
実はな、前からお前の話し方とかが気になってて……」
サトシの話によると、以前から、シュウの話し方や性格が、サトシの幼なじみと似ているようで気になっており、
先ほどの会話でそれを確信した、ということだった。
自分勝手な奴だ、とシュウは呆れたが、サトシは気にしていない様子。
「な、マイスイートとか言ってみてくれないか?」
はてはこんなことまで言い出す始末だ。
「いやだ」
即答して、シュウは深いため息をついた。
断られたサトシは、今度は、聞かれてもいないのに、その幼なじみのことまで語り出した。
しかも誉めているのかけなしているのか、よく判らない内容だ。
つまりは、この少年の用件はこれだったのか。
彼の幼なじみなど、シュウにとっては心底どうでもいい話で、興味もない。
こんなつまらないことに時間を費やしたのが少々悔しかったので、腹いせに少しからかっても罰は当たるまい、と思った。
まだわずかに残っているジュースを横に置いて、言った。
「よほど好きなんだねぇ、その幼なじみが」
「――!!」
瞬間、サトシの頬が真っ赤に染まった。
サトシの変化の大きさに、シュウ本人も目を丸くする。
サトシが話す、誉め半分けなし半分の幼なじみについての内容が、
それでも好意の方が大きい様に感じられたので、冗談半分で言ってみたのだが、ここまで反応が大きいとは思わなかった。
サトシは慌てた様子でいきなり立ち上がり、言葉になっていない音を発し、
なぜかバランスを崩して、背後の噴水に向かって倒れかける。
とっさにシュウがサトシの腕を掴んで引っ張らなかったら、おそらくそのまま水の中に落ちていただろう。
「サ、サンキュ……」
頬を染めたまま、礼を述べ、半分抱きかかえられている状態から離れようと、一歩後ずさったら、
先ほどの騒動で転がった空き缶に足を引っかけ、しりもちをついた。
それらの騒動で目を覚ましたピカチュウが、そんなサトシの側に急いで駆け寄るのを見下ろしながら、
シュウはまた一つ深いため息をついた。