犬と勝負
犬に好かれてしまった。人懐こいというよりは、暑苦しい犬に。
抱き寄せられ、頬に手を添えられると、熱い体温が伝わってくる。
「暑い…」
呟くと、それを遮るように、口付けられた。
舌が入り込んできて、自分の舌と絡められる。
その熱さに、頭がくらくらしてきた。
「…ん…」
吐息のように声を漏らすと、名残惜しげに政宗の唇を一舐めしてから、幸村は唇を離した。
閉じていた目を開くと、こちらを見つめていた幸村と目が合った。
幸村が嬉しそうに微笑む。
つられて笑ってしまった後、呆れ混じりに呟いた。
「……俺も絆されたもんだ…」
だがそれも悪くない、と思ってしまうのだから、重症だ。
着物をずらし、晒された政宗の首元に幸村は顔を近付け、唇を寄せた。
強く吸って痕をつけた場所に、軽く噛み付く。
「…って…」
一瞬だけ走った痛みに政宗が短く声を上げると、
幸村は労るように、噛み付いた場所を舌で撫でた。
くすぐったさに、政宗は小さく身を捩る。
「…嫌になられましたか?」
尋ねる言葉とは裏腹に、その瞳には不安も焦りの影もない。
「…Ha…」
随分と、意地の悪いことを言うようになったものだ。
互いに、ここで止めるつもりがないことは分かっている。
要は、求める言葉を言わせたいのだろう。
いいぜ、言ってやるさ。
「冗談、もっとやれよ」
ただし、てめぇの優位にはさせてやらねぇ。
皮肉げに唇の端を上げ、見上げてくる政宗に、幸村の身体が熱くなる。
昂る身体を抑え、幸村は苦笑した。
「…政宗殿には、敵いませぬな」
幸村の言葉に、政宗は満足そうに笑う。
「good、良い子だ」
艶やかな瞳と流れるような仕草に、幸村は引き込まれ、
誘うその手の促すままに、政宗の着物を剥ぎ取った。
着物から覗いた肌は白く、肉体は無駄なく引き締まっている。
戦でついたのか、ところどころに傷痕が見えるが、それら全てに引きつけられる。
「…何見てんだよ?」
初めて見た訳ではなかったが、思わず見入ってしまっていると、
やや不機嫌そうな声がかかる。
「…お綺麗にございます…」
だから見とれていた、と素直に伝えると、そういうことは女にでも言え、と頭を叩かれた。
「come on」
異国の言葉は幸村には理解できなかったが、
政宗の手が幸村の首に回され、そのまま引き寄せられた。
促され、幸村はもう一度政宗の唇に口付けた。
半分開かれた唇から舌を差し入れ、
自分からねだってきたり、時には逃げたりする舌を追いかけ、絡める。
存分に口中を貪った後、唇を離した。
胸に目をやって、幸村は今度は両の突起の片方を摘んでみた。
「痛っ…」
思ったよりも力が入ってしまったらしく、政宗の声は本気で痛がっていた。
手を離し、見上げると政宗が幸村を睨み付けていた。
「この、馬鹿力」
罵られ、それに謝罪した後、それならばと唇を寄せ、吸ってみた。
「んっ…」
今度は声に痛みは含まれていないようなので、幸村はそのまま、舌で転がしながら愛撫を続けた。
「…っあ……」
次第に声が濡れてきた。
幸村はもう片方にも手を伸ばし、今度はそっとそこに触れた。
舌の代わりに指で転がし、吸う代わりにぐりぐりと押しつけ、刺激した。
「…あぁ…っ」
自分の手で乱れてきた政宗に、幸村は軽い興奮を覚えた。
熱が身体中を駆けめぐり始め、その中心はすぐにでも貫ける程に勃ちあがってきた。
しかし、まだ慣らしてもいないのに、いきなり挿れるのは流石に躊躇われる。
乳首に触れていた手を下に向かわせ、その付け根をそっと包み込む。
「…っん」
政宗がびくりと身動いだ。
乳首に吸い付き、舌で再びそれを転がしながら、付け根に触れた手を何度か上下に動かす。
同時の刺激に政宗の喘ぐ声が高くなった。
閉じていた目蓋を開き、政宗は胸元に顔を埋める幸村に目を落とす。
胸に吸い付くその行為は、赤子のそれと変わらぬが、
実際そんな可愛らしいものじゃない。
どちらかというと、アレだ。
「…やっぱ、犬…だな」
呟いた声は、犬呼ばわりされた本人にも聞こえていたようで、
幸村は口を離して、政宗を見上げた。
その表情は複雑そうで、それが可笑しかった。
頬を朱に染め、乱れた息で、それでも笑みを零す政宗に、
幸村は一瞬だけ拗ねたように眉を寄せた。
政宗にはそれがまた可笑しかった。
不意に付け根を包み込んでいた手に力が込められ、走った刺激に政宗は声を上げた。
思わず閉じてしまった目を開け、幸村を再び見下ろすと、相も変わらず複雑そうな表情だった。
「……ならば、それでも構いませぬよ…」
「…?」
言わんとしている意味が分からず、政宗は眉を寄せる。
そんな政宗に触れるだけの口付けをした後、幸村は身体を屈めた。
「…幸村…?」
怪訝そうな政宗の膝の裏を掴んで開かせると、
幸村はその間に顔を埋めて、勃ちあがりかけたそれを口に含んだ。
「…バ、バカ、お前っ…!」
慌てて引きかける腰に手を回し、幸村はそれを留めた。
銜えたそれに舌を這わせる。
「んんっ……!」
根元から舐め上げ、先端に軽く噛み付く。
根元の両端の袋は手でやや乱暴に揉みしだいた。
「う…あっ…」
声は抑えることが出来なくなり始め、政宗の喘ぐ声が幸村を更に駆り立てた。
先端からの先走りを舐め取って拡げ、舌の動きがますます滑らかになる。
濡れた声はひっきりなしに漏らされた。
「…んっ…!」
腿が小刻みに震えてきた。
意識が朦朧としてくるのに、銜えられたそこだけが敏感に反応する。
やばい。
いい加減やばい。
限界きそう。
でもこのまま出すのは、嫌だ。
「幸村っ、ちょ、離…れろ!」
意識を奮い立たせ、何とか腕を動かして、政宗は幸村の頭を掴んで引き離そうとする。
「も、もうしばし…」
口に含んだまま、幸村はくぐもった声でそう答えた。
間近で言われるものだから、それすら刺激となる。
馬鹿、もう少しなのは俺の方だ。
「…あっ…や、めろ…っ!」
偶然触れた幸村の、後ろで結ばれた長髪を引っ張った。
拍子に、無意識にか堪えようと幸村に歯を立てられ、鋭い刺激に襲われた。
「ひあぁっ――!!」
悲鳴にも似た喘ぎ声を上げ、銜えられたそれの先端から白濁を吐き出した。
その勢いに一瞬眉を寄せ、短く唸ったが、
幸村は喉を鳴らして全て飲み込み、飲み込みきれずに口端から零れた白濁をぺろりと舐めた。
脱力して、政宗は後ろに倒れこむ。
息を切らしながら幸村を見上げ、だるい腕を持ち上げて、指で幸村を手招きする。
「はい?」
首を傾げた後、幸村は促されるままに政宗の上に覆い被さり、顔を近付けた。
「…余計なこと、すんじゃねぇよ」
途切れがちではあるが、そう言って、政宗は幸村の頭を横から拳で殴りつけた。
ただし、力が入らないので威力はほとんどなかったが。
幸村は、幾分不満そうに言い返した。
「……犬は、舐めるものでござろう…?」
「……」
何だ、拗ねてんのか。
ため息をつき、政宗は苦笑を漏らしながら、今度は指で幸村の額をぐぐと押す。
「犬は言うこと聞くもんだぜ」
その切り返しに、幸村はしばし言葉を詰まらせる。
言い返してはみたものの、元より口では政宗に敵わぬことなど承知の上だ。
額を押すその手に触れて、そっと離させる。
「……ならば、政宗殿は何をお望みでござるか?」
諦めてそう問う。
政宗は少し考えてから、唇だけで笑った。
「アンタはどうしたい?」
「……」
挑戦的な瞳が幸村を射す。
それは嘲りも含まれているようで、
お前の浅ましい欲望など、とうに見抜いている、と言われているようだった。
黙っていると、政宗の手が動いて、脱げかけた着物の上から熱の中心を掴まれる。
短く声を漏らし、幸村は走った刺激に眉を寄せる。
「これを俺に突っ込みたいんだろ?」
あけすけにそう言われ、それが事実である故に、幸村の頬が赤く染まる。
すると政宗は、掴んでいた手を離し、その手で幸村の鼻を摘んだ。
「…破廉恥だろうが、鼻血は出すなよ、you see?」
出したら、斬る。
と半ば本気の目で言われ、幸村はこくこくと頷くしかない。
必ずだからな、と念を押した後、政宗は漸く手を離した。
そして、彼にしては珍しく、やんわりと笑った。
馬鹿正直なだけの、自分とは正反対の暑苦しい犬だから、
何も考えを巡らせずにすむ。
疑わずとも良いのだ。
脱げかけた幸村の着物に手を掛け、ずらす。
自分だけ脱いでいるのは不公平だ、という子供じみた意地だ。
まあ、相手はコイツだし。
「come on、来な」
ただし、絶対慣らしてから挿れろよ、と付け加えた。
前に慣らしもせずに挿れられたことを、まだ根に持っているのだ。
政宗の両脚を開かせてから、幸村は指を口に含み、唾液で十分に濡らす。
濡れた手で後孔に触れ、指を一つ差し入れた。
「いっ……!」
指の動きは荒々しく、痛みと異物感に政宗は顔を歪めた。
「う、あっ、もっと…ゆっくり……っ!」
訴えるが、幸村の方も力加減を調節できないようで、中で乱暴に動かされる。
入り口を無理矢理拡げようと、まだ慣らされてもいないのに、指がもう一つ入り込んできた。
「い、て……っ」
幸村の肩を掴み、悲鳴混じりで声を上げると、
漸く政宗が痛がっていることに気付き、幸村は慌てて指を抜いた。
鈍痛はやや残るが、異物感がなくなって、政宗は息を吐いた。
「…ま、政宗殿、すみませぬ。
某、まだまだ未熟故」
「……ハ…」
この状況で謝るか、こいつは。
律儀というか、空気が読めないというか、政宗としては、呆れて笑うしかない。
「…かくなる上は……」
幸村は政宗の開いた脚を持ち上げると、
その間に顔を埋め、先程掻き回して赤くなったそこに舌を這わせた。
「おまえっ、また……っ!」
政宗は今度こそ腰を引こうとするが、
幸村の方も今度も逃すまいと脚を掴む手に力を入れる。
指で引っ掻き回していたそこを、労るように舌で舐め、時に中に侵入させた。
「う…っん…っ」
犬は犬なりに考えたらしい。
確かに無骨な指を挿れられていた時よりも痛みはない。
しかし、なんというか、むず痒い。
柔らかく熱い舌でゆるゆると刺激を与えられる。
力の抜けた入り口から中に舌が押し込まれ、中を広げようと上に下にと動かされた。
指よりもそれはかなり優しく、先程までは乱暴にされていたものだから、
却って、もの欲しげに腰が動いてしまう。
舌は熱く、柔らかい。
それが焦れったい。
もっと熱く、固いもので、奥まで突き刺して欲しい。
「ゆ、幸、村…っ」
絶え絶えに幸村を呼ぶが、幸村の耳には届いていない。
幸村の方も焦っていた。
濡れた声が聞こえるので、政宗はもう痛がってはいないはずだ。
その声にますます興奮させられる。
自分も限界が近い。
政宗のように一度出してもいないのだ。
正直なところ、早く挿れてしまいたい。
「ま、政宗殿……」
しかし、以前、己の突っ走りが原因で、
情事後、政宗に四分の三殺しの目に合ったことのある幸村としては、
また暴走するわけにもいかない。
「そ、そろそろ、よろしいでござるか…?」
辛うじてギリギリ己を抑え、幸村は政宗に尋ねた。
そのように躾たのは、他ならぬ政宗なのだが、今はそれも焦れったい。
「は、早く…しろっ」
余裕がないというのに、変わらぬ命令口調で許可され、
幸村のギリギリの理性は、とうとうブツンと切れた。
息も荒く、張りつめすぎたものを後孔にあてがい、一気に突き刺した。
「うああっ!!」
悲鳴を上げ、反射的に身を捩ろうとする政宗を幸村は押さえ付ける。
元々挿れるようにはできていないそこは、きつく締め付けてきた。
眉を寄せ、締め付けるそこを拡げようと、幸村は腰を動かす。
「あ、あ、あ」
政宗はその動きに合わせるように声を漏らし、
苦痛からか幸村の背に腕を回して、縋り付いてきた。
「ゆ、きっ…あっ」
苦痛と圧迫感がそれでも次第に快楽へと変わっていく。
ぐちゅぐちゅと濡れた音を出し、感じるところを刺され、嬌声が零れる。
貫くそれも、己の身体も、全てが熱かった。
「政宗殿、政宗殿…」
乱れた姿と呼吸の政宗に顔を近付け、
幸村は熱い息が漏れる政宗のその唇を塞いだ。
舌を入れ、歯列をなぞり、その唇を貪り吸う。
そして腰を進め、最奥を突き刺した。
声を上げ、政宗が身動ぎし、後孔を貫くそれを俄に締め付けた。
眉を寄せ、短く声を漏らした後、幸村が達した。
中に出された白濁の勢いに、ひときわ高い濡れ声を上げ、
政宗もまた精を吐き出した。
もう動かない。
もう動けない。
だるい、キツイ。
もう寝たい。
いやいやそういう意味じゃなくて。
本当の意味で、寝たい。
睡眠の方。
「政宗殿ぉ、愛しゅうござります〜」
それなのに、いや、そのせいか。
どっちにしろ、最悪だ。
「…るせぇよ」
倦怠感か本当の疲労かは分からないが、政宗にろくな抵抗が無いものだから、
ここぞとばかりに幸村は、しっかりと政宗をその腕の中で抱き締める。
身体が動かないので、政宗はされるがままだ。
そんな状況に腹が立つ。
「政宗殿ぉ、政宗殿ぉ」
政宗に幸村が顔をすり寄せてくる。
その面を殴ってやりたい。
このデカ犬め。
「政宗殿」
呼びかけて、幸村はそっと唇を重ねた。
触れるだけの口付けだった。
その後、幸せそうに締まりのない顔で笑った。
「……」
それに頭の中の罵詈雑言が幾らか勢いを削がれた。
言ってやりたいことも、手も出したいのだが、どうせ今は無理だ。
そう思うことにする。
「……やれやれ」
大げさにため息をつき、
大儀そうに幸村の頭を軽く二、三度叩いてから、政宗は諦めたように言った。
ほとんど負け惜しみだ。
「……起きたら、しっかり躾てやるからな」
直後、政宗は重くなった瞼を閉じる。
「政宗殿?」
「……」
ほとんど気を失うに近かった。
政宗は既に眠りの中。
「……」
普段決して、寝ている姿など見せない彼が、今こうして自分の腕の中で眠っている。
それが疲労からであっても、
こうして身を任せてくれるということは、
少しは自分を信用してくれているらしい。
「ゆるりとお休み下され」
脱げた羽織を引き寄せて、政宗と自分に掛けた後、
その腕にしかと抱き、幸村も目を閉じた。