己に跨ったまま、微かに喘いで自らの手淫で達する独眼竜の姿は、思った以上に当てられる。
それを知ってか知らずか、政宗は官兵衛に凭れかかり、暫し動きを止めて呼吸を整えているが、
耳に届く音や吐息は官兵衛の身体を熱くし、そこをますます張り詰めさせる。
「……お前さん、そいつはわざとか?」
「……ああ」
思わずぼやくと、肯定か気付いたのかは知らないが、政宗は気怠げに官兵衛の肩に預けていた顔を上げる。
それから目を細め、詫びるように官兵衛へ口付けると、
自身が吐き出した精で濡れた指を、自らの秘所に突き入れ、そこを慣らし始めた。
その光景に目を瞠り、官兵衛は再び慌てだす。
「お、おい、何やって……」
「何って……流石に慣らさねぇと入らねぇぞ、こんなもん」
既に芯を持ちその存在を主張しているこんなもんを見下ろし、政宗はやや呆れた様子で応える。
こんなもん呼ばわりされたことはこの際置いておく。
「いや、そうじゃなくて……しょ、小生が、挿れるのか……?」
正しくは挿れさせてもらうのだが、それもこの際置いておく。
その様子に政宗は少し意地悪く笑った。
「……アンタがネコを好むってんなら、別にそれでも構わないぜ?」
「いやそれは……」
経験が無いわけでは無いが、好みを言えばやはり挿れる方が。
いや待て、思考が逸れた。
「いやいや、そうじゃなくてな……お前さん、そこまでやるつもりか?」
てっきり手淫だけだと思っていたので、いや、それのみでも十二分に有り難いことなのだが、
野暮とは知りつつも官兵衛はそう確認する。
野暮に相違ないので、政宗は束の間その顔を顰めたが、今度こそ呆れた顔を隠すことなく、大仰にため息をついた。
「……アンタのそれも性分か?過ぎた卑屈は余計な軽侮を招くぜ」
それから、存外に真面目な顔で窘められたので、普段の軽口もぼやきも出来ずに、官兵衛は言葉を詰まらせた。
その様子を見て、政宗は微笑してその顔を近付け、左の手で官兵衛の頬を撫でながら、右の手で彼の雄を握り込んだ。
「っう……」
短く呻いた官兵衛を目を細めて見遣り、政宗は己の唇を舐めた。
「まあ、アンタがこれで満足なら無理強いはしねぇがな」
言葉とは裏腹に、政宗の隻眼は官兵衛の欲を見透かすように煽ってくる。
その眼の光に容易く煽られ、ぞわりと身体が騒ぎ出した。
だというのに、知らず唇は笑みを形取る。
「……お前さんもなかなか意地が悪いな」
「Ha、どっちがだよ」
どちらとは無しにまた唇を重ね、それが合図となった。
その唇を離してから、政宗は雄を握り込んでいた右の手で、それを受け入れようと再び指を菊座に突き入れた。
時折微かに漏らされるその声は、艶めいていて、戦場で聞いたそれとはまるで違う。
その声に当てられ、股間が更に張り詰めてきたので、
そりゃあそうだと、声に対する感想と己の思考に対してツッコみつつ、
それで幾らか落ち着けようと試みていたところ、
政宗は後孔を侵していた自らの指を引き抜き、息を吐いた。
「ねりぎ」
一言そう呟き、政宗が手の平を上にして右腕を水平に伸ばしたので、官兵衛は訝しげな視線を送る。
が、ややあって、その伸ばした手の平の上に、小さな壺が恭しく置かれるのを目の当たりにして、
官兵衛は目を見開いた。
「え…っ、な、ええっ!?」
小壺に添えられた手をすぐに辿るが、持ち主に辿り着くと同時かその間際で、その姿はかき消えてしまった。
目を瞬かせる官兵衛だったが、政宗はそれに気付かぬまま、少しだけ決まり悪そうに頭を掻く。
「悪ぃな、ネコは俺も暫くやってねぇから、やっぱ厳しかったわ」
そう釈明する政宗と彼の持つ壺に交互に目を遣って、官兵衛は漸く、伊達に仕える忍の存在に思い至る。
大方、主の警護の為、部屋の床下や天井裏にでも潜んでいて、主の命で音もなく現れた、というところだろう。
忍事情に特に詳しい訳でも無いが、風切羽然り、忍ならばこのような奇術めいたことも可能ということか。
「まあ、お殿さんともなりゃあ当然か……」
つまり、部屋の外で控えている者たちも含め、
彼らに、今までとこれからの始終を見聞きされることになる訳なのだが、
当の政宗は別段気にした風もない。
四六時中、行動を見られるなど慣れているのだろうが、情事もその内ということだろうか。
その辺り、流石は殿様だと、官兵衛は妙に感心してしまう。
そんな官兵衛に政宗は小首を傾げていたが、
「ああ、別に邪魔しに来たりはしねぇから、心配すんな」
官兵衛にとっては的外れな返しをしつつも、
官兵衛の適当な相槌に上の空のまま、政宗は別の邪魔を少しだけ危惧した。
が、余程の用でも無い限りはたぶん大丈夫だろうと思い直す。
それから、壺の中の秘薬を指で掬ってそれを菊座に塗りつけ、一気に指を二本挿れる。
「んっ…」
潤滑の為の秘薬だ。その滑りの良さは精液や先走りとは比にならぬ。
思った以上に奥まで指が入り込んで、思わず声が漏れたが、そのまま奥にもねりぎを塗り込んだ。
中で指を広げ解していると、暫くぶりの感触と、
それを己自身の手で行っているというある種の背徳感に、知らず溺れそうになる。
「……なあ、お前さん、やはりそれはわざとだろう?」
それを掬い上げる形で官兵衛がそう声を掛けてきたが、ぼやけた頭ではどうにも思考が働かない。
「……何がだ?」
問えば、その頬が少し赤くなる。
もう一度問うと、答える代わりに焦れた様子で官兵衛は言い捨てた。
「そろそろ小生も限界なんだがな」
「……」
そういうことかと合点して、政宗は右の指を引き抜いた。
まだ十分に慣らされてはいなかったが、まあ何とかなるだろう。
勃ち上がった官兵衛の雄におざなりにねりぎを塗りつけた後、
それを己の菊座に宛がい、ゆっくりと膝を折っていく。
じわりじわりと身を貫いてくる感触と迫り上がってくる異物感に、
無意識に腰が引けているのに気付くが、つまらぬ意地がこのまま引き返してしまうのを阻む。
どちらにも進めなくなり、政宗は官兵衛の首に腕を回し縋り付いた。
「っ、つ、突き上げて、くれっ」
返事の代わりに望んだ通り突き上げられ、半ばまで埋まっていた雄が全て中に収まる。
瞬間、息が詰まったが、途切れ途切れの嬌声を零しながら、力の入らなくなった膝をそのまま折り曲げていく。
「んっ、い、あぁ」
一旦抜けかけたそれが再びゆっくりと貫いていく。
体格相応の大きさの塊が滑った音を立てながら中を広げ、その痛みとも快楽ともつかぬ感覚に堪らず声が漏れた。
「……おい、大丈夫、か?」
埋めていくそれが扱かれるように擦られ、こちらも呻きかけたが、
耳元に届いてくるその声が幾分苦しげだったので、上擦らぬよう注意しつつも官兵衛は思わず声を掛ける。
唇だけで笑うと、政宗は自身の唇を官兵衛の口に押し付けてきた。
その強がる姿に、掛ける言葉を間違えたと気付くが、
別の言葉を探す間に繋がったそこが締め付けられ、思考を持っていかれてしまう。
口が塞がっているので喉の奥で低く呻くと、
満足そうに政宗がその隻眼を細め、更に追い詰めてやろうとその腰を揺らめかせた。
「っく、んん…」
しかし内壁を擦られる感触は同時に政宗自身も追い詰める。
それでも本能と身体は、快楽を求め貪欲にそれを拾い上げようとする。
感じる箇所を掠め、その刺激に身体が強張り、じわりと目に水が込み上げた。
当然それに官兵衛が気付かぬはずもなく、絡め合っていた舌で政宗の唇をなぞると、
わざわざそこを抉るように突き上げてきた。
「あっ」
大きく身動いで重ねていた唇がずれ、熱い吐息が官兵衛の頬を撫でた。
瞬く間に全身に流れる痺れに似た快感に、身体から力が抜け、政宗は官兵衛に凭れかかる。
肩に顔を押し付ける政宗に、官兵衛は少し意地悪く問いかけてみる。
「今のは感じたか、独眼竜?」
「っ…」
悔しさに眉を寄せるが仕返しする間もなく、
政宗の感じどころを掴んだ官兵衛にそこばかりを続けて責められ、反撃もままならない。
抑えきれずに艶声を上げながらも、崩れ落ちそうになるのを堪え、政宗は彼の背に爪を立て官兵衛にしがみつく。
「っん、ん、う、あ」
密着した身体に挟まれた政宗の雄が、先程達したばかりだというのに再び芯を持ち始めている。
先端から零れる透明な液が互いの腹を濡らし、
身動ぐ度に、挟まれた性器が擦られて、その刺激で中に収められた別の性器も締め付けられる。
短く声を漏らしてから、官兵衛は乱れた呼吸を整えつつ、今度は幾らか余裕の無い様子で声を掛けた。
「なあ、もう、出しても、いいか……?」
中で出されるのが嫌ならばこれで退くだろうとおざなりに考えつつも、
最後の刺激が欲しくて、官兵衛は政宗に暇を与えずにもう一度だけ奥を突いた。
「ああっ」
声の調子をひときわ高くして、政宗は顔を上向け啼いた。
その眼から涙すら零し、しがみつく背に爪を立て、中をきゅうと締め付ける。
その全てに押される形で、呻きと共に、官兵衛は抑えに抑えた欲を政宗の中に注ぎ込んだ。
「あ、ああぁ…」
突かれた衝撃と中に満たされる体液の熱さに、
喉を仰け反らせたまま、政宗は小刻みに身を震わせた。
悦楽に溺れ、その顔を淫靡に歪めていると言うのに、
片眼から水を流し天を仰ぐ様はどこか清廉で美しくもある。
矛盾した感情に戸惑いながらも、官兵衛はそこに彼が独眼竜と呼ばれる所以を垣間見た気がした。
地に墜ちたこの竜の、蛇にも似たその瞳が映すものは遙か遠く、星より先の天の上。
たとえ地の底で出遭ったモノに幾ばくかの興味を覚えたとしても、その心を寄せるまではするまい。
再び天に昇れば、その身に付いた土など払い落としてしまうだろう。
だがそれは、少しばかり寂しいな。
至った感情に苦笑して、官兵衛はゆるゆると腰を動かし、政宗の二度目の吐精を促した。
官兵衛に促され、自らの手で握り込み、二、三度繰り返し扱いて、
そうして吐き出した精が二人の腹の上に散り彼らの着物を汚す。
脱力と共に、辛うじて立てていた政宗の膝が崩れ、中に収まったままの雄に奥を突かれた。
「ん、あっ」
力の抜けた身体は異物の侵入を拒めない。
易々と奥を抉られ、過敏になった全身がそれを感じ取る。
支えを求め泳いでいた手が何度か官兵衛の身体に当たった後空を切り、政宗の身体が傾いた。
その政宗に巻き込まれる形で官兵衛も体勢を崩し、折り重なって倒れ込むが、そのまま尚も唇を求め合う。
息を乱し、時折くぐもった声や嬌声を漏らしながらも、噛み付くように夢中で唇を吸い合った。
「んっ、っう」
動かされているのか自ら腰を振っているのかは知らないが、
上からも下からも聞こえてくる淫猥な水音に蕩けてしまいそうだ。
しかし、息を継ぐ合間に閉じていた目蓋をふと開き、何とは無しに官兵衛を窺い見る。
同じくして開いた官兵衛の目とかち合い、呆けた頭ながら少し考える。
彼の瞳に浮かぶ不屈と野望は、己と似ているはずなのにどこか違う。
敗北は同じ、目指すものも恐らく同じ、
だというのに、決して噛み合わぬであろうこの違いは何だろうか。
「な、ぁ…アンタ……」
目尻に留まったままの水で滲んだ竜の瞳が微かに揺らぐ。
少し掠れた声が紡ぐ言の葉に孕んだ迷いに、この男は気付いているだろうか。
思いながらも官兵衛は、政宗が続きの葉を紡ぐのをただ待つに留める。
「……何、で俺を、殺さなかった……?」
その言の葉に、まず官兵衛が僅かに目を瞠り、次いで政宗自身が驚いた。
咄嗟に取り繕いかけるが、弛緩した唇は何の言も紡げない。
睦言にそぐわぬそれは、思案と疑問と矜持と仄かな期待すら綯い交ぜにしながらも、紛れもなく政宗の本音であり、
そしてこの男は、歯痒いことに、それに正しく気付く程に賢しいのだ。
本陣で待つ政宗が先にその視界に入れたのは、彼の信頼厚い右目の姿ではなく、
巨大な鉄球を引き摺る大男と威勢だけは立派な老爺の姿だ。
右目の生死の報せが未だ届いていないならば、己の右目は、討たれたのだ。
地の利も何も無い軍が、副将へ止めを刺さぬ理由はどこにも無い。
分断を狙った誘いに乗る以上、囲まれる手数を増やす愚を冒すなど。
まして天下を目指すならば尚更。
だと言うに、打ち破った己を前にして、男は間際までの冷酷な瞳も殺気も消し去った。
己の矜持も屈辱も頓着せずに、
わざわざ見逃した右目が引き連れた手勢を前にしてすら、悠然と、かと思えばどこか気怠げで。
しかし足下の大将首さえ利用せず。これでどうして、突破できると踏んだのか。
不運を嘆き不屈を抱き野望を胸に。
負けを誇り、そうして終には勝ちを得る。
ああ分からない。この男は、一体何なのだ。
憤りも生死の是非も忘れる程の、頂の無い敗北感。
招いた切っ掛けはつまらぬ矜持か拙い反抗か、或いは彼の未知への単なる興味か。
結局どれかは分からぬが、結果は、不可思議なこの男をもっと知りたいと、その逆もあればと、
それが己を殺さなかった理由やも知れぬと、童の儘と何ら変わらぬ愚かな末路だ。
そして遂には呑まれ溺れ、自ら足を開いて抱かれてよがるなど、何という無様か。
「……そうだなぁ……」
暫し黙り込んだ末に呟かれた官兵衛の声に、政宗は我に返る。
そうして政宗と同じく言い淀んだ官兵衛に、意識せぬまま政宗は縋るような目を向けた。
その目に気付き、やはり合わせ鏡のようだと官兵衛は思う。
己の卑屈を窘めながら、考え過ぎた先に至った竜の思考は紛れもなく自虐だ。
竜の呼び名ありながら、敵の情けでその命を拾われたと思うことも、
その敵の卑屈故の拒絶を自らの非と見なし傷つくのも、
自らの思考の深みに嵌り、惑っているだけだ。
己など、束の間地に臥しただけの独眼竜がそこまで重きを置く程の者でもあるまいに。
ああ、これも卑屈になるのか。やはり厄介なもんだ。
「……理由なら、まあ色々とあるが……」
今更全て語るは無粋だが、語らず躱すには情が移り過ぎている。
頭でも背でも叩いて宥めてやれればいいが、出来ぬこの身がやはり口惜しい。
さて、皮肉ばかりを紡ぐこの口は、如何様に身の代わりを果たせるか。
「……小生は、人殺しと後悔が嫌いでね」
「……」
"人殺し"は拙かったか。
嘘では無くとも己然り、誰も彼もに符合する。
微かな動揺をその隻眼に浮かべ、訝しげに官兵衛を見つめてくる政宗に、官兵衛は少し慌て、そんな己にまた苦笑する。
そうして官兵衛は言葉を継いだ。
「だからな、今は、本当に良かったと思っているんだ」
このツキの無い人生の中で、どちらも無しで済んだのだ。
これ程の幸運は無いと、今なればそう思えよう。
言の葉を量り取り、気付いて政宗は文字通り固まった。
それから直ぐさま左手で覆われ視界が暗くなったが、
間際に見えたその顔が朱に染まっていることだけは官兵衛にも確かめられた。
それが何やら嬉しくて、照れ臭さも相まって、ついつい官兵衛は笑みを零してしまうが、
馬鹿にされたと取った政宗にもう片方の手で結局頭を叩かれる。
拍子に身動いで、未だ繋がったままの身に走った刺激で両者共に声を漏らしてしまったが、
政宗の方は、紅潮させたその頬を意地でも見られまいと、官兵衛の視界を塞ぐその手を外しはしなかった。
「……生憎、暗がりはもうこりごりだ。お前さんの気が済んだら外してくれよ?」
しかし、言ったこちらも気恥ずかしいことに違いはない。
零れそうになる笑いと照れを抑え、官兵衛は常と同じく軽口を叩いた。